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最終更新日:2022.05.18 公開日:2022.05.18

スズキがMotoGP参戦終了を協議中。理由は経済情勢と大きな変化への対応

2022年5月12日、スズキは2022年シーズンでMotoGPへの参戦を終了することを、運営会社であるドルナスポーツと協議中であることを発表した。その理由を「現在の経済情勢と近年の自動車産業界が直面している大きな変化への対応」としている。このようなバイクメーカーとMotoGPの現状を紹介する。

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コロナ禍の2020年にチャンピオンを獲得

2022年24日に行われたチーム発表会でのチーム スズキ エクスターのライダーとスタッフ 写真=スズキ

 スズキは2022512日に、MotoGPFIMロードレース世界選手権)への参戦を2022年シーズンで終了するための協議を、同選手権の運営会社であるドルナスポーツと行っていることを発表した。この情報は51日のスペインGPころから噂として流れ始めた。スズキのチームスタッフやライダーへスペインGP前後にチーム首脳陣から「参戦終了」が伝えられたという話がパドックを駆け抜けた。その後にスズキから、今回の「参戦終了を協議中」というリリースが発表され、噂が事実となった。

 スズキは、FIMロードレース世界選手権の最高峰であるMotoGPに、1974年からフル参戦を開始。当時MotoGPの前身であるGP500で、ライダーとコンストラクター(製造者)チャンピオンを1976年に獲得。コンストラクターチャンピオンは同年から7年連覇し、ライダーチャンピオンもバリー・シーンが2回、マルコ・ルッキネリ、フランコ・ウンチーニが各1回の合計4回を1982年までに獲得した。しかし経済情勢などから1983年でGP500への参戦を終了。その後バブル期が始まった1987年から参戦を再開し、ライダーチャンピオンはケビン・シュワンツ、ケニー・ロバーツJrが獲得し、コンストラクターチャンピオンも2回獲得することで、ホンダ、ヤマハと並ぶGP500の強豪として君臨した。

 GP500が2002年からMotoGPに変わってもスズキは参戦を続けていたが、2008年のリーマンショックの影響でチームの規模をライダー2人から1人にする縮小を行って活動を継続。それでも経済情勢には抗えず、成績低迷も加わり、2011年には再び参戦終了となってしまった。

 しかし、リーマンショックの影響を克服したスズキは2015年から3度目の参戦を果たした。バイクも2011年以前のものとは全く異なる新設計のものを用意。そのバイクで年々、ライバルたちとの性能差を縮めたスズキは、パンデミックとなった2020年シーズンに、MotoGPとなって初めてのライダーチャンピオンを獲得。同年はスズキの創立100周年であり、それに花を添えることとなった。

2020年にMotoGPのライダーチャンピオンを獲得したジョアン・ミル(写真中央) 写真=スズキ

 その後の2021年、2022年シーズンも好成績を残し、強豪復活を印象づけていた。ところが、今回の「参戦終了の協議中」の発表となり、ライダー、チームスタッフは「好成績なのにナゼ」という気持ちでいっぱいのはずだろう。

 なお発表の最後には「これまでスズキの二輪レース活動を支え、温かい声援を送っていただいたファンの皆様に感謝申し上げます」と謝意で締めくくられている。

2022年の第第4戦アメリカGPで、スズキはMotoGPで通算500回目の表彰台を記録。それを記念する集合写真にはスズキで活躍したライダーたち並んだ。上の左からフランコ・ウンチーニ、ロリス・カピロッシ、ランディ・マモラ、アレックス・リンス、ジョアン・ミル、ケビン・シュワンツ。下の左からジョン・ホプキンス、マーベリック・ビニャーレス 写真=スズキ

カーボンニュートラルとバイクの先進運転システム

 ところで今回の参戦終了の理由としてスズキは、「現在の経済情勢と近年の自動車産業界が直面している大きな変化への対応を加速するために、スズキは、資金と人的資源を新技術の開発に集中的に投入していきます」と述べている。「近年の自動車産業界が直面している大きな変化」については、202010月にホンダが2021年シーズンでF1参戦の終了を発表したときも理由に挙げていたことである。具体的にはCo2が低排出なカーボンニュートラル社会への対応することだが、それは製品(車・バイク)に加え生産体制(工場の電力など)までも対応させる必要があるのだ。これに関しては、国内外の自動車メーカーの多くがすでに取り組み始めており、2030年代にはCO2が低排出や再生可能エネルギーを動力にするなどで、カーボンニュートラル社会に対応した工場へと生産体制をシフトさせる予定だ。スズキもこの流れに加わるために、資金と人的資源を新技術の開発に集中的に投入することになる。

 また車では、アダプティブクルーズコントロール(以下ACC)や被害軽減ブレーキ、車線逸脱抑制などの先進運転支援システム(以下ADAS)を装備していることが、近年では一般的になりつつある。対してバイクは、2018年にABS(アンチロックブレーキシステム)の義務化が始まり、2021年にはACCを装備したバイクが初登場するなどしている。そのほかのADASも研究や開発が活発になっており、近年のうちに一般的に装備される車種が一気に増えそうだ。それに遅れないためにも新技術の開発へ人的資源の集中的な投入は不可欠なのだろう。

スズキの新型スポーツツアラーGSX-S1000GT。エンジンの出力を制御する電子システムやスマートフォン連携機能付の大画面フルカラーTFT液晶メーターを採用している 写真=スズキ

現在の経済情勢の影響とは

 そして「現在の経済情勢」だが、これはコロナ禍以降の経済活動の縮小に加え、ウクライナ侵攻などの影響がMotoGPには出始めている。具体的には、侵攻に対する経済制裁により今後の見通しが不透明なところだ。見通しが不透明なので、スポンサー企業との契約金、バイクメーカーや部品メーカーから拠出されるレース活動費などは公にされてはいないが、前年と同額を維持するのが厳しくなっているようだ。

 それを感じさせたのは、515日のフランスGPの期間中に開かれたMotoGPライダーと運営会社であるドルナスポーツのCEOとミーティングでの議題だった。ライダー側からコロナ禍以降、契約金などが大幅に下がりつつあるという議題でCEOと話し合いが行われたという。ライダーの契約金はチームの活動費の一部であり、それが大幅に下がるということは活動費自体も縮小されているからと推測される。

 このような経済情勢にはドルナスポーツのCEOも危機感を抱いているようで、スズキの参戦終了を覆すのは不可能に近いが、MotoGPを運営を安定させるために何らかの施策を講じてくると思われる。


スズキがMotoGPで活躍した写真は
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