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最終更新日:2023.06.14 公開日:2020.12.21

『イタリア発 大矢アキオの今日もクルマでアンディアーモ!』第11回 捨てたの? まだ乗るの? 放置される悩ましいクルマたち

イタリア在住のコラムニスト、大矢アキオがヨーロッパのクルマ事情についてアレコレ語る人気連載コラム。第11回は、なかなか減らない放置車両の問題について。

文と写真・大矢アキオ(Akio Lorenzo OYA)

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掲載する写真は、過去数か月の間に筆者が撮影したスナップから。スーパーのお客様専用駐車場に放置されて久しいデーウ・マティス。

放置がなくならない理由

イタリアで生活している筆者が、新型コロナウィルス感染の拡大にともない以前に増して気になるようになったものがある。それが「放置車両」だ。なぜかについては、のちほど説明したい。

新型コロナ以前から、イタリアでは放置車両をたびたび見かけてきた。公共駐車場、スーパーの駐車場、果ては空港パーキングまで、あらゆるところで目につく。同時に、それらの多くは、何年経過しても撤去されない。

駐車台数が極めて限られている場所で、約束の時間が迫っているときにそうした車両を発見すると、「あの放置グルマさえいなければ ! 」と怒りさえこみ上げてくる。そこで、自動車関連の法律にも詳しい、連載第4回に登場した民間車検場経営者パオロさんに聞いてみた。

彼によると、自動車の放棄は「環境法による処罰の対象だ」と話す。気になるのは、放置車の多くはナンバープレート(自動車登録番号標)付きであることだ。

「たとえ所有者が放置しても、登録抹消し、かつ自動車登録番号標を返納していないかぎり、自動車税の納税義務がある。同時に、常に当局によって追跡される可能性はあるよ」とパオロさん。ただし「所有者が警察に盗難届を出したあと、登録抹消を申請した場合、納税義務は消滅する」という。逆にいえば、ナンバー付き車両の多さは、放置車両に盗難車が少なくないことを物語っている。

タイヤの空気が抜けた北米製クライスラー300Cワゴン。高額な税金を含め維持費に耐えかねたか。今回紹介するクルマの写真は、いずれもナンバープレートが付けられたままである。

スーパーの近く。このランチア・イプシロンもここに居座って長い。

 いっぽうで、実際には地元ナンバーの車両、つまり盗難車というよりも県内のユーザーが放置したと思われる車両も数々見かける。さらに何年も放置されたまま片付けられていない車をよく見かける。なぜ行政当局は彼らを放置するのか?

「当局が所有者を起訴することがあるが、それは極めてまれだからだ」とパオロさんは話す。そしてこう続けた。「回収および司法に関わる諸費用をかけたくないからだ。公共の利益という観点からすれば、彼らの義務なのだがね」。

その困難さは「ローマ・トゥデイ」電子版が、ローマ市警察関係者の話として2015年7月14日に配信した記事も証明している。まず、警察官は保険の期限切れ、周辺の草の生え方、タイヤのパンク、走行に必要な部品の欠如などをもって、放置車両かを判別する。ただし補足すれば、かつてイタリアでは長年にわたり保険加入済を示すカードを窓ガラス内側に掲示しておく義務があったが、2015年をもって廃止された。よって「保険の期限切れ」で判断することは困難になっている。

「ローマ・トゥデイ」の解説を続けると、その後、ナンバープレートをもとに陸運局に照会。所有者に5日以内の撤去通知を命令する。しかし、イタリアでは郵送に5日以上かかることは頻繁にある。そのため法律上は、車両の実地検分を再度実施しなければならない。

また所有者が他の自治体に転居していた場合データベースで追跡するのは簡単でなく、さらに所有者死亡で相続が生じていた場合、さらに面倒なことになるという。

これを読むと、行政が放置車両をなかなか撤去しない理由がおのずとわかってくる。日本の「空き家放置」に近い問題なのだ。ユーザー側からいえば、たとえナンバーを返納しなくても、行政手続きが追いつかないことから自動車税の督促状が舞い込むことは稀である。かつ、他地域に引っ越してしまえば、さらに逃れることができるのである。

地下駐車場でガラスが割られたランチア・イプシロン。

「ダメだこりゃ」な理由

イタリアでは、私有地における放置車両もたびたび見かける。これも撤去がかなり面倒だ。公共の場所と同じく環境法が適用されるが、市長の命令が必要で、これまた煩雑な行政手続きを必要とする。

そういう我が家が住むレジデンスの地下駐車場にも、1台の小型車がナンバープレート付きで放置されている。車両自体はそれほど古くないのだが、埃のかぶり具合と粉々に割られたサイドウインドウがヤバい感を増幅させている。

そのクルマ、気がつけば放置されてほぼ1年近くになるが、誰も指摘しないらしく管理業者も動かない。筆者も諦めている。なぜなら実は、もっと憂うべき一件があったからだ。

2019年夏のことであった。同じ地下駐車場に「人が住み始めた」のである。見知らぬ中年男性が、毎晩クルマでやってきては車中泊し始めたのだ。もとはいえば誰でもクルマで入れる構造がいけないのだが、すぐにゲートを付けてくれといっても望み薄だ。

そこで市警察のパトロールカーが近所に来たときに声をかけ、状況を伝えた。しかし乗務している彼らは「(男性がいることは)知っている」と言ったものの、何日たっても一向に解決しない。同じ館内に住む憲兵に相談しても「危険な人物ではなさそうだ」で終わってしまった。

ヴェスパ(左)、3輪トラック・アペ(右)。

 話を戻せば、たとえ人間であってもこのような対応であるから、放置されたクルマなどは後回しになることは目に見えているのである。昔のコントでいうところの「ダメだこりゃ」である。

なお、筆者が以前取材したある自動車オーナーは、かつて病院の駐車場に放置されていた希少なクルマを発見し手に入れてしまった。彼が病院長に確認したところ、即入院となったあと不幸にも亡くなってしまったお年寄りのもので「持ってっていいよ」ということになったらしい。

ただし、これはこちらでも明らかな脱法行為である。法律的に所有権の移転は行政によって行われるものであるからだ。

スクーターもある。公共駐車場に放置されたヤマハ・マジェスティ。

蘇るクルマたちも

放置車両といえば、筆者が住むシエナの郊外にある解体工場近くでは必ずといっていいほど、いつも何らかの捨てられたクルマを発見することができる。

一般的に70〜150ユーロ(約8,800〜19,000円)を要する解体費用を節約したかったのか、盗難車か、それとも前述のように行政による追跡に時間を要することを逆手にとったものかは不明だ。

しかし、解体工場が中古部品の販売も行っていて人々の来訪が絶えない。そのため、いわば放置車両は「ご自由に(パーツを)お取りください」状態になっていることも事実だ。

いっぽう一見「放置車両?」と思うクルマでも、実はそうでない例もある。畑の片隅などで物置きや犬小屋代わりになっているものだ。日本の農村部などでも、ときおり見られる、あれだ。

解体工場前に放置されたフィアット・プントとスズキ・ワゴンR+。奥には「不法投棄禁止」の注意書きがあるのだが。

 さて、冒頭で新型コロナウィルス拡大にともなって、放置車両が目につくようになった、と記した理由を説明しよう。

イタリアでは2020年3月から5月にかけて外出規制および移動制限が実施された。周辺の青空駐車場は、一気に閑散とした。そして本稿を執筆時点の12月も、筆者が住むトスカーナ州はふたたび同様の制限対象地域となった。ふたたび街中の駐車場からクルマが消えた。そうしたとき、あぶりだしのように放置車両が残るのである。

それを見事に証明する数字がある。「ラ・レップブリカ」電子版2020年8月10日付は、北西部ジェノヴァにおける放置自動車回収台数を伝えている。地元市警察の統計だ。それによると、2017年には577台、2018年には671台、2019年には910台と年々増加している。加えて2020年は、最初の半年だけで600台を回収した。新型コロナによる企業の倒産、個人の自己破産、修理費用不足などが原因とみられるという。

そうしたなか、我が家の目の前の青空駐車場にも1台の赤いハッチバック車が放置されているのを発見したのは、第1回移動制限のときだ。暖かくなる季節に合わせるかのように、クルマの下に雑草が育ち始めたのを見て、「ああ、また放置車両誕生か」と思ったものだ。

ところが外出制限解除後しばらくすると消えているではないか。そればかりか、そのクルマが頻繁に走りまわってるのを目撃するようになった。明らかに外国人ドライバーであることからして制限開始直前、慌ててクルマを放置して母国に帰った、もしくは同胞がいる場所に赴いたのだろう。なにしろ第1回のときは、この先どのくらいイタリアを離れられなくなるのか誰も見当がつかなったのだ。

スクールバス。払い下げ車両を手に入れたものの、改造の目処がたたなかったか。

 こんなこともあった。商店街の駐車場にタイヤの空気が無残に抜けてへたり込んだコンパクトカーを見つけた。ところがしばらくすると、そのクルマに「VENDESI=売りたし」の札が掲げられているのではないか。「売るなら空気くらい入れとけよ」と思ったものだ。

そして、ふたたび同じ場所に赴くと、今度は「売りたし」の札が取られ、タイヤもきちん空気が入れられていた。持ち主が思い直し、ふたたびそのクルマと暮らすことにしたと想像すると、ほっこりした気持ちになった。

この時期、通常に輪をかけるかたちで遅れがちな放置車両対応行政のおかげで、生き延びたクルマは多かったのではないか? そう思えてきた今日このごろである。

タイヤの空気が抜けたプジョー1007。以前にも増して、使っているのかいないのか判断に困るクルマが増えてきた。

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