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クルマ最終更新日:2016.12.16 公開日:2016.12.16

【動画あり】国交省+NASVAによるJNCAP予防安全性能評価試験の同乗体験デモ

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平成28年度前期から対歩行者の被害軽減ブレーキも試験されるようになった。

 国土交通省と独立行政法人 自動車事故対策機構(NASVA)が、12月1日に発表した「平成28(2016)年度前期自動車アセスメント評価結果」。 通称「JNCAP(ジェイ・エヌキャップ)」と呼ばれる、新車の安全性能を公的な第三者機関がテストし評価した結果の、最新情報である。

 今回の注目ポイントは、新たに評価が始まった「衝突被害軽減ブレーキ(AEBS)」の対歩行者テストだ。評価試験は11車種が受け、どの車両も先進安全自動車として最高評価である「ASV++(ダブルプラス)」を獲得。なお、ASVとは「Advanced Safety Vehicle(先進安全自動車)」の略である。

 そして同日行われた発表会では、その内の5車種による同乗体験デモが実施された。今回は、その様子を動画でレポートしたい。

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試験をどのように行っているのか?

歩行者を検知していかに止まれるか

 同乗体験デモは、NCAP対歩行者テストを再現した内容となっていた。

 時速30kmで走るクルマの前を歩行者を模したダミーが横切るので、それをクルマがきちんと検知してブレーキをかけられるか、衝突せずに停車できるかという内容で、その模様を助手席や後席に同乗して見ることができ、同時に被害軽減ブレーキの効き具合も体感できるというものである。

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たかだか時速30kmといえど、残り10メートルほどにクルマが接近してから横断を開始するダミーにぶつからずに止まるのは難しそう……と思ったのだが、余裕で止まれる車も数多くあった。

 なお、体験では各社のスタッフがドライバーを努めていたが、実際の評価試験では、寸分違わぬ正確無比な走行を何度でもできるように、どの車両も運転するのはロボットだ。ステアリング、アクセル、ブレーキすべてに後付けの制御装置が付加され、緊急事態のためにドライバーは乗っているが、コンピュータによる自動運転でテストは何度も繰り返される。

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運転ロボットが装着されたアクセラの運転席周り。どれだけ優れたドライバーでも人間である以上は体力や集中力に限界があり、疲れ知らずに何度も正確無比な運転を繰り返すには限界があるが、ロボットならそれが可能。

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今回の5車種と最高得点車アクセラのデモの様子

今回は5車種に同乗

 今回同乗することができた5車種は、以下の通りだ。得点は予防安全性能評価の71点満点のもので、カッコ内は100点満点に換算したもの。イグニスが100点満点で93.4点を取っているのに、それでも10位というところに、レベルの高さがうかがえる。最後の順位は、11車種の得点ランキングでのものだ。11車種全車の得点とランキングはこちらをご覧いただきたい。

●アクセラ(マツダ)/70.5(99.3)点:1位
●インプレッサ(スバル)/68.9(97.0)点:3位
●RX(レクサス)/68.0(95.8)点 :6位
●クラウン 3車種(アスリート/ロイヤル/マジェスタ)(トヨタ)/67.3(94.8)点:9位
●イグニス(スズキ)/66.3(93.4)点:10位

アクセラの被害軽減ブレーキの対歩行者性能は!?

 第1位となったアクセラに搭載されているのは、予防安全システム「i-ACTIVESENSE」。その中で被害軽減ブレーキのシステム名は「アドバンスト・スマート・シティ・ブレーキ・サポート(アドバンストSCBS)」という。このシステムが、満点にわずかに0.5点及ばない70.5点という好成績を残したわけだが、運転ロボットによる2回のテストデモでは(試乗とは別に行われた)、アドバンストSCBSの効きが悪く、1回は歩行者を模したダミーの足に軽く接触してしまった。

予防安全性能評価・対歩行者の被害軽減ブレーキの効き具合-アクセラ(車外)その1。

予防安全性能評価・対歩行者の被害軽減ブレーキの効き具合-アクセラ(車外)その2。

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アクセラのデモの様子その2

アクセラの屋外テスト+同乗撮影

 ほぼ満点という性能のクルマであっても、明るさ(雨上がりで曇天)や、周囲にどのようなものがあるか(報道陣が多数つめかけてカメラのフラッシュなどもたかれていた)といった条件次第で、100%確実に停車できないという、ある意味、最新技術でも過信してはいけないといういい見本となったのではないだろうか。

 なお、被害軽減ブレーキの効き具合は、車外からだとなかなか各車の違いがわかりにくいのだが、車内からだと作動音の違いが聞き取れるので、ぜひ見比べるというよりも聞き比べてみてほしい。

予防安全性能評価・対歩行者の被害軽減ブレーキの効き具合-アクセラ(車外)その3。

予防安全性能評価・対歩行者の被害軽減ブレーキの効き具合-アクセラ(車内)。

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続いてはスバル「インプレッサ」

「インプレッサ」などスバルの「アイサイト」搭載車は上位に

 被害軽減ブレーキの代名詞的な技術であるスバルの「アイサイト」。現在はver.3まで進化しており、今回の評価試験では搭載している4車種が試験を受けた。そして、トップこそ取れなかったが、「フォレスター」が2位、同乗体験デモで用意された「インプレッサ」が3位、「レヴォーグ」と「WRX」(同一車種扱い)が4位、「レガシィ」が6位という具合で、どれも優秀な結果を出している。

 ちなみに、被害軽減ブレーキといっても各社それぞれの考え方や実装の仕方が異なっており、それを確認しやすいのが、今回の同乗体験デモで用意された5車種の中ではインプレッサだった。

 インプレッサは5車種の中では唯一の2段階ブレーキを採用。残りの4車種が体感的には1回でガツンと大きな制動をかけていたが、インプレッサは1回乗車しただけでもわかるほどはっきり2段階に分けてブレーキをかけていた。

 2回に分けることのメリットは、それぞれの減速Gを少なくできるので、急制動による乗員側の事故を防ぎやすくなることだという。後席のシートベルトはまだ着用率が前席に比べて低いことが指摘されているが、大きな減速Gがかかる1回のブレーキだと、万が一着用していない場合は、シートから放り出されてしまう危険性がある。それを少しでも防ぐために2段階にしてあるそうである。

予防安全性能評価・対歩行者の被害軽減ブレーキの効き具合-インプレッサ(外)。

予防安全性能評価・対歩行者の被害軽減ブレーキの効き具合-インプレッサ(車内)。

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続いてはスズキ「イグニス」!

スズキ「イグニス」はアイサイトの派生型を搭載

 続いては、今回の11車種の中では唯一の小型車である、スズキ「イグニス」だ。イグニスに搭載されている被害軽減ブレーキのシステム名は「デュアルカメラブレーキサポート」だ。

 被害軽減ブレーキは急制動をかけることからかなりのパワーが必要とされるため、作動音が大きい。特にイグニスの場合、今回乗車した5車種の中ではかなり大きかった。

 被害軽減ブレーキの作動音を遮音するには、そのための構造を設ける必要があるが、そうすればもちろん車両価格が上がってしまう(重量も増え、燃費の悪化につながる)。しかも、頻繁に作動しない(のが望ましい)はずの被害軽減ブレーキの作動音なのだから、140万円弱~190万円弱という車両価格のイグニスには難しいというわけだ。

 ちなみに、デュアルカメラブレーキサポートの双眼カメラは日立製作所製である。日立は、スバルがアイサイトの開発で協力を得たメーカーなのは、ご存じの方も多いことだろう。共同開発のイメージも強いが、実際にはアイサイトのコア技術はスバルで開発されている。そして現在は、そうした技術が日立に移管されており、日立がコンパクト化を行った後に、スズキがイグニスに採用したというわけである。

予防安全性能評価・対歩行者の被害軽減ブレーキの効き具合-イグニス(外)。

予防安全性能評価・対歩行者の被害軽減ブレーキの効き具合-イグニス(車内)。

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続いてはトヨタ「クラウン」&レクサス「RX」

クラウンもRXも高級車だけに制動音が静か

 トヨタの予防安全システムは「Toyota Safety Sense」といい、その後にアルファベットが1文字つき、クラウンの場合は「Toyota Safety Sense P」と呼ばれるものが採用されている。また、RXの予防安全システムはレクサスなので、「Lexus Safety System +」と呼ばれる。

 どちらもミリ波レーダーと単眼カメラを併用しており、もちろん他社と同様に、歩行者の検知はカメラが行う。Toyota Safety Senseには、系列会社のデンソーが開発したミリ波レーダーと単眼カメラなどが採用されていることが発表されている。

 まずはクラウンとRXの外からの様子をご覧いただきたい。

予防安全性能評価・対歩行者の被害軽減ブレーキの効き具合-クラウン(外)。

予防安全性能評価・対歩行者の被害軽減ブレーキの効き具合-RX(外)。

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最後は「クラウン」と「RX」の車内からの様子

「クラウン」も「RX」も車内の静粛性が高い

 クラウンもRXも、高級車だけにもともと車内の静粛性が高いことも理由のひとつだが、被害軽減ブレーキの作動音もしっかりと遮音されていて、作動してもとても静かなのが特徴的だ。

 遮音性を犠牲にしているイグニスはもちろんだが、アクセラもインプレッサも作動時は車内では大きな作動音がする。車外でも聞き取ることが可能だ(特にイグニスは目立つ)。

 しかし、クラウンとRXに関しては普通にドライバーブレーキをかけているのではと感じてしまうほどで、音だけで判断しようとすると、作動したのかどうか自信を持って判断できないほどである。外はもちろんだが、車内ですら聞こえない。

 でも、車体は間違いなく両車ともにノーズダイブしているし、シートベルトをしていなければ間違いなく自分の身体が前に放り出されるだろうという強いGを体感できる。作動していないのではなく、被害軽減ブレーキの作動音が車内にも響かないような構造になっているというわけだ。

 なお、イグニスのところでも触れたが、被害軽減ブレーキの作動音を遮音するには、そのための構造を持たせる必要があるという。高級車だからこそ、そうした大きな作動音も聞こえないように設計されているし、逆をいえば、そうした使用頻度の少ないシステムのための遮音性を持たせられるのも高級車だからというわけだ(クラウンは400万円弱から700万円強、RXは500万円強から700万円強)。

予防安全性能評価・対歩行者の被害軽減ブレーキの効き具合-クラウン(車内)。

予防安全性能評価・対歩行者の被害軽減ブレーキの効き具合-RX(車内)。

2016年12月11日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)

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