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最終更新日:2022.06.09 公開日:2022.06.09

トヨタ『bZ4X』とスバル『SOLTERRA』が示すBEVの今後とは?

トヨタは、バッテリー式電気自動車(BEV)に本気で乗り出すクルマとして「bZ4X」を登場させた。この大きな可能性を秘めた当該車両と兄弟車であるスバル「SOLTERRA」の2台に、モータージャーナリストの会田 肇が軽井沢~東京間の約200kmを試乗。BEVとしての今後の可能性を考える。

文・写真=会田 肇

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コックピットは空飛ぶクルマを彷彿とさせる近未来感覚

試乗したトヨタ「bZ4X」Z(4WD):左、スバル「ソルテラ」ET-HS(AWD):右

 「bZ4X(ビージーフォーエックス)」とは、トヨタがバッテリー式電気自動車(BEV)に本気で乗り出すクルマの車名だ。やや取っつきにくさを感じさせるような名前だが、実はこのクルマこそ、日本の自動車界の先行きを占う上で、もっとも重要な車両になる可能性を秘めている。今回は、このbZ4Xと兄弟車であるスバル「SOLTERRA(ソルテラ)」の両車両に試乗し、軽井沢~東京間を一般道と高速道を経由した約200km走行し、BEVとして今後の可能性を考えた。

 まず、bZ4Xとはどのようなクルマなのか。bZ4Xを例にその概略を解説したい。最初に知っておきたいのは、bZ4Xはスバルと共同開発したEV専用プラットフォーム「e-TNGA」を採用する低重心・高剛性化を実現した、ミディアムセグメントSUVであるということだ。そのデザインは、EVの先進感やSUVらしい力強さを両立したスタイリングを表現している。

 インテリアは、EV専用プラットフォームがもたらすひとクラス上の広い室内空間を実現するものとなった。中央にコンソールがあるものの、足下も十分広い。そして運転席には、ステアリングホイールの上側を通してメーターが見えるように配置した独自のトップマウントメーターを採用。視線移動が少ない、ヘッドアップディスプレイのような感覚で走行情報が得られるようにしたという。まるで、近未来の空飛ぶクルマを彷彿とさせるようなこのデザインには興奮を覚えた。

ステアリング上側を通してメーターが見えるように配置した、独自のトップマウントメーター

 運転席に座ると高めのアイポイントにより、視界はすこぶる良好だった。座ってみて実感できたことは、視点を遠くしたトップマウントメーターにより、確かに少ない視線移動で情報を得ることが可能であったということ。これは、特に視点の調整が難しくなりやすい高齢者にとっては大きなメリットになりそうだ。

ガソリン車から乗り換えても違和感なく乗れるBEV

国道299号を走行するトヨタ『bZ4X』。BEVながらのジェントルな加速感が印象的だ

 試乗はまず、軽井沢からトヨタ「bZ4X」4WDでスタートした。出発地点であるホテル敷地内を低速で走り出すと、軽過ぎず、適度な重さで操舵できるステアリングが心地よかった。敷地内の段差を超えた時の突き上げ感も皆無で、走り出しの乗り心地はかなり良好だ。遮音性も高く、雨の影響がある中を走行してもノイズレベルはかなり抑えられていた。

 走行中は、アクセルを踏み込めばその分速度が上がっていった。しかし、そこには電動車特有ともいえる圧倒的な低速トルク感はない。ひたすらジェントルに、確実に速度を上げていくといった印象だ。そのため、電動車としては少々物足りなさを感じるかもしれないが、ガソリン車から乗り換えても違和感なく乗れることを考えれば妥当なのではないかと思う。

 軽井沢から長瀞までは一般道を経由した。碓氷峠では下りが続いたが、回生ブレーキが働く効果もあってフットブレーキは多用せずに済んだ。ここでも、回生ブレーキはかなり控えめの印象だったが、ガソリン車よりははるかにスムーズに峠道を通過することができた。このあたりも、従来の顧客をいかにスムーズにBEVへと誘導するのか、というトヨタらしい配慮が窺えた。

トヨタ「bZ4X」の運転席周り。ガソリン車から乗り換えても違和感はほとんど感じない乗り心地だ

 長瀞から乗り換えたスバル「SOLTERRA」AWDでは、峠道を上るところからスタートした。ワインディングを時速40~60km程度で走る間には、鋭角なコーナリングもいくつかあったが、ロールがしっかりと抑えられており、高い接地性とトラクションの良さを実感した。特にSOLTERRAには、bZ4Xには採用されないパドルシフトが装備されているので、より強力な減速Gの「Sペダル」に加えて回生を使った細かい減速を楽しむことができるのだ。これは、雪上走行などにおいて実に効果的だと思えた。

 SOLTERRAで、高速道路を走行して際立ったのは静粛性だった。当たり前だが、電動車なのでアクセルを踏み込んでもエンジン音は発生しない。加えて、高い遮音性と高い剛性を生み出すフロアによって、路面からのノイズが相当なレベルで押さえ込まれていた。重量は、bZ4Xに比べて少し硬めであるサスペンションとも相まって、乗り心地への明らかなプラス効果を生んでいた。2tを超える車重があるからこそ、ガソリン車と比べても安定感や快適さをより感じさせるものであったといえよう。

両車ともトヨタがHEVで培った技術が活かされている

トヨタ「bZ4X」のボンネットに搭載されたモーターやインバータなど

 トヨタとスバルは、この2車を現在の電動化技術の集大成として位置付けている。特に、トヨタの電動化への取り組みは、1997年に量産を開始したハイブリッド車(HEV)の「プリウス」からスタートしていた。当時のトヨタは、10年以上使われるクルマの耐久性に見合うものを作ろうと手探りでスタートしたという。その上で、ガソリンの燃焼を効率化して燃費を向上させるというバランスに則った形で完成されたのが、シリーズパラレル方式の「THSⅡ(TOYOTA Hybrid System Ⅱ)」だった。

 それ以来、トヨタのHEV販売台数は順調に伸び続け、20年には生産する車両全体の22.5%にも達した。2022年2月末には、ついに累計2000万台の大台を突破するまでに成長したのだ。その結果、トヨタはBEVの販売実績こそ少ないものの、英JATO Dynamicsの調査で、2019年の販売車両1台当たりの企業平均CO2排出量が欧州で最も少ないとされた。つまり、同社は多くのHEVを世に送り出すことで、結果としてCO2排出量削減という観点で他の欧州メーカーより高く評価されたのだ。

 とはいえ、トヨタが目指しているのはBEVを送り出すことではない。世の中ではBEVとカーボンニュートラルを結びつけることが多いが、火力発電に頼る日本の電源構成を考えた時には、必ずしもBEVがその最適解とは言えないためである。そうした状況を踏まえ、トヨタの豊田章夫社長は、パワートレーンはユーザーの動向や地域特性を鑑みた様々な選択肢があるべきだとする。トヨタがBEVをはじめ、HEVやPHEV(プラグインハイブリッド車)、FCEV(燃料電池車)など多岐にわたり開発するのもそうした背景があるわけだ。

 しかしながら、時期は不透明ながらも、将来的に主流となっていくのがBEVであることは自動車業界に身を置くものなら誰もが認識していることだと思う。トヨタは2021年暮れ、10年後の30年までに350万台のBEVを販売する方針を明らかにして世間を驚かせたが、これもバッテリーなどの電動車開発における進捗状況を判断した上で決定したことに他ならない。HEVで培った電動化の技術を活かしつつ、BEVを一つのパワーソースとして提供することを宣言したのだ。その第一弾となるのが、今回登場したbZ4Xであり、SOLTERRAというわけである。

脆弱な充電インフラはBEVの使い勝手を阻んでいる

bZ4Xの左側に備わった急速充電口。右側面には普通充電用が備わる

 ここまで、bZ4XとSOLTERRAのBEVとしての試乗と誕生した背景をレポートした。しかし、BEVを利用するユーザーにとって身近な不安といえば充電の問題が外せないだろう。基本的にBEVでは、ドライブにおいて常に充電するスケジュールを念頭に置いておく必要に迫られる。もちろん、充電した範囲内で往復できるのが一番だが、マイカーとして乗る以上、遠くまで走ることも当然想定しておきたいところだ。

 BEVは、給油と違って充電に所要時間が長くかかるという課題を抱える。急速充電を使うにしても、バッテリー保護の観点から80%で充電は停止される。普通充電を使えば満充電にはできるが、それには少なくとも一晩は充電し続けることを想定しなければならない。ドライブ中に充電に要する時間を組み込むのは、BEVを乗る以上欠かせないというわけだ。今回の試乗では、道中で充電する体験もしたのだが、それにともなう課題が次々と出てきてしまった。

 まず、充電インフラが絶対的に不足していた。2022年3月末の時点で、充電スタンドは全国に約2万1000カ所(ゼンリン調べ)あるというが、これは急速充電と普通充電の両方を含んだ数字だ。この数字は、約3万件あると言われるガソリンスタンドと比べても明らかに少ない。しかも、ガソリンスタンドは複数の給油が同時に行えるのに対して、充電スタンドの場合、高速道路のSA/PAにある施設を含めた大半の場所で1つの充電器が整備されている程度。やはり、その数はあまりに少ないと言わざるを得ない。

道の駅「万葉の里」の急速充電器。出力は25kW。無料だが、充電コードが短く横付けしないと充電できなかった

 特に今回は、同じコースを多くのbZ4XとSOLTERRAが走行したものだから、充電が必要になるタイミングが当然被ってきてしまった。1回の充電で30分行うとなれば、当然待ち時間は避けられず、案の定方々で “待ち” が発生してしまっていた。何より、今回驚いたのは、道の駅であってもサービスの提供時間が売店の営業時間(10時~17時など)に限られていたということだ。中には無料で提供されるところもあり、そのありがたさこそ感じたものだが、地方など充電スタンドが限られる環境で、こうした対応のみであることには不安が残る。

 また、急速充電器だとしても、出力が20kW~30kW程度のスタンドも数多く、これだと30分で入る電力量も限定的となってしまう。さらに言えば、時間で課金される料金体系が採用されている以上、対費用面でも効率は悪い。高出力も急速充電器も登場しているが、これらは一部の設備に限られており、どこでもその恩恵にあずかれるわけではない。

道の駅「オアシスなんもく」の急速充電器。出力は20kWで認証なく無料充電が可能

 充電スタンドの老朽化も大きな課題である。現在、充電スタンドではディスプレイの経年劣化により、表示される内容がほとんど見えなくなっていることが少なくないのだ。今回の体験では、道の駅での充電時には売店で鍵を借りて充電プラグを引き出したが、何と蜘蛛の巣が張っていてそれを払い落してから利用しなければならないというケースもあった。売店の人に話を聞いたところ、地元でBEVに乗っている人は自宅で充電することが多く、道の駅の充電器が毎日使われることはほとんどないのだとか。使用頻度は、週末に他県から来た人が使う程度に留まっている上、全国では故障によって提供を終了してしまう例も多いという。

「bZ4X」「SOLTERRA」登場はエネルギー体系の見直しにつながるか

関越道三芳PA(上り)にある急速充電器。44kWとまずまずの出力だが、枠は一台分のみである

 政府は2021年5月に、2030年までに急速充電器を国内で3万基設置する目標を公表した。しかし、この発表から1年が経った現在も、目立った動きが見られないと思うのは私だけだろうか。一方で、この目標のように多くの充電スタンドを設置するには変電所設備の設置も必要になり、さらにBEVが増えてそれがフル稼働するようになれば電力が枯渇するという新たな問題も出てきそうだ。

 特に、世界は今、ロシアのウクライナ侵攻にともない、エネルギーの需要予測を立てられないというきわめて不安定な状況に陥ってしまっている。再生可能エネルギーの拡大を目指す一方で、原子力発電に期待する声も上がる。少なくとも、BEVを普及させるには、それらを含めたエネルギー供給体系の見直しは避けて通れないといえよう。本格普及を目指すトヨタ『bZ4X』、スバル『SOLTERRA』の登場が、こうした議論をするきっかけとなることを期待したい。

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