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連載2022.05.17

『イタリア発 大矢アキオの今日もクルマでアンディアーモ!』第27回 赤いイタリア車、実は「だいたいが外国のお客さん」という法則!

イタリア車といえば赤!という認識、実は間違っていた!? イタリア・シエナ在住の人気コラムニスト、大矢アキオがヨーロッパのクルマ事情についてアレコレ語る人気連載。第27回はクルマのボディカラーについて。

文と写真=大矢アキオ(Akio Lorenzo OYA)

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赤はたった7%

2022年4月、シエナの城塞脇にある無料駐車場にて。大多数のクルマが無彩色で、有彩色は極めて少ないことがわかる。2022年4月、シエナの城塞脇にある無料駐車場にて。大多数のクルマが無彩色で、有彩色は極めて少ないことがわかる。

イタリア車といえば、日本では赤いボディカラーの印象が強い。しかし本場では……というのが今回のお話である。

イタリアでは5月になると、一気に外国ナンバーのクルマを見かける機会が増える。多くの地域で日本よりも春が短く、一気に夏の陽気になって観光シーズンが訪れるためである。そうしたクルマで面白いのは赤い塗色のイタリア車、とくに高級モデルは、かなりの確率でドイツ、スイスなどアルプス以北のナンバーが付いていることだ。いっぽう、イタリアナンバーの赤い高級車は、けっして多くない。

理由は簡単である。「高級モデル」について先に説明すれば、イタリア政府は長年、大排気量車・高出力車に禁止税的な税制を敷いてきたためだ。たとえば1980年代初頭には、排気量2000cc以上のクルマに重税を課した。そのためフェラーリは「308」シリーズに、国内仕様として1990ccエンジンを搭載した「208」を設けたくらいだ。2011年からは最高出力185kW以上のクルマに1 kWあたり20ユーロ(約2700円)を課税している。

これに従うと、出力375kWの「アルファ・ロメオ・ステルヴィオ・クアドリフォリオ」の年間自動車税額は円換算で軽く60万円を超える。つまり、イタリアで高級車を維持するのは、けっして容易ではないのだ。

次に肝心のカラーである。イタリアではここ約20年にわたり赤は人気が低い。国際的な自動車用塗料メーカー「PPG」が2022年に発表した、イタリア人が好む車体色は以下のとおりである。

1位 グレー 32%
2位 白   26%
3位 黒   18%
4位 ブルー 10%
5位 赤   7%

つまり上位3つは無彩色であり、それらを合計すると、なんと76%におよぶ。そうした状況だから「イタリアナンバーの赤い高級モデル」を見る機会は稀なのである。

実は、他のヨーロッパ諸国の人気色ランキングでも類似した結果だ。しかし、長年の外国人イタリア車ファンは、往年のグランプリカーのナショナルカラーである赤に今も憧憬を抱く人が少なくない。そのため”本場”に颯爽とやってくるイタリア車は赤である確率が高くなってしまうのである。筆者にいわせれば、ちょっとした外国人のお客さん発見器である。

なぜ避けるのか?

アルファ・ロメオ・ブレラ。最終生産年は2010年だから、車齢は少なくとも12年ということになる。2021年12月撮影。アルファ・ロメオ・ブレラ。最終生産年は2010年だから、車齢は少なくとも12年ということになる。2021年12月撮影。

次に、なぜイタリア人が、赤を避けるようになったのか?を考察してみる。

第1は「トレンド」である。2000年前後からイタリアでは高価格車市場で、ドイツ系プレミアムブランドが国内製競合モデルを駆逐するかたちでシェアを伸ばした。そのドイツ系は、グレーのメタリックやブラックでグレード感を強調していた。

洋の東西を問わず、人は”高級感”に弱い。そのため、やがてより手頃なクラスのクルマにも、無彩色のトレンドが及んでいった。当時から今日まで、筆者は何度となく「なぜヴィヴィッドな色を選ばないのか?」という質問をイタリア人ユーザーに投げかけたことがあったが、たびたび「シックでないから」という答えが返ってきた。

シルバーだと汚れが目立たない=洗車の手間が少ないことも、理由のひとつだ。イタリア半島では、地中海の対岸にある北アフリカの砂を含んだ雨にたびたび見舞われる。これが降ると、たった数分でクルマはたちまち汚れてしまう。くわえて、いまだ未舗装路も少なくない。洗車代を節約したい昨今、シルバーを選べば汚れが目立たないのである。

第3に「退色」の問題だ。日本で郵便ポストをみればわかるように、赤い塗料は光を吸収しやすいため他色に比べて退色が激しい。路上駐車が多く、かつ年間日照日数が日本の多くの都市と比較して長いイタリアの中部や南部では、赤だとあっという間に退色し、場合によってはピンク色に近くなってしまう。

イタリアの業界団体UNRAEの2021年発表資料によると、この国における乗用車の平均車齢は11.8年で、2009年の7.9年と比較して大幅に増している。以前は頻繁に買い換えられたことから、たとえ赤でも良かったが、そうそう買い換えられなくなった今日、すぐ退色するクルマは敬遠される。

赤を選択するユーザー数低下に追い討ちをかけるのが、カタログにおける「標準色」である。イタリアで登録台数ナンバーワンの「フィアット・パンダ」2022年イタリア仕様車は、「ホワイト」「グレー」そして「シルバーメタリック」の3色のみだ。

こうした大衆車の場合、メーカーは在庫リスクによるコスト増を極端に嫌い、不人気色を徹底的に排除するのである。そのうえ、追加料金不要の塗色は「グレー」のみ。あとの2色は600ユーロ(8万3000円)もの追加だ。そのため、昨今はグレーのパンダのみがイタリア中に溢れている。

トレンドに変化の兆候?

昨今イタリアで

昨今イタリアで”グレーのフィアット・パンダかぶり”が頻発するのは、唯一の追加料金不要色だから。

前述のPPGと双璧を成す自動車塗料メーカー「BASF」は毎年、ボディカラーのトレンド予測を世界の地域別に分析している。近年は欧州ではブルーの人気が上昇中と発表しているが、イタリアに関していえば、それが顕著な傾向としては表れていない。

いっぽうトリノの著名カロッツェリアのスタッフから聞いたところによると、クルマの造形がもっともよく表現できるのは、シルバーであるという。「サイドのキャラクターラインやリフレクションといった、デザイナーが意図したニュアンスがもっとも的確に伝わるため」と解説する。たしかにコンセプトカーはシルバーが多い。

最後に筆者自身について記すのをお許しいただけるなら、個人的には無彩色が苦手で、明るい有彩色のほうが好みである。巨大駐車場で自車を発見するのに、他車と同じような色では面倒だからだ。

1990年代末、イタリアに住み始めて最初に買った初代「ランチア・デルタ」はワインレッドだった。買った時点で12年落ちの1987年式だったので、街行く同型車はほとんどいなかった。しかし、面白いことに行く先々で「懐かしい色だねえ」と声をかけられた。あるときは「俺も同じ色に乗ってたもんよ」と懐かしがられた。聞けば新車当時デルタといえば、これが代表色だったらしい。

次に乗ったのは白い「フィアット・ブラーヴァ」だった。イタリアでタクシーの標準色は白である。そこにもってきて、同型車が大量導入されていたため、ある時お年寄りに誤って手を挙げられてしまった。そこでふたたび有彩色に戻ることにした。

イタリアで無彩色を避けて中古車を探すのは、それなりに苦労を要する。次のクルマ(ワインレッド)もその次のクルマ(ブルーメタリック)も、400km近く離れたミラノでようやく見つけた。最近に至っては、中古車検索サイトで「これは」という色を見つけてよく読むと、売り主はドイツだったりする。

筆者がイタリアで最初に中古で買った初代ランチア・デルタ1300LXは、ワインレッドだった。筆者がイタリアで最初に中古で買った初代ランチア・デルタ1300LXは、ワインレッドだった。

おばあちゃんにタクシーと間違えられたフィアット・ブラーヴァ。2006年撮影。おばあちゃんにタクシーと間違えられたフィアット・ブラーヴァ。2006年撮影。

かくも無彩色が跋扈(ばっこ)するイタリアで、将来人々の記憶に残るホディカラーはもう誕生しないのかと思うと、一抹の寂しさを感じる……と嘆いていたら、2021年からルノー・グループの1ブランドである「ダチア」の主要モデルがワインレッドを唯一の追加料金不要色に設定した。その他の色は、円換算で4.8万円〜9万円という高価なオプション設定である。どのような意図があって、従来の人気色を無料に設定しなかったのかは不明だ。

ともあれ、もともと低価格を売りにしているブランドだけに、ワインレッドを選ぶ人は限りなく多いようだ。2022年に入ってから路上でワインレッドのダチアとすれ違う機会が明らかに増えた。実際、ダチア販売店の納車ブースを覗いてみたら案の定、ご覧のような様子になっていた。20年にわたり続いた、無彩色の牙城が崩れるか、興味あるところだ。

「ダチア」の主要モデルは、「ロッソ・フュージョン」と名付けられたワインレッドが唯一の追加料金無しカラー。そのため、納車ブースはご覧のとおり。2022年1月末に撮影。「ダチア」の主要モデルは、「ロッソ・フュージョン」と名付けられたワインレッドが唯一の追加料金無しカラー。そのため、納車ブースはご覧のとおり。2022年1月末に撮影。

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