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道路・交通最終更新日:2024.01.29 公開日:2024.01.29

想定外を知っておくのが「危険予知」の目的|長山先生の「危険予知」よもやま話 第22回

JAF Mate誌の「危険予知」を監修されていた大阪大学名誉教授の長山先生からお聞きした、本誌では紹介できなかった事故事例や脱線ネタを紹介するこのコーナー。今回は自転車や歩行者など相手の心理を読むことの重要性から、子供のうちから事故の危険性を教えることの大切さまで、孫とのエピソードを交えて話してくれました。

話=長山泰久(大阪大学名誉教授)

想定外を知っておくのが「危険予知」の目的

編集部:今回は歩行者や自転車の多い交差点を左折しようとしている状況です。歩行者や自転車が目の前を通過するのを待って発進したところ、左前方から来た自転車が目の前を横断してくるというものです。このような状況では、写真に写っていない左側から来る歩行者や自転車を気にする人が多いように思いますが……。

交差点で左折待ちをしています。目の前の男性二人が通過したら発進しようと思います。

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左前方から来た自転車が横断歩道を渡ってきたため、事故になるところでした。

長山先生:そうですね。おっしゃるとおり、写真には写っていませんが、左側から歩行者や自転車が来ているかもしれないので、それを無視することはできません。危険予知上必要なことで、そこに意識がいくことはとても重要です。

編集部:でも、今回の結果は違いました。一見、何も問題がなさそうな左前方から来た自転車が目の前を横切りました。この結果を予測できなかった人は多かったのではないでしょうか?

長山先生:確かに結果を見て意外に感じた方は多いかもしれませんが、このようなケースは少なくありません。自転車がまっすぐ交差点を直進する場合は、交差点の手前で信号待ちすることになるので問題はありませんが、交差道路側に横断しようとしていた場合、自転車の運転者は信号が青のうちに渡ってしまおうと思うからです。

編集部:確かにそうですね。一見、この自転車の動きはかなりの無茶ぶりですが、私も免許を持っていない中学生や高校生のときは、自転車でこのような走り方をしていたような気がします。

長山先生:そうです。自転車に乗らない人や車ばかり乗っている人には、このような自転車の無謀な走り方は想像できないかもしれませんが、そんな考えもしていなかったことが起こるのを知っていただくことが「危険予知―事故回避トレーニング」の目的のひとつで、意味のあることなのです。「こんなこともあるのだな。これからは左折時に自転車が前方から走ってきている場合に、その動きを注意して見ることにしよう」と受け止めていただければ幸いです。

編集部:問題の場面では、左から右に渡っている人がほとんどでしたが、一人だけ右から歩いてくる男性がいました。この人が渡るのを待たなくてもよかったのでしょうか?

長山先生:おっしゃるとおり、道路交通法の第38条で「横断歩道等における歩行者等の優先」が定められており、横断歩道や自転車横断帯を通過する際、横断していたり、横断しようとしている歩行者等があるときは、横断歩道等の直前で一時停止し、その通行を妨げないようにしなければなりません。ただ、まだこの男性は横断歩道に差し掛かっていないので、このタイミングで左折しても問題はないでしょう。

編集部:そうなのですね。でも、もたもたしていると、この男性が横断歩道に差し掛かるので、急いで曲がろうとしてしまいそうですね。

長山先生:そのとおりで、曲がれるタイミングではありますが、急ぐといろいろと見落とすことが多くなり危険です。特に先ほど話が出た「左側からの歩行者や自転車の見落とし」には注意が必要です。

左折時の車体の向きで目視が重要に?

長山先生:左折時、横断歩道に直角になって待機してから通過するときには、少し左に頭を振れば横断歩道を渡る歩行者や自転車を容易に確認できますが、左折待ちの際の車の向きによっては、フロントガラスから外れた位置の人たちにも注意が必要です。

編集部:フロントガラスから外れた位置の人たちですか?

長山先生:そうです。車の向きが横断歩道に対して斜めになればなるほど、横断歩道の手前側、つまり左側はフロントガラス越しには見えなくなるので、助手席の窓を通して目視しないと歩行者などは確認できません。また、その場合には、フロントガラスと助手席の窓の間にある、Aピラー(柱)の死角のことも考えに入れておく必要がありましょう。

編集部:確かに車体が斜めになっていると、より左側を大きく目視しないと、歩行者などは見えませんね。走り込んでくる自転車などは、助手席の窓越しでも見えないかもしれませんね。

長山先生:そうですね。特に自転車は速度が高いことからかなり遠くにいたものが横断歩道に走り込んでくる危険性が高く、ドライバーは見落として事故を起こしてしまう可能性があります。助手席の窓だけではなく、後席の窓越しに目視する必要があるかもしれません。

編集部:後席の窓ですか? 確かにそれくらい顔を左後方に大きく振って目視しないと、走り込んでくる自転車には対処できませんね。でも、今回のように歩行者や自転車が多い交差点では、左側をしっかり目視しているうちに、今度は右側から別の自転車が走り込んできたりして、安全確認が難しくなりますね。

長山先生:そうですね。歩行者や自転車の通過を待っているうちに、事前に確認した時にはいなかった人たちが現れて横断を開始してくる危険が生じます。これは第20回のよもやま話でも触れた「待機時間中の事態の変化に伴う危険性」と同じです。また、今回の危険予知の必要性は第17回のよもやま話で触れた「アイコンタクト」にも通じるものです。ドライバーも対向してくる自転車運転者の目を見て、こちらの行動に気づいているかを感じ取らなければなりませんし、自転車運転者の方もドライバーの目を見て、自分に気づいているかを確かめて行動しなければなりません。

編集部:確かに自転車に乗る人から見ると、左折車は自分のほうを向いて停止しているので、つい自分のことを確認して待ってくれていると思いがちですが、他の歩行者や自転車を注意して停止している可能性が高いですからね。

長山先生:そうです。車も自転車も、運転するうえで関わりが生まれそうな相手が何をしようとしているかについて把握することが、安全運転には欠かせないことです。自転車に対しては、信号が変わる前に急いで渡ろうとする気持ちから、安全も確かめないで危険な行動をしかねないことを覚えておくようにしましょう。なお、左折時に自転車や歩行者と起こす事故を調べると、自転車や歩行者が背向中のほうが対向中より多く、危険性が高くなっています。

左折事故は自転車や歩行者が「背向中」に多い

編集部:背向中ですか?

長山先生:そうです。「背向中」とは文字どおり“背を向けて進行中”という意味で、横断歩道の手前から向こう側に道路を横断していることになります。逆に横断歩道の向こう側から手前に横断してくる歩行者や自転車は「対向中」になります。

編集部:なるほど。背向中の事故は対向中と比べてどれくらい多いのでしょうか?

長山先生:以前、交通事故総合分析センターから『交通事故の事故類型に関する分析結果』が報告されましたが、それによると、左折時の対向中と背向中の事故はそれぞれ444件と822件で、背向中の事故が2倍近くも多くなっています。

編集部:2倍とはかなり違いますね。

長山先生:明らかに背向中の危険性が高いと言えます。下記の事故事例は、私が以前分析した事故で、自転車が背向中の左折事故です。

【事故事例】

  • 事故発生時刻:20時55分  天候:晴
  • 当事者:ⓐ 50歳代男性 普通乗用車  ⓑ 50歳代女性 自転車

ⓐ 信号のある交差点で信号が青になるのを認めて左折を開始した。左側の横断歩道を横断する人などはないと思い、対向右折車 Ⓒ の方を見ながら左折していたところ、直前で相手の自転車 ⓑ に気がついてすぐブレーキをかけたが間に合わず衝突した。

ⓑ 歩道上で自転車から降りて信号が変わるのを待っていたところ、青信号になったので車道に出て自転車の左側ペダルに左足をかけて乗りかけたところ、右から左折してきた車 ⓐと衝突した。

交差点図

●原因

  1. ⓐ は横断歩道を渡る歩行者や自転車はいないと決め込んでいるので、対向右折車だけに気を配り、横断歩道上の警戒を怠って左折した。
  2. ⓐ は見ようとはしていないので歩道上の信号待ちの人や、横断歩道を渡りだした人の存在に気がつかなかった。
  3. ⓑ は信号にしたがって横断を開始しているので、左折車があっても当然止まるものと考え警戒していない。自転車に足をかけ乗りかけていたので、右を見る余裕はなかった。

長山先生:この事例などから横断歩道上で歩行者や自転車と起こす、ドライバー側の事故原因をまとめると以下のようになります。

  1. 左折時に左方の横断歩道を渡る歩行者や自転車はないと決めこんでいることがある
  2. 対向してくる右折車などがあると、それに注意が向かい、横断歩道上の歩行者をいっそう見落とす傾向にある
  3. 他の右折車・左折車が並んで横断歩道手前で待っていると競争関係になり、無理をして横断歩道を通過しようとすることもある
  4. 左折時に横断歩道を対向してくるものは見落としにくいが、背向するものは見落としやすい

編集部:横断歩道を渡る歩行者や自転車を、ドライバーが「いない」と思い込んでしまったら、歩行者や自転車側が注意するしかないですね。

長山先生:おっしゃるとおり、歩行者や自転車側が左折事故を起こされないために注意すべき点があります。以下が歩行者や自転車運転者への指導ポイントになります。

1. 停止している左折車の前を通過する時の指導
・四輪運転者は同じ四輪車は注意して見ているが、バイクや自転車は見ていないこと(四輪運転者は自分にとって危険なのは四輪だと無意識に思っているから)
・相手の左から接近する場合は特に危険なこと(四輪運転者は右方向しか見ていないから)

2. 横断歩道を通行中に左折車が近づいてきた時の指導
・左折車は自分には気づいていないかも知れないこと(左折車が他に注意を向けなければならないものがある場合、それしか見ていないから)
・特に右後ろから左折車が曲がってくる時が危険であること(背向状態では左折車がこちらに気がつかなかったり、先に行ってしまおうとする場合があるから)

編集部:車の防衛運転と同じで、歩行者や自転車も自分の身を守るために「防衛歩行や防衛走行」をしないとダメなのですね。

長山先生:そのとおりです。小学生の低学年くらいまでは、そこまで注意するのは難しいかと思いますが、小学生の高学年や中学生くらいになれば、そんな危険性も理解できると思うので、事故に遭わないための「安全な歩き方・安全な自転車の乗り方」を知って実践することが大切です。

編集部:でも、小学生や中学生がそんな実践的な交通安全教育を受ける機会はないですよね? 現状では「右見て左見て、手を挙げて横断歩道を渡りましょう」というレベルで終わっているような気がします。長山先生のような人がたくさんいて、全国の小学校に出向いて教えてくれればいいですけど、そんな訳にもいきませんし。

長山先生:そうですね。学校では国語や算数など覚えなくてはいけないことが多くて、交通安全教育にかけられる時間も少なく、なかなか学校に期待するのは難しいでしょう。そこで重要なのが、保護者が自分の子供に教えることです。私も孫にどんな事故が多くて危険なのか、口を酸っぱくして教えたことがあります。

孫にカーブ事故の危険性をとくとくと説明?

編集部:先生のお孫さんにですか? お祖父さんが交通安全の専門家とは、恵まれた環境ですね。

長山先生:孫もそう思っているか分かりませんが、孫を事故の加害者や被害者にさせたくないですから。特に口を酸っぱくして言ったのが、孫が大学に入って免許を取り、故郷に帰って友人たちとドライブをすると聞いたときです。

編集部:よくあるケースですね。どんな注意をしたのですか?

長山先生:カーブを走行する際の注意です。以前、私が住んでいる大阪府枚方市で1年間に起きた事故の分析を依頼されたことがあります。その際、カーブ関連事故71例を詳細に分析したところ、下表のように事故原因は7つのタイプに分類することができ、カーブ事故の多くが運転経験の浅い若者に多いことも分かったのです。

カーブ関連事故の原因別7タイプの分類及びその事故 ※年齢以下は平均値

編集部:それでは、先生が若いお孫さんを心配するのも仕方ないですね。でも、カーブの事故というと、つい「スピードの出しすぎ」をイメージしますが、けっこういろいろな原因があるのですね。

長山先生:同じカーブ事故でも、さまざまなタイプがあることを十分認識しておく必要があります。あなたがイメージしたとおり、事故原因の中でもスピードの出しすぎに当たる「A 高速走行による事故」の割合が高くなっています。事故の特徴としては、高速でカーブに入り、曲り切れずに車のコントロールを失って事故となるものです。事故の内訳は、対向車と正面衝突するのが58.3%、路外逸脱が25.0%、側壁やガードレールなどの工作物への激突が16.7%となっています。

編集部:対向車と正面衝突するケースが6割近くになるのですね。対向車と衝突するということは、やはり左カーブが多いのでしょうか?

長山先生:表の左カーブ率も58.3%なので、確かに左カーブが多いのですが、オーバースピードで曲がり切れずに対向車線に膨らむより、カーブを曲りきれず慌てて急ブレーキや急ハンドルの措置をとって横滑りして、コントロールを失うものが多いのです。

編集部:同乗者率が66.7%と、他より抜きん出て高いですね。

長山先生:そうです。後部座席にも人を乗せていたケースが多く、多人数を同乗させた場合の操縦特性の変化を知らず、一人で運転している時と同じ感覚で運転してしまう危険を示唆しています。平均年齢は19歳、運転経験は4か月と、運転が未熟な人に多い事故です。また、どちらかというと緩いカーブが多く、カーブと意識せず高速で突入して事故になってしまっています。

編集部:カーブと意識しないという点では、Bの「カーブ深度誤判断による事故」にも似ていますね。

長山先生:Bはカーブの進入直前あるいは進入後に初めて思っていたよりもカーブがきつく、深いことに気づいたものの、すでに遅く事故になるケースです。カーブの曲率半径の過小評価による速度の出しすぎが原因です。確かにAと非常に類似した特徴をもっていて、若年者や運転経験の未熟なドライバーが、カーブのきつさや深さを読みそこなって事故を起こしているものです。このタイプの事故の8割は左カーブです。左カーブの場合、カーブの先が見通しにくいことが原因と思われます。

編集部:お孫さんには、カーブを走行する際はそのような危険があることを説明したのですね?

長山先生:そうです。特に私が危険だと思ったのは、孫が一人でなく複数の友人とドライブすると聞いたからです。若者が免許取り立ての頃には、仲間を乗せてドライブしたいという気持ちになるようですが、仲間が乗っていると「いいかっこをしたくなる」のが人の常です。スピードを出せば出すほどかっこいい運転のように思う若者にとっては、速度を出したままでもカーブをうまく切り抜けられるところを見せようとしたりもします。

編集部:確かにそうですね。今でこそ、車に対して憧れをもつ若者は少なくなりましたが、昔は運転免許を取れる年齢になったら誰もが免許を取って、車をうまく運転することにステイタスを感じました。私も友達でエンジンブレーキを上手に使い、カーブでもブレーキをほとんど踏まずに曲がるのがいて、私は憧れていました。

長山先生:そんな認識で多くの友人を乗せて走るのが危険なのです。ニュースなどで定員オーバーによる事故事例を時々見かけますが、一人で走る場合と多くの人を乗せて満車で走る場合には、カーブでの遠心力には大きな違いが生じます。

編集部:カーブの外側に車体や体が持っていかれる遠心力ですね。

長山先生:そうです。遠心力(N)は次の式で示されます。

N=(m × v2)÷ r

ここで、m は質量、v は速度、r は旋回半径です。
遠心力にいちばん効くのは速度で、車の質量 m とは比例関係に、そしてカーブの曲率 r とは逆比例の関係になります。

編集部:急に物理の授業みたいになりましたね。物理の成績が悪かった自分には、理解できるか心配です。

長山先生:計算式が出ると難しく感じるかもしれませんが、覚えておいてほしいのは「遠心力は速度の2乗に比例して大きくなる」ということです。速度が2倍になれば遠心力は4倍に、速度が3倍になれば遠心力は9倍になるわけです。

編集部:たしか衝突エネルギーも、そんな感じでしたね。ということは、時速が30kmから60kmになると、単に2倍でなく、4倍の遠心力がかかるわけですね。

長山先生:そうです。また、計算式にある旋回半径を示す r の数値が小さくなればなるほど、遠心力は大きくなります。同じ速度なら、緩いカーブよりヘアピンカーブのほうが車体が外側にもっていかれますよね?

編集部:なるほど、だんだん分かってきました。質量の m は車の重さなので、人を多く乗せれば乗せるほど、遠心力も大きくなるのですね。

長山先生:そのとおり。人を多く乗せていると、その重さに比例して遠心力が強くなり、カーブで外にもっていかれるのです。その際、慌ててハンドルを反対に切ったり急ブレーキを踏んでしまうとコントロールを失い、事故になってしまうのです。私は孫が友人たちとドライブをすると聞いたとき、このようなデータを見せて何が危険かを話して聞かせ、みんなと一緒のときには速度を出して走ると絶対事故になり、たいへんなことになるぞ!と注意したものです。皆さんも免許を取りたての子供や知り合いがいたら、ぜひとも今回示した危険を話してあげていただきたいと思います。

『JAF Mate』誌 2016年11月号掲載の「危険予知」を元にした「よもやま話」です

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