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最終更新日:2023.06.20 公開日:2022.07.14

対向車線の隙間に気づく人と気づかない人|長山先生の「危険予知」よもやま話 第9回

JAF Mate誌の人気コーナー「危険予知」の監修者である大阪大学名誉教授の長山先生に聞く、危険予知のポイント。本誌では紹介できなかった事故事例から脱線ネタまで長山先生ならではの「交通安全のエッセンス」が溢れています。

話・長山泰久(大阪大学名誉教授)

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対向車線の隙間に気づく人と気づかない人

編集部:今回の問題は、渋滞中の対向車線の間から車が出てくるケースですが、問題写真では出てくる車がまったく見えないので、難しく感じた読者も多かったかもしれません。

長山先生:そうかもしれませんね。私もドライバーの立場でこの写真を見たら、初めは「駐車車両があるな。少し右に寄らなければ」とか「左の道からは何も出てきていないな」としか考えないでしょう。ただ、もう少し車が進むと、右側の車列に隙間が空いていることに気が付き、「ひょっとすると、そこから車や自転車、歩行者が出てくるかもしれないぞ」と危険を予知することになるでしょう。

編集部:近づけば、より車列の隙間に気づきやすくなるということですね。

長山先生:そうです。対向車の車列の隙間は遠くからはなかなか気づきにくいもので、近づいていくと初めて少し空いていることに気づき、「なぜだろう?」と考えるものです。

編集部:でも、車が出てくるまで隙間に気づかない人もいますよね?

長山先生:そうですね。同じ状況に遭遇しても、隙間に、(1)気づく人、(2)気づいても何も思わない人、(3)気づいて何か出てくるものを考え、対処しようとする人、の3種類のドライバーがいます。もちろん、安全な運転ができるようになるには、(3)のドライバーであることが必要です。

編集部:たしかに、いっしょに車に乗って同じものを見ていても、そこから危険を予測できる人と、そうでない人がいますね。運転経験の影響は小さくないと思いますけど、必ずしもそれだけじゃないような気がします、何が違うのでしょう?

柿の木から落ちて、危険感受性が育った

長山先生:同じ場面に遭遇しても、そこから危険を予測できるか否かは、危険感受性の高さによるものだと思います。

編集部:危険感受性ですか?

長山先生:そうです。文字どおり危険を感じる能力・センスのレベルで、危険予知や危険予測を行う際の根源となる、とても重要なものです。

編集部:その危険感受性は、誌面の「危険予知」などで学習することで高めることができるのでしょうか?

長山先生:もちろん、そうです。ただ、危険感受性は子供の頃からの経験が大きく影響するように思います。私の場合、小学生時代の「柿の木からの転落」体験が危険感受性を高める、大きなきっかけになりました。

編集部:柿の木から落ちた経験ですか?

長山先生:そうです。小さい頃、裸足で木に登るのが得意だったのですが、小学4年生のとき、柿の木の上まで登り、枝につかまっていたところ、6年生の男の子が下の太い枝を揺すったため、枝が折れて地面に落ちてしまいました。幸い、下の枝に一度バウンドしてから落ちたため、ケガもなかったのですが、そのことで柿の木の枝は折れやすいことを学んだのです。

編集部:下の枝がクッションになってなければ、大ケガを負ったかもしれませんね。それで木登りをやめるようになったのですか?

長山先生:いいえ、私の場合、柿の木の枝が折れやすいことを学び、それからは折れにくいように枝の根本部分に足を置くというように、安全・危険を考えて行動するようになったものです。枝が折れる危険を学習することで危険感受性が高まり、それが木登り以外での慎重な行動の基になったと考えます。

編集部:“転んでもただでは起きない”ではありませんが、痛い目にあったことで学習したのですね。

長山先生:そうですね。だから、危険感受性というのは、危険な経験をしたときに、このような場合は危険だから注意しようとか、次はどうしたら安全なのかを考えることで高められるものだと思います。

編集部:では今回の状況も、危険感受性が高い人ほど対向車線の隙間を見たとき、それを見落とさず、そこに潜む危険を予測できるわけですね。ちなみに今回のケースの場合、事前に危険が予測できたら、クラクションなどで相手に注意を促すのがいいのでしょうか?

下手に譲るのは事故のもと?

長山先生:道路交通法では、「警笛鳴らせ」や「警笛区間」を示す規制標識がない場合、危険を避けるためやむを得ない場合以外は”みだりに警音器(クラクション)を鳴らしてはいけない”としています。今回のケースでは、出てくる車が見えない状況なので、クラクションを鳴らして注意喚起をするのは適切でないでしょう。

編集部:対向車線の隙間から出てくる車の先端の一部でも見えていれば、注意喚起としてクラクションを鳴らすことはできますよね?

長山先生:もちろんです。ただし、鳴らし方には注意が必要です。自分の車が近づいているので、「これ以上、出ないように」というなら、「ぶぶー」と強く長く鳴らす必要があります。逆に結果写真のように、すでに車が出てきていて、相手に「先に出るように」と譲る場合、「ぷぅ」と軽く短く鳴らします。

編集部:クラクションは滅多に使わないので、鳴らす加減が難しいですね。譲るため軽く鳴らしたつもりが、けっこう強い音で鳴らしてしまったことがあります。

長山先生:そうですね。危険を避けるからといって、あまり強い音で長く鳴らすと、相手のドライバーは攻撃されていると受け止め、最悪、喧嘩から殺人事件に発展したというケースもありました。かといって、あまり上品に鳴らすと、相手に「行ってもよい」と思われ、事故になる危険があります。

編集部:クラクションだけでなく、ライトのパッシングで合図することもありますが、こちらの意図とは違う捉えられ方をされることもあるので注意が必要ですね。

長山先生:そのとおりです。また、相手に譲るときは、周囲の状況を慎重に考えて譲らなければなりません。譲ったことによって、自分以外の車と譲った相手の車が衝突してしまうケースがあるからです。

編集部:事故事例で有名な「右折時のサンキュー事故」なんかがそうですね。

長山先生:おっしゃるとおりで、バイクが左後方から近づいているにもかかわらず、良かれと思って対向右折車に道を譲れば、譲った相手とバイクが衝突する危険性があります。”下手に譲ると事故のもと。譲るときにはよく考えて”というのが私のモットーです。

編集部:とてもよくわかります。実は、先日幹線道路の下り坂を走っていたところ、先を走っていた車が停止して、側道から合流してくる車に道を譲ったのです。側道とはいっても一時停止がある交差点だったので、合流車は車が途切れてから入るのが一般的で、前車が譲るためにわざわざ止まるとは予想できず、慌ててブレーキを踏んでしまいました。速度が乗る下り坂でしたから、もう少し後続車にも配慮してほしかったです。ちなみに、今回のケースも対向車が黒い車に道を譲ったような状況ですが、渋滞車列から出る際の安全確認は難しいですね。

譲った相手を待たせたほうがいい?

長山先生:そうですね。本誌でも安全な出方を図で説明していますが、渋滞車列の間を抜けて右折したり、直進するのは高リスク状態と言えます。

編集部:危険度が高い状況ということですか?

長山先生:そうです。今回のように対向車線が渋滞していても、自分の車線がスムーズに流れていれば、対向車線のことを考えずにスイスイと走ってしまうドライバーが多いので、そんなときに車列の隙間から車が出てくれば、必然的に衝突してしまうでしょう。

編集部:たしかに、危険予知の問題なので、じっくり危険を探しますけど、ふつうなら特に注意しないで走ってしまう気がします。

長山先生:だから、渋滞で停止している車のドライバーが、路地から出てくるあなたのために停止して譲ってくれたとしても、すぐ通過するのではなく、左側の車が進んで、左側の視界が開け、安全確認ができるのを待ってから進むことが大切です。

編集部:左側の車が進んでからですか? 渋滞がひどくて進みが悪い場合、止まってくれた相手をけっこう待たせてしまいますね。

長山先生:待たせるといっても、左側の車が進まない限り、譲った相手も進めません。譲ってくれると、つい「早く行かなければ、相手に悪い」という気持ちになりますが、危険を冒して無理して通過する必要はないのです。逆に、少し時間をかけても、その場の状況をよく見て、事故を起こさないで安全に進むことが、親切に譲ってくれた人の気持ちに沿える最良の方策です。

編集部:たしかに譲った相手が事故を起こしてしまったら、気まずいですね。

長山先生:そのとおりで、譲った人の心の中に嫌な思いや悔いを残すことになるので、譲られた場合は、むしろこちらの心を落ち着かせて、絶対に事故を起こさないように十分安全を確認することが何よりです。

『JAFMate』誌 2015年7月号掲載の「危険予知」を元にした
「よもやま話」です


【長山泰久(大阪大学名誉教授)】
1960年大阪大学大学院文学研究科博士課程修了後、旧西ドイツ・ハイデルブルグ大学に留学。追手門学院大学、大阪大学人間科学部教授を歴任。専門は交通心理学。91年より『JAF Mate』危険予知ページの監修を務める。

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