運転状況を見える化する「Ever Drive」は高齢ドライバーの事故を防げるか?
Ever Driveは、対象車両の位置や走行状況を、PCやスマホ、タブレットなどで確認できる。いわば、利用者の運転の仕方を「見える化」できるサービスだ。
国内の交通事故死者数が減少傾向にあるなかで、高齢ドライバーによる交通事故が、近年、課題になっている。高速道路の逆走や歩道を走行するなどして、死傷者を出すような事故も起きており、大きな社会問題となっているのはご存じの方も多いだろう。しかも、人口の多い団塊の世代が70代に入りつつあり、今後、高齢ドライバーの問題はさらに深刻化することも懸念されている。
そうした中、オリックス自動車が、高齢ドライバーの見守りを目的とした「安心運転 Ever Drive」を開発、サービスを開始した。2月24日、都内でその説明会が行われたので詳細をお伝えしたい。。
運転状況を見える化するサービス
Ever Driveは、対象車に取り付けられた専用の車載器から、速度・時間・位置・燃料といった車両運行情報を同サービスのセンターサーバーに送り出すことで、サービスの契約者が、いつでもどこでも対象車の状況を確認できるようにするサービスである。利用対象として想定されているのは、家族や身近に高齢なドライバーがいて、その運転が不安なユーザー。Ever Driveを高齢ドライバーが運転するクルマに装着すれば、危険な運転がないか、長時間運転を続けていないか、今どこにいるのかなどをいつでも確認し、その運転を見守ることができる(高齢ドライバーの見守りを想定したサービスだが、もちろん高齢ドライバー以外が運転するクルマへの装着もできる)。
Ever Driveの専用車載器。
大別して3つのサービスを利用可能
見守りのためのサービスは、「運転レポート」、「(各種)お知らせメール」、「今どこサーチ」の大きく3種類がある。
まず運転レポートだが、こちらは利用者の運転状況を確認できる画面だ。
左がPCの基本画面で、右がスマホの基本画面。選択された日の走行ルートが表示され、速度超過、急加速、急減速が発生したポイントが示される。
運転レポート画面では、利用者の走行データを1日ごとに見られる。各日の走行したルートと、その運転において発生させてしまった「運転リスク」を表示してくれる。
運転リスクは、運転者が、時速100km以上の速度超過、0.24G以上の急加速、-0.27G以上の急ブレーキを行った回数と、発生した地点を教えてくれる。さらに、連続した2時間以上の長時間運転や、18時以降の夜間運転も確認できる。
日々の運転時間の変化に気がつきやすい
各日の運転総時間が画面下部にバーグラフで表示されるのだが、これが毎日の運転時間の変化をチェックするのにとても分かりやすい。
どうして運転時間の変化が大切かといえば、毎日必ず運転している人なのにまったく運転しない日があったとしたら、何か体調に問題が発生した可能性が考えられる。また、旅行に行ったわけでもないのに長時間運転をしていたら、徘徊運転(認知症の人が、現在地も目的地もわからないまま、クルマを走らせ続けること)をしている可能性もあり得るというわけだ。
日々の比較がしやすいことで、異常に気がつきやすいレイアウトとなっている。
問題のある運転をしたときはすぐにメールが家族に!
利用者が運転リスクを発生させたときは、最大5人までの登録メールアドレスに対してお知らせメールが配信される。
そのほか、運転の終了時間や、1日の詳細な運転記録、旅行時などの指定場所への到着のお知らせなども配信可能だ。
1日の運転メールなどのイメージ。家族としては、利用者の運転が丁寧になっていくのがわかるのは安心できる。
リスクのある運転をしたことを確認できる結果として
運転リスクを発生させたことが、他者も自分も確認できる仕組みは、ドライバーの安全運転に対する心がけを大いに強めるという。
その証拠として同社が説明会で披露したのが、同社の法人向けテレマティクスサービス「e-テレマ」の成果。2016年9月現在で約2000社が契約しており、約13万7000台のクルマに導入されているサービスだ。Ever Driveのベースとなった、法人用サービスである。
その2000社の内、100台以上という大規模な契約を結んでいて、なおかつ利用期間が1年以上になる企業が約70社ある。クルマの台数にして約4万4500台だ。その台数に対する改善率は、導入14か月後には速度超過では70.7%、急加速では65.0%、急減速では45.0%を減らすことができたという。
速度超過、急加速、急減速を発生させた件数の推移。導入14か月後の時点で速度超過は目に見えて減っている。50か月後(=4年強)にはさらにアップし、83.4%、89.2%、72.7%だそうだ。
e-テレマの場合、運転リスクが発生した際に、それを知らせるメールが届くのは運行の管理者や運転車の上司などになる。当然、運転者も注意されたくないため、日常から安全運転を意識するようになり、それが結果として運転の改善につながっていくというわけだ。
Ever Driveの場合、メールの配信先は家族が設定されることが多いと思われる。家族の場合、非常に心配しながら「もっと安全運転をしてほしい」という話になるはずだが、真剣に訴えられたら、やはり注意をすることになるだろう。
クルマの現在位置をすぐに確認可能
認知症のために現在地がわからなくなり、さらには目的地もわからなくなった結果、行方不明者になる人が増えている。現在、届け出があるだけで、年間1万人を超すという。
中には、クルマで出かけたきり連絡が取れない、というようなケースもある。そんなときは家族としてはすぐにでも現在地を確認したくなるはずだが、そのときに使えるのが「今どこサーチ」だ。
今どこサーチは、GPSでクルマの現在位置を確認するが、優れているのはエンジンが切れていても、車載器が通信環境下にあればわかる点だ。
利用料金は月額2980円
利用料金は、車載器の取り付けやシステム登録費などの初期費用が1万円(税別)で、月額の利用料は2980円(税別)。最初は1年間の契約となるが、それ以降は1か月ごとに自動更新となる。ただし、2017年5月31日までに申し込めば初期費用が無料になるキャンペーンを実施中だ。
Ever Driveは高齢者専用というわけではなく、全年齢が対象だ。10代から20代前半の、免許取り立ての若者世代による事故の発生件数は、75歳以上の高齢者世代に次いで多く、オリックス自動車としては若者世代にも親が見守れるように広めていきたいとしている。
家族といえどプライバシーの問題は大丈夫?
Ever Driveは、高齢者や若者など事故を起こしやすい年代の運転を見守れるので、家族の立場としてはありがたいのは間違いない。しかし当の本人からすると、監視されていたり拘束されていたりする感覚を強く感じてしまう可能性もあるだろう。
いくら家族とはいえ、どこをどういうルートで走行したかまでを把握されてしまうのは、プライバシー的な問題もあるはずだ。どこに行ったかは、家族にも知られたくない、というような場合もあるだろう。
利用するに際しては、利用者と家族がその点をよく理解しないと、トラブルの元になりかねないので、家族の間でどう扱うかということはしっかり決めてからにしたい。
認知症の可能性は早い段階から簡単にチェックできる!
説明会では、NPO法人高齢者安全運転支援研究会の岩越和紀理事長による「運転の老いと向き合う 徘徊運転とペダルの踏み間違い事故」と題した講演も行われた。
現在70歳という岩越氏自身は団塊の世代のトップバッターで、今後、団塊の世代が70代に突入していくことによる、高齢ドライバーの増加、ひいては高齢ドライバーによる事故の増加を懸念している。
今回の講演ではさまざまなデータが示され、高齢ドライバーの事故を防ぐためのさらなる対策が必要であることが訴えられた。なかでも興味深かったのは、同NPO法人の理事を務め、日本認知症予防学会理事長である鳥取大学医学部浦上克哉教授が考案した、「運転時認知障害早期発見リスト30」である。
同リストは、浦上教授がこれまでの認知症治療の臨床試験に加え、同NPO法人が軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)者を対象に行った実験結果から、MCIの一部として運転時に現れやすい事象をまとめたものだ。記憶、視空間認知機能、見当識、判断力などの軽微な障害を見つける設問となっている。
埼玉県警が同リストでアンケートを採った結果
埼玉県警察が同リストをホームページに掲載したところ、身に覚えのある内容として多かったのは以下の5つの設問であった。
1位:以前ほどクルマの汚れが気にならず、あまり洗車をしなくなった。
2位:好きだったドライブに行く回数が減った。
3位:クルマのキーや免許証などを探し回ることがある。
4位:高速道路を利用することが怖く(苦手に)なった。
5位:スーパーなどの駐車場で自分のクルマを止めた位置がわからなくなることがある。
あなたは、この5つの中にすでに当てはまる項目はないだろうか? 万が一、5つとも当てはまるという場合は、浦上克哉教授監修でより手軽に試すことができる「運転時認知障害早期発見プログラム」(JAFメディアワークスのサイトにリンク)で、まずはチェックしてほしい。同プログラムで結果が芳しくない場合は、前述の30問のリストも続けて試すことができるようになっている(30問のリストのみ見たい場合はこちらから(前期NPOのサイトにリンク))。
もしチェックで問題がなかった場合も、月に1回程度は定期的にチェックしたい。認知機能の低下はいつ始まるか分からない。
2017年2月27日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)