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最終更新日:2019.07.17 公開日:2019.07.17

初代アルシオーネはスバル初のスペシャリティカー

国産のウェッジシェイプ(くさび形)のクルマを挙げろといわれたら、高確率で選ばれるであろうスバル「アルシオーネ」。スバル車の中でどのような車種だったのか。

スバルの初代「アルシオーネ」に追加された6気筒・2672ccエンジンかつAWDモデルのA9型「VX」(1989年式)。オートモビルカウンシル2019の「百花繚乱80’s」コーナーにて撮影。

 「アルシオーネ」という車名は、恒星にちなんでつけられた名だ。社名のスバルとはおうし座の散開星団プレアデスのことだが、同星団の中で最も明るい星が「アルキオネ(Alcyone)」である。「アルキオネ」とはギリシャ語に由来する読み方で、英語風に読むと「アルシオーネ」になる。

 星団の中で最も明るい星の名を授けられたことから、同社内での「アルシオーネ」に対する期待の高さがわかる。実際、スバル初のスペシャリティカーであり、フラッグシップモデルという位置づけだった。

 初代「アルシオーネ」はまず1985年1月に北米市場で「スバルXT」として登場し、日本国内では同年6月から発売された。北米市場での発売が国内よりも半年も早かったことからわかるように、北米市場を大いに意識した車種だったという。

「アルシオーネ VX」を正面から。「アルシオーネ」といえば、ホワイトのイメージが強いが、今回は落ち着いた赤系の1台が展示された。

ウェッジシェイプは単なる目を引くためだけのデザインではなかった

 その外見的な特徴は、何といってもウェッジシェイプのボディだ。しかし、このウェッジシェイプは単に目を引くためだけに採用されたデザインではない。空力性能的に大きな意味があったのだ。

 85年登場のAX7型のFFモデル「VSターボ」は、低いフロントノーズとリトラクタブル式のヘッドランプの効果もあり、空気抵抗係数(Cd値)0.29をマーク。当時の量産車としては、世界屈指の空力性能を実現したのである(4WD(※1)モデル「VRターボ」は若干車高が上げられている関係で0.32だった)。

※1 現在、スバルはAWD(全輪駆動)と呼称しているが、「アルシオーネ」の時点ではグレード名に4WDが使われているため、当記事でも4WDと表記した。

「VX」を真横から。ウェッジシェイプであることがよくわかる。

コンポーネントの多くを3代目「レオーネ」から流用

 コンポーネントはすべてオリジナルというわけではなく、1984年に登場した3代目「レオーネ」のコンポーネントの多くを流用していた(「レオーネ」は当時のスバルの主力車種)。

 まずエンジンは、3代目「レオーネ」のターボモデルと同一の「EA82型」。同エンジンは排気量1781ccの4気筒SOHC水平対向エンジンで、最高出力は「レオーネ ツーリングワゴン 4WD 1.8 GT ターボ」と同じ135馬力だった。

 また、「アルシオーネ」の特徴のひとつとされるエレクトロ・ニューマチック・サスペンション(電子制御式エアサス)も「レオーネ」から引き継いだシステム。そしてホイールベースもは3代目「レオーネ」と同じ2465mmとなっていた。

後方から運転席をのぞいたところ。ステアリングが左右非対称のL字型が特徴的だった。インストルメントパネルもまるで航空機のような雰囲気のデザインをしていた。

2年後に追加された「VX」には6気筒エンジンを搭載

 しかし、1987年7月に追加されたAX9型「VX」(今回紹介するモデル)では大きな変化が見て取れた。まずそれまでは5ナンバーだったが、3ナンバーとなった。全幅1690mmと全高1335mmは変わらないが、全長は60mm延伸されて4510mmに。延伸された理由は、衝撃吸収ダンパーが装着されたことによるものだ。

 さらに、エンジンも大きくパワーアップ。同じSOHCではあるが、6気筒の「ER27型」が搭載されたのである。4気筒エンジン「EA82型」に2気筒を足した形で、排気量は1.5倍の2672ccとなり、スバル初の2Lオーバー車となった。そして最高出力は150馬力に、最大トルクは1.5kg-m増えて21.5kg-mとなっている。

「VX」を右斜め前から。ドア下側に記されている文字は「ACTIVE TORQUE-SPLIT FULLTIME 4WD FLAT6」。

パートタイム4WDからフルタイム4WDに

 スバルといえば、4WDシステムの先駆者として知られている。しかし、「アルシオーネ」の生産が始まった1980年代後半に入る頃には、それまでスバルがこだわってきたパートタイム4WDは「古い」というイメージが一般的になりつつあった。スバルとしては、フルタイム方式は伝達ロスが大きいなどのデメリットが大きい故に採用してこなかったのだが、世の流れには逆らえず、考え方を大きく転換せざるえを得なくなったのである。

 その4WDシステムの搭載車種として端境期にあったのが、「アルシオーネ」と3代目「レオーネ」だった。「アルシオーネ」の場合、1985年登場のAX7型「VRターボ」はパートタイム4WDを採用しており、FFと切り替えれるようになっていた。

 だがスバルも1986年になって、ベース車の3代目「レオーネ」に追加した4WDモデル「RX/II」において、遂にセンターデフ(※2)付きフルタイム4WDシステムを採用。そして1987年になり、スバルは「VX」にAT車用の新型のフルタイム4WDシステム「ACT-4」を搭載したのであった(同時に「VRターボ」のAT車も「ACT-4」に、MT車はセンターデフ付きに変更された)。

※2 センターデフ:正しくはセンター・ディファレンシャルギアのこと。4WD車は、コーナリング時に前後輪の回転差による「タイトコーナーブレーキ現象」という、曲がりにくくなる現象が発生してしまう構造的な弱点を抱えていた。そこで、このセンターデフをプロペラシャフトの中央近辺に設けることで、前後輪の回転差を解消したのである。

リアウインドー右下には、「ACTIVE TORQUE-SPLIT 4WD-ABS」と記されている。「VX」は国産のフルタイム4WD車では初となるABSが搭載されていた。そのほか、電子制御式パワステなどの新機軸も装備。

初代は1991年まで生産されて2代目「アルシオーネ SVX」にスイッチ

 初代「アルシオーネ」は1991年まで生産された。日本国内ではその先進的なデザインが見る者にインパクトを与えたが、残念ながら販売には結びつかなかった。その一方で、最初から真のターゲットとしていた北米市場では人気を博し、モデル末期まで販売台数は好調だったと伝わる。

 そして1991年9月には、ビッグネームのジョルジェット・ジウジアーロがデザインし、サブネーム「SVX」をつけた2代目「アルシオーネ SVX」がデビュー。それも1996年12月には生産を終了し、「アルシオーネ」は過去の車種となったのである。

テール部分左側に「VX 4WD」とあり、この時期はまだスバルがAWDではなく4WDと呼称していたことがわかる。

2代目「アルシオーネ SVX」。北米市場では「スバルSVX」として販売されており、国内とは異なり、「スバルXT」の純然たる2代目という扱いではなかった。

【アルシオーネ VX(1989年式)スペック】
車両型式:AX9型
全長×全幅×全高:4510×1690×1335mm
ホイールベース:2465mm
トレッド:前1435/後1440mm
車重:1300kg
定員:2+2名
ボディスタイル:2ドアクーペ

【エンジン】
型式:ER27型
種類:水平対向6気筒SOHC
排気量:2672cc
最高出力:150ps/5200rpm
最大トルク:21.5kg-m/4000rpm

【足回り】
サスペンション:前・独立懸架式マクファーソンストラット/後・独立懸架式セミトレーリングアーム
ブレーキ:前後共にディスク
タイヤ:205/60R14

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