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道路・交通2023.02.01

理由が分かれば守る? 自転車のルール|長山先生の「危険予知」よもやま話 第14回

2022年8月に逝去されるまで、JAF Mate誌の人気コーナー「危険予知」を監修されていた大阪大学名誉教授の長山先生。本連載は、誌面掲載時に長山先生からお聞きした本誌では紹介できなかった事故事例や脱線ネタを紹介しています。

話・長山泰久(大阪大学名誉教授)

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理由が分かれば守る? 自転車のルール

編集部:今回は商店街を車で走行中、前方から右側通行をしてくる自転車があり、正面衝突しそうになるケースです。最近、自転車の事故やマナー違反が問題になり、取り締まりも強化されていますが、まだまだ右側通行の自転車は多いですね。

長山先生の「危険予知」よもやま話 第14回|問題写真|くるくら

矢印

長山先生の「危険予知」よもやま話 第14回|結果写真|くるくら

長山先生:そうですね。自転車は免許が必要ないため、交通ルールをしっかり学ぶ機会があまりありませんし、ルールを知っていても、そうしなければならないと厳しく考えず、自分に都合よく道路空間を好き勝手に利用している人が多いものです。

編集部:私も車の免許を取るまでは、自転車でよく右側通行をしていました。

長山先生:たしかに子供や高齢者など、免許を持たない人ほど交通ルールを理解しておらず、守らない傾向がありますね。

編集部:小学生の頃はルール自体を知らなかったり、意識していませんでしたね。さすがに中学生になると”自転車の左側通行”は知っていましたが、左側通行だと後ろから近づく車が確認しづらいので、あえて右側通行をしていました。

長山先生:ルールを知らなかったのではなく、知っていたものの、あえて自分の考えで右側通行をしていたのですね。

編集部:そうです。理屈っぽい私は、右側通行をしていれば、前方から車が来ているのがはっきり見えるので、「自分の意思で止まったり避けたりできて、かえって安全」と確信していました。だから、いわゆる”どや顔”で右側通行をしていた気がします。

長山先生:対向してきた車のドライバーは、さぞ迷惑だったと思いますが、あなたのように理屈を考えたり、知ることは重要です。日本の交通安全教育は「ルールを守りましょう」と言うだけで、なぜ守らなければいけないのか、原因や理由に関する教育が不十分です。左側通行の日本では、自転車が右側通行をしていると、発見が遅れた際などに正面衝突する危険性があるという、理屈を知る機会がほとんどありません。

編集部:信念をもって右側通行をしていた私も、駐車車両を避けて対向車とぶつかりそうになったことがありました。自分からは対向車が見えていましたが、相手が私の存在に気づくのが遅れたのか、道幅に余裕がなかったのか、対向車があまり避けずに向かってきたので、ビビりました。それでも相手が悪いのであって、右側通行が危険だとは思いませんでしたけど。

長山先生:右側通行がなぜ危険なのか? 右側通行をすることでどのような事故が起きる可能性が高くなるのかをしっかり教わっていれば、そんな危険な目に遭うことはありません。そこが交通安全教育には必要なのです。

編集部:そうですね。私の場合、車を運転するようになって初めて、自転車の右側通行の危険性や迷惑度が分かりましたね。また、道路を横断するとき「右見て、左見て」と言うじゃないですか。なぜ初めが右で、次が左なのか? 私はこれも気になっていましたが、この業界に入って初めてその理由が分かりました。

長山先生:左側通行の道路を横切る際、先に遭遇するのは手前を走る車両、つまり右側から近づく車やバイクなので、まず右側を確認することが大切ですね。

編集部:そうです。たとえ子供でも、そんな原理や理由を分かりやすく教われば、ちゃんと守ろうとするような気がします。

長山先生:まさにそのとおりで、「道路に飛び出してはいけません!」と口を酸っぱくして言うばかりでなく、車の制動距離などを具体的に示して、”車は急に止まれない”ことを分かりやすく教えることが重要です。今回の場面で交通ルールに関することで言えば、スーパー前の違法駐輪や歩行者の左側通行も気になりますね。

駐輪の無秩序さが危険を生み出す

編集部:たしかに半端じゃない数ですね、ここの自転車は。

長山先生:自転車の止め方があまりに無秩序で驚きます。自転車でスーパーに買い物に来る人が多いためと思いますが、最近は駐輪場や道路上に設置された駐輪用のスタンドなどが整備され、道路がすっきりしている地域が多いものですが、このスーパーは未整備なのでしょう。

編集部:自転車が道路にはみ出しているため、小学生が車道に出ざるを得ず、危険ですね。

長山先生:歩行者だけでなく、自転車が通行するべき空間も自転車によって侵されてしまっています。公共の空間である道路がこのように無秩序になると、歩行者や自転車、自動車など交通参加者の行動を不自由にし、不快な感情が生じ、危険発生の誘因ともなります。

編集部:それが今回の事例と言えますね。この商店街では当たり前の光景なのかもしれませんが、小学生が道路にはみ出しながら歩き、右側通行の自転車がそれを避けてさらにはみ出してくるなんて、道路環境としてかなり問題がありますね。車の違法駐車は取り締まりの対象になりますが、自転車については免許制度がないせいか、取り締まりが行われませんね。

長山先生:駅前の不法駐輪などは撤去されますが、それは市区町村などの行政が行うのであって、警察官が取り締まることはないですね。そもそも道路交通法には自転車の駐車に当たる条項は見当たりません。『交通の教則』の基になる交通の方法に関する教則には、「自転車を駐車するときは、歩行者や車の通行の妨げにならないようにしなければなりません。また、点字ブロックの上や近くには駐車しないようにしましょう。近くに自転車駐車場がある場合は、自転車をそこに置くようにしましょう」とあります。

編集部:語尾がソフトで、ルールというよりマナーのような感じですね。

長山先生:そうですね。厳格な規則ではなく、あくまでもモラルに基づいた行動を期待する事柄と言えましょう。自転車の場合には、交通モラルに関しての認識を強固なものにする必要が求められますね。

編集部:モラルですか?

長山先生:そうです。ルールやマナーは現実の行動や行為に関連する規範ですが、それらを実行できる背景にモラルがあります。モラルは主として倫理に関する価値観、すなわち意識を身に着けているかの問題です。「ここでは、このようにしなければならない」といった社会的規範を身に着け、実践するかどうかの問題です。

編集部:ルールを守るには、モラルがないとダメなのですね。逆に言えば、モラルがない人ばかりだと、交通そのものが成り立たないですね?

米国では、ルールを守ることが市民の責務?

長山先生:そのとおりです。交通ルールの基になる道路交通法は「道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的」と定められています。

編集部:言わんとしていることは分かりますが、堅い表現ですね。

長山先生:法律なので、どうしても難解な文章になります。そこで、交通に参加する人が従わなければならない法規を分かりやすい文章で示したものとして『交通の教則』(※)があります。
※2012年4月からは『わかる 身につく 交通教本』

編集部:免許の更新時にもらう、あの冊子ですね。

長山先生:そうです。『交通の教則』では、以下のように分かりやすい文章で書かれています。「道路は、多数の人や車が通行するところです。運転者や歩行者がひとりでも自分勝手に通行すると、交通が混乱したり、交通事故が起きたりします。また、自分だけはよくても、ほかの人に迷惑を掛けたりすることがあります。交通規則は、このようなことから、みんなが道路を安全、円滑に通行するうえで守るべき共通の約束ごととして決められているものです。言い換えれば、交通規則を守ることは、社会人としての基本的な責務なのです」

編集部:たしかにそうですけど、”社会人としての基本的な責務”という表現はちょっと大げさな感じですね。

長山先生:初めて聞くと大げさに思えるかもしれませんが、これが安全でスムーズな交通を可能にする原点で、外国でも同じような表現がされています。米国の交通安全教育の教科書には「良き交通市民としては、われわれの交通システムを安全で、効率よく機能できるようにするための個々人の責任がある」と書かれています。ルールを守り違反を起こさないことは、交通システムを正常に保つためのすべての市民(Citizen)の責任であると、子供の頃から教えているのです。

編集部:子供の頃から教えるとは、ルールを守ることをとても重要視しているのですね。

長山先生:そうです。ドイツの交通規則には「交通参加者は他者を傷つけたり、脅威を与えたり、妨げたり、煩わせたりするような行動をとってはならない」と、さらに厳しい表現で書かれています。要するに「私たちは事故を起こすことはもちろん許されないし、ルールに従わないで人様に迷惑をかけるようなことは許されません」と言うことです。

編集部:いかにもドイツらしい表現ですね。以前からドイツのアウトバーンを走りたいと思っていますが、ドイツで違反をしたら、たいへんなことになりそうですね。

長山先生:かなり昔の話ですが、そのアウトバーンで捕まったことがあります。

アウトバーンで覆面パトカーを追い越す!?

編集部:長山先生、ドイツで捕まったことがあるのですか!?

長山先生:1960年のことでした。当時のアウトバーンは片側2車線がほとんどで、工事区間では1車線になり、前のトラックについて比較的ゆっくりした速度で走っていました。途中の右側に駐車エリアがあり、そこから真っ白なベンツのスポーツカーが出ようと待機しているのが見えて、なんとかっこが良い車だと思って走ったものでした。

編集部:トラックの後ろをゆっくり走っていて、なぜ捕まったのですか?

長山先生:工事区間が終わったので、さっそく遅いトラックを追越車線に出て追い越したのです。しばらくすると後ろから何か放送の声が聞こえたので、「ドイツではアウトバーンでも宣伝放送するのか」と思っていますと、私の後ろにピタッと着いた車をバックミラーで見ると、”STOP”という文字が見えました。

編集部:パトカーだったのですね?

長山先生:そうです。「あれあれ」と思って道路の右端に停車すると、私の前に回り込んできたのは、先ほど見た真っ白なかっこが良いスポーツカーで、それが覆面パトカーだったのです。

編集部:羨望の眼差しで見たスポーツカーが、なんと覆面パトカーだったとは。

長山先生:警察官は1人だけで、私がドイツ人でないことが分かって困ったような顔で近づいてきて、「あなたは違反をしましたよ。免許証を見せてください」と言いました。国際免許証を見せると「あなたは追い越し禁止区間で追い越しました」と言います。でも、追い越し禁止区間だった記憶がないので、「私はそんな違反はしていないと思いますが」と言うと、「確かにあなたが追い越し違反区間で追い越したのを確認しています。もし、納得できないなら裁判所に正式に出てきていただきましょう」と言われました。そうでなければ、「秩序違反金5マルク(当時であれば500円程度)を払えば良い」と言われたので、裁判所に呼び出されてはたまらないと思って現金を支払いました。

編集部:500円程度でよかったですね。でも、本当に追い越し禁止区間だったのですか? まさか、インチキ警察官だったとか?

長山先生:日本とは違ってパトカーに1人だけで乗っていることや、現金を取り扱っていることを不思議に思いましたが、インチキ警察官ではなかったようです。現金で徴収したのは、外国人だったので、その場で罰金を徴収しておく必要性があったからでしょう。でも、追い越し禁止区間については納得がいかなかったので、もう一度走ってみると、確かにどこの工事区間でも、終了してその後500m位の区間は追い越し禁止の標識がありました。追い越せる状況になっても追い越しにかかることが禁止されているのは、「急ぎの気持ち」を抑制するための措置だと感心したものです。

編集部:違反で捕まると、つい運が悪かったとか、規制が現実に合っていないなどと思いがちですが、感心するなんて凄いですね。

長山先生:慌て者で急ぎの傾向がある私は、「追い越しができるので嬉しい」とその追い越し禁止の標識に気付かず、そしてかっこの良いスポーツカーが覆面パトカーとは知らずに追い越しをしてしまったわけです。周囲が見えていなかったのは明らかで、反省することしきりです。

『JAFMate』誌 2016年1・2月号掲載の「危険予知」を元にした
「よもやま話」です


【長山泰久(大阪大学名誉教授)】
1960年大阪大学大学院文学研究科博士課程修了後、旧西ドイツ・ハイデルブルグ大学に留学。追手門学院大学、大阪大学人間科学部教授を歴任。専門は交通心理学。1991年4月から2022年7月まで、『JAF Mate』誌およびJAFメイトオンラインの危険予知コーナーの監修を務める。2022年8月逝去(享年90歳)。

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