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最終更新日:2018.10.15 公開日:2018.10.15

丸ノ内線の新型車両「2000系」は再び”赤い貴公子”に!

中野車両基地で公開された丸ノ内線の新型車両「2000系」。現行の「02系」はステンレスのヘアライン地をそのまま活かしたデザインだが、先々代の「500形」のような、真っ赤に塗られた車体が復活。

 丸ノ内線は1954(昭和29)年1月に、戦後初の地下鉄として開業した歴史のある路線だ。現在の東京地下鉄(東京メトロ)の前身である帝都高速度交通営団(営団地下鉄)の地下鉄としては、90年の歴史を有する日本初の銀座線に次いで2番目になる。当初は池袋~御茶ノ水間6.4kmで営業路線としてスタート。最終的に1962(昭和37)年3月に「分岐線」といわれる中野坂上~方南町間3.2kmが開通し、池袋から新宿を経由して荻窪および方南町につながる全線が開通となった。現在は、1日あたり約135万人が利用する首都圏の動脈のひとつだ。

 これまでの丸ノ内線の車両は大別すると2種類存在する。ひとつが、初代の「300形(がた)」や、その改良型として1957(昭和32)年に登場して丸ノ内線の顔となった「500形」など、昭和中期に登場した車両たちだ。そして昭和も末の1988(昭和63)年に登場したのが、現行車両の「02系(けい)」である。

丸ノ内線の現行車両「02系」。一番左の編成のみサインウェーブが赤のライン上に描かれていることから、改修を受けた車両と思われる。「2000系」の報道公開が行われた中野車両基地にて撮影した。

 「02系」の後継車両「2000系」が東京メトロより発表されたのは、2018年3月のこと。運行開始時期は2019年2月からで、2022年までに現在の「02系」の53編成318両(1編成6両)と入れ替わる。分岐線用は「02系」の3両編成が継続して運用される方向だが、終点の方南町駅は拡張工事が進められており(2019年供用開始)、6両編成も停車可能となるため、「2000系」がそのまま本線に乗り入れて池袋方面に向かう可能性もあるという。

 そして10月11日に、その「2000系」最初の1編成が完成したことから、中野車両基地にて報道陣に公開された。

丸い顔が特徴の「2000系」。丸ノ内線だけに、円や角の取れたデザインを複数箇所に採用している。前面部分は塗装が施されているが、運転席から後ろはラッピングで赤を表現している。貫通扉にある4桁の数字「2101」は、千の位の「2」が「2000系」を表し、百の位の「1」が1両目であることを示す。下2桁の「01」が1編成目という意味だ。この編成の2両目以降は「2201」、「2301」と続き、6両編成なので最後は「2601」。

復活の”赤い貴公子”! サインウェーブ誕生の秘密

白地にグレーで描かれた位相が真逆の2本のウェーブが、丸ノ内線のトレードマークである「サインウェーブ」(サインとは三角関数の正弦のこと)。現行の「02系」はデビュー当初はサインウェーブがなかったが、復活の声の多さから、2009年の大改修の際に一部車両に復活させたほどである。ホームドアの設置が進んでいることから、「2000系」では隠れないように車両上部を通るデザインとされた。

 新型「2000系」のデザインは、鉄道車両を数多く手がけるインダストリアル・デザイナーの福田哲夫氏・福田一郎氏の監修のもとに作業が進められた。まず東京メトロのさまざまな部門から集まった社員が丸ノ内線の特徴から、「地上」(丸ノ内線は地上走行区間が複数箇所にある)、「活気」(池袋や大手町、銀座、新宿などを通る)、「先進的」(戦後初の地下鉄として登場し、最初の「300形」はデザイン性も含めて当時最先端の車両とされた)という3つのキーワードを選定。それらに基づき、それぞれの要素を「色」、「形」、「機能」のデザイン3要素に織り込んで車両コンセプトが策定されていったという。

 ボディカラーの赤は「グローイング・スカーレット(Glowing Scarlet)」と命名された。”Glowing”は”鮮やかな”、”明るい(色)”、”活力のある”といった意味を持つ。スカーレットとは「やや黄色みの入った鮮やかな赤」で、四季に映える鮮やかな色として選ばれた。そして、そこに丸ノ内線のシンボルデザインである「サインウェーブ」を織り込む形が踏襲された。

 ちなみにこの赤とサインウェーブという組み合わせは、丸ノ内線開業時の営団地下鉄総裁・鈴木清秀氏のアイディアだという。鈴木氏が地下鉄の先進都市のひとつである英国ロンドンに視察に行った際に見つけた「ベンソン&ヘッジス」という真っ赤なタバコケースと、観光バスに施されていたステンレスの波模様をもとに、東京芸術大学にデザインを依頼して完成したのである。

 また、その赤いボディから丸ノ内線の”顔”として活躍した「500形」などは「赤い貴公子」という愛称もつけられた。「2000系」で再びボディすべてが赤くなることから、まさに赤い貴公子の復活といえよう。

丸ノ内線だから丸いデザイン!? 丸窓も採用

顔を別の角度からアップで。前灯も丸いデザイン。また、顔の上部にある行き先表示器には駅ナンバリングの表示が加えられた。車両中央部に表示が集約されており、視認性をアップさせている。

 そして形状のコンセプトは「活力のあるTOKYOのカタチ」とする。報道公開時に東京メトロ広報に確認したところ、正面から見ても横から見ても、先頭車両が角の取れた丸く見えるデザインなのは、丸ノ内線の「丸」を表しているという。また、かつての丸ノ内線の顔として知られた「500形」は屋根の部分が丸く、現行の「02系」もエッジは効いているがそれを踏襲していることから、「2000系」も代々続く丸ノ内線の車両のアイデンティティーを引き継いだといえる。

 「丸」のイメージは、車端部にも目立つ形で用意されている。東京メトロの車両としては初の丸窓が採用されたのだ。そのほか、LEDの前照灯(ヘッドランプ)も丸みを持ったデザインとなっている。

車端部には丸窓。中間車両は前後の車端部どちらにも存在する。

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続いては車内の様子を紹介!

球面天井パネルに丸い釣り革などで丸みを持たせた車内

車内の様子。天井のLED照明はグローブ付きとし、まぶしさを軽減させつつ適切な照度が確保された。

 車内の形状で目立つのは、開放的な車内空間を演出することを目的として、球面形状の天井パネルが選ばれている。また丸窓は車内から見ると、1編成6両すべての車端部に設けられたフリースペースにあり、目の前で見ると大きい。

天井付近のアップ。丸みを持たせられているのがわかる。釣り革も丸型かティアドロップ型が採用されており、柔らかいイメージ。荷棚と吊り手の高さが一部下げられている。

フリースペースのない側の車端部の丸窓。向こうに見えるのは「02系」。

東京メトロ初のテーブルをフリースペースに用意

 フリースペースには、東京メトロでは初となる、小物が置けるテーブルを用意。その下には荷物掛けのフック(5kgまで)、スマートフォンやノートPCの充電が可能なコンセント(2口)も用意されている。そのテーブルの反対側にあるのは、寄りかかったりお尻を載せられたりするクッションだ。

小物を置けるテーブルスペース。耐荷重5kgまでの荷物掛けフックや、スマートフォンなどの充電に利用できるAC100Vコンセントも2口用意されている。

小物が置けるテーブルの反対側には、お尻を乗せられるクッション。疲れたときには重宝する。乗客がつかまるためのスタンションポールも上側に用意されている。非常時の扉開放装置は、車いすの利用者でも押せるよう、この位置に設けられている。

 各ドアの上部には17インチワイド液晶モニターの車内表示器を3画面搭載し、乗換案内などが提供される。日・英・中・韓の4言語表示だ。放送システムは乗客が聞き取りやすいよう、高音質のステレオ方式を導入された。そのほか、訪日外国人向け無料Wi-Fiが設置されている。

ドア上に設けられた17インチワイド液晶モニター3画面構成の車内表示器。右の画面のすぐ横にある黒い部分は、防犯カメラ。魚眼レンズのような広角レンズが採用されており、車内全体を見られる。

 また車内の開放感を演出するため、連結面の大型扉やロングシート横の仕切り、荷棚に透明な強化ガラスが使われている。ちなみに連結面の大型扉には、誤って衝突しないよう、丸ノ内線の各駅を表すマーク(標記)が描かれている。

 室内灯にも省電力のLED照明が採用されており、従来の蛍光灯と同等以上の明るさを確保した。防犯用セキュリティカメラも備えられている。

 そしてシートは、1人あたりの座席幅を拡大。クッション性も改良され、座り心地の向上が図られた。クーラーも強化され、従来より約1.4倍の冷房性能を持つ装置が導入され、より居心地のいい車両となっている。

連結面の大型扉は強化ガラス製で、開放感がアップ。ドアがないと思って衝突しないよう、丸ノ内線の各駅のマークが記されている。

ロングシート。ひとり当たりの座面が広くなり、またクッション性も改善された。そして左右の端の仕切りは強化ガラスが使われていて、これもまた開放感につながる。頭上の荷棚にも強化ガラスが使われており、室内灯が遮られない。

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最新システムで安全・安定性をアップ!

安全・安定性を向上させた各種機能には東京メトロ初のものも!

予防保全用システムとして、「車両情報管理装置(TIS)」を採用。機器の一部は床下に収められている。

 「2000系」は、銀座線「1000系」(記事はこちら)で培った技術を発展させ、高密度かつ大量輸送を安定・安全・快適になり得る技術を採用したという。もちろん、東京メトロ初の機能も複数ある。まずひとつ目が、万が一の脱線時にそれを検知してすぐさま車両を自動停止させる「脱線検知装置」だ。

 ふたつ目は、予防保全用システム「車両情報管理装置(TIS)」。TISは、走行している車両における各種装置の動作情報を、イーサネット方式で車両基地や総合指令所などに常時伝送して状態監視を行えるようにしたシステムだ。車両からの通信には、「WiMAX2+」(UQコミュニケーションズ)が使われている。

 そして2022年度末に搭載が計画されているのが、無線式列車制御システム「CBTC」(Communications-Based Train Control)だ。従来のATC(Automatic Train Control:自動列車制御装置)と比較して遅延回復に高い効果があり、また事故発生時に単線並列運転に変更することで不通区間をなくすことができる次世代型の列車制御システムである。

 同様に、通信品質やデータ通信などの機能向上が可能な「デジタル空間波無線」も必要に応じて搭載できるよう設計された。こうしたアップデートを考慮した設計は、東京メトロ初となっている。

そのほか東京メトロの最新技術を搭載

丸ノ内線の台車は東京メトロでは銀座線で初搭載された、片軸が角度を変更できる「操舵台車」となっている。ちなみに、右側の車軸から突き出している茶色のプレートは集電靴。丸ノ内線は銀座線と並んで唯一、第三軌条から集電するシステムとなっており、一般的な架線とパンタグラフ方式ではない。集電靴が3番目のレールの第三軌条に触れて集電を行う。

 銀座線「1000系」に初搭載されて磨かれた新技術を、「2000系」は複数搭載している。そのひとつが「(片軸)操舵台車」だ。台車の進行方向の後軸(後ろの2輪)だけが少し外側に向きを変えることで、カーブでの安定性が増し、またレールと車輪のこすれる甲高い金属音を減らせる仕組みである。詳しくは、日比谷線の新型車両「13000系」の記事「日比谷線新型車両「13000系」操舵台車で快適度アップ!3月25日から本格運行。」で解説している。

 また、大規模停電などの非常時に駅間に停止した場合でも、最寄り駅までの走行が可能な非常走行用バッテリーも搭載。このバッテリーは、衝撃や火災、低温に強いといった特徴を持つ東芝製のリチウムイオンバッテリー「SCiB」が採用されている。

東芝製のリチウムイオンバッテリー「SCiB」を非常走行用として採用。銀座線の「1000系」がこれまで、1回だけ停電で実際に「SCiB」の非常走行用バッテリーを用いて走行したことがあり、有効性が実証されたという。このほか、床下機器としては、三菱電機製のものも確認できた。

さらに制御系やボディの特徴に迫る!

 制御系に関しては、VVVF(Variable Voltage Variable Frequency:可変電圧可変周波数)インバータ装置ではあるが、次世代素子のSiCを用いたモジュールを使用しており、より高効率化された。

 SiCとは「シリコンカーバイド(炭化ケイ素)」のことで、シリコン(Si)と炭素(C)が1対1で共有結合した化合物のことをいう。発熱量が少ない、熱伝導率が高い、耐熱性・耐酸化性に優れるなど、従来のシリコンよりも優れた半導体特性を持っている。そのため、SiCを用いた次世代素子はさまざまな機器の小型軽量化と省エネルギー性の向上を実現できるというわけだ。ちなみに、補助電源装置にもハイブリッドSiCモジュールが使用されて高効率化を実現している。

 そして電力消費と走行性能に大きくかかわるのがモーター。主電動機として永久磁石同期モーター(PMSM)が採用されており、こちらも効率のアップが図られた。フルSiCモジュール搭載のVVVFインバータ装置とPMSMS、さらにLED照明などの効果を加えると、「02系」と比較して消費電力量は約27%の削減を見込んでいるという。

 ボディの構造に関しては、ダブルスキン構造で車体強度が向上された。またアルミ材料を統一することで、リサイクル性もアップされている。メンテナンス面に関しては、コンプレッサーがオイルフリー型となっている。

 丸ノ内線の伝統を引き継いで走り出す新型「2000系」。鮮烈なグローイング・スカーレットに目を奪われがちだが、東京メトロの最新技術を詰め込んだその中身にも注目だ。運行開始は2019年2月ともう少し先になるが、その乗り心地に期待したい。

「02系」から「2000系」へ。走る電車は変われど、東京を支える動脈のひとつとして丸ノ内線はこれからも走り続ける。

2018年10月15日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)

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