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最終更新日:2023.06.16 公開日:2020.12.07

宇宙に一番近いクルマたち「NASA編」。ロケットもシャトルも運搬はお任せ!

ロケットやスペースシャトル(2011年引退)など、宇宙を目指す乗り物は、トレーラーや特別な運搬車の力を借りて初めて宇宙を目指して飛び立つことができる。ここでは、NASAの巨大なロケットやスペースシャトルを運ぶ巨大な運搬車などを紹介する。

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引退したスペースシャトル(エンデバー号)を牽引するトヨタの大型ピックアップトラック「タンドラ」。

 ロケットやスペースシャトルなど、誰でもテレビなどでそのリフトオフの瞬間を見たことがあるはずだ。カウントゼロとともに爆炎を噴き出しながら、轟音とともに宇宙へと向かって力強く飛んで行く様子は迫力がある。

しかし、ロケットもスペースシャトルも当然だが、最初から発射場(射点)で組み立てや整備が行われているわけではない。まずはメーカーの工場で製造された各パーツを巨大な組立・整備棟へと運び込み、そこでロケットの場合は立てた状態で組み立て作業が行われる。シャトルの場合は整備が行われたあと、最終的に立てた状態にされる。そしてあとは燃料を入れ、最終点検して宇宙飛行士が乗り込めば発射可能、という状態にしてから発射場まで運搬される。

つまり、ロケットやスペースシャトルが宇宙へ向かって飛び立てるのも、大型のパーツを輸送するトレーラーや、完成したロケットや整備を終えたスペースシャトルを発射場まで運ぶ特殊運搬車両の活躍があってこそ可能なのである。

アポロ計画時代から運搬を担ってきた特殊車両の新型「クローラー・トランスポーター2」

画像1。NASAの新型「クローラー・トランスポーター2」を上方から。

画像2。クローラー・トランスポーター2の運転席は右側にある。左側面にいる人物と比較するとその巨大さがわかる。

 アポロ計画で開発された大型ロケット「サターンV(ファイブ)」や、スペースシャトルなど、1960年代からNASAの数々の宇宙機を組立・整備棟から発射場まで運搬したのが、「クローラー・トランスポーター」で、現在はその新型の「クローラー・トランスポーター2」が配備されている(画像1・2)。

「クローラー・トランスポーター2」は、建機のような無限軌道を備えた車両が4台ワンセットで、ひとつのプラットフォームを支えるような構成が特徴だ。そのプラットフォーム上にロケットやスペースシャトルをセットした「モバイル・ランチャー」(移動式発射台)を搭載し、発射場まで運ぶのである(画像3)。

画像3。ケネディ宇宙センターでのクローラー・トランスポーターでモバイル・ランチャーを39B射点まで運搬するテストの様子。モバイル・ランチャーの高さは115m強。

 最新のモバイル・ランチャーは、火星有人飛行も視野に入れて開発中の有人ロケット「SLS(スペース・ローンチ・システム)」用として新たに開発された(画像4)。そのため、クローラー・トランスポーターも「クローラー・トランスポーター2」が新たに登場。クローラー・トランスポーター2は、モバイル・ランチャーの重量7600トン弱と、SLSの1600トン強、合計9200トン弱を運搬する。そのスペックは以下の通りだ。

全長×全幅:約40×約35m(131×114フィート)
全高:約6~約8m(20~26フィート)
車重:約2993トン(約660万ポンド)
速度:時速1.6~3.2km(時速1~2マイル)
可搬重量:移動式発射台・約7589トン+SLS約1607トン
エンジン:ディーゼル・16気筒(2基搭載)
最大出力:2750馬力(2基合計)
トラクションモーター:375馬力×4

画像4。新型ロケットのSLSを搭載したモバイル・ランチャーを運搬するクローラー・トランスポーター2。

画像5。旧型のモバイル・ランチャーに搭載されたスペースシャトルと、それを運搬する旧型のクローラー・トランスポーター。

スペースX社のロケット「ファルコン9」は寝かせた状態で運搬

日本時間11月16日に、JAXAの野口聡一宇宙飛行士を乗せた「クルードラゴン」宇宙船を搭載して、ケネディ宇宙センターから打ち上げられたスペースX社のロケット「ファルコン9」。スペースシャトルの引退後、有人飛行はすべてロシアのソユーズに頼ってきたが、約9年ぶりに米国製ロケットがケネディ宇宙センターから打ち上げられた。

ファルコンXは、ケネディ宇宙センターの発射場のひとつである「39A射点」から打ち上げられたが、そこまでの輸送は画像6の通り、寝かせた状態で行われた。NASAのロケットとは異なり、発射台で直立させる方式を採用しているようだ。ファルコン9用のキャリアーは、航空機を牽引するトーイングカーのような車両が担当しているのが見て取れる。

画像6。ケネディ宇宙センターの39A発射台に向けて輸送されるファルコン9ロケット。先端に接続されているのがクルードラゴン宇宙船。第1号に野口聡一宇宙飛行士が乗り込んで11月16日に打ち上げられ、翌日、無事国際宇宙ステーションに到着した。

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ロケットのパーツが輸送される様子を紹介

ロケットエンジンなどの巨大パーツを運搬するトレーラーたち

続いては、NASAにロケットの各種パーツや宇宙船が運び込まれる様子を紹介(画像7~10)。全米各地の製造工場から大型トレーラーに載せられ、NASAのケネディ宇宙センターに輸送され、そこで組み立てられるのである。

画像7。搬送されるSLSのロケットエンジンの1基。むき出しのまま輸送するようだ。

画像8。NASAの無人ロケット「アトラスV(ファイブ)」のブースター。トレーラーに載せるというよりは、ブースターを車体の一部のようにして輸送している。

画像9。SLSロケットの外装パーツの一部(アダプター)。こちらはエンジンとは異なり、梱包されている。

画像10。SLSロケットに搭載される宇宙船オリオン。ここに宇宙飛行士が搭乗し、まずは月を目指す。

引退したスペースシャトルを牽引した「タンドラ」

画像11。2011年にすべて引退したスペースシャトル。その1機であるエンデバー号をトヨタ「タンドラ」が牽引した。

 最後は、引退したスペースシャトルを牽引したトヨタ「タンドラ」を紹介。スペースシャトルは1981年の初飛行から2011年7月の引退まで、全135回のフライトが行われた。5号機「エンデバー号」は、2011年6月の134回目のフライト(STS-134)から帰還して引退。その後、”再就職先”として、カリフォルニア・サイエンス・センターでの展示が決定した。輸送は2012年10月に行われ、サンフランシスコ空港まで専用のジャンボジェットの上に親子亀のようにして空輸されたあと、スペースシャトルは405号線を使って陸路を約20km牽引される予定だった。

そのルート上で懸念材料となったが、マンチェスター橋だ。エンデバー号だけで68トン強、台車と合計すると約133トンもある。台車には自走機能もあるが、通常はそれを補助するために4台の牽引車が牽引しているという。しかし、4台の牽引車+台車に乗ったエンデバー号が通過するときにかかる重量に対し、ハイウェイをオーバーパスするマンチェスター橋が強度的に耐えられない危険性が出てきたのだ。そこで、1台の車両で牽引することが提案され、依頼先としてトヨタに白羽の矢が立った。同社は名誉ある作業として、自社最大のピックアップトラックである「タンドラ」を用意し、橋を渡る前後数百メートルの間だけ牽引する役割を担った。

画像11。エンデバー号の牽引準備中の「タンドラ」。テキサス州サンアントニオの工場でのみ生産されており、日本国内のディーラーでは扱われていない。

 ちなみに「タンドラ」は、ディーラーで一般販売されている「 クルーマックス 1/2トン ピックアップ」というグレードが用意され、牽引のために特に改造されてはいなかったという。カタログスペックでの牽引できる重量は”わずか”4.5トンしかなかったが、約133トンを予行演習なしで牽引してのけ、無事マンチェスター橋を渡りきった。当初は10分かけてゆっくりと渡る予定だったが、4分で渡りきったそうである。

以下は、ディーラーのスコット・クラーク・トヨタがまとめた4分46秒のYouTube動画。音声はすべて英語、日本語字幕もないが、エンデバー号が専用のジャンボジェットに親子亀状態で空輸されてくるところから始まる。その後、一般道の405号線を通る際には電柱や信号などの間をギリギリ通過していく様子も。そしてクライマックスは、マンチェスター橋をタンドラが牽引する場面だ。本物のスペースシャトルがやってくるということで、街がお祭り状態で大歓迎だったこともよく伝わってくる映像だ。

ディーラーのスコット・クラーク・トヨタがYouTubeで公開中の動画(英語オンリー、日本語字幕なし)。再生時間4分46秒。

 ちなみに映像からわかるのは、「タンドラ」が133トンも牽引できたのは、台車自体が自走機能が備わっていること(牽引車は舵取りの役割も大きい)がまずひとつ。そして、牽引開始地点で「タンドラ」のタイヤが空転しないよう、路面よりも摩擦力の高い板状のものが敷かれていたことなどが理由のようだ。

こうして、エンデバー号はカリフォルニア・サイエンス・センターに無事到着。同センターの目玉展示物のひとつとして、2020年現在も来館者の人気を博している。


ロケットやスペースシャトル自体がいうまでもなく乗り物であるわけだが、それが飛び立てることができるのも、縁の下の力持ち的な車両たちの活躍があってこそ。宇宙へ行くにも、クルマは必要なのだ。

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