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最終更新日:2023.06.14 公開日:2022.04.11

『イタリア発 大矢アキオの今日もクルマでアンディアーモ!』第26回 イタリア人運転者の6割がお守り信仰! 気になるミラーに下げる「アレ」とは?

イタリア・シエナ在住の人気コラムニスト、大矢アキオがヨーロッパのクルマ事情についてアレコレ語る人気連載。第26回は、イタリア人も大好き!? クルマにつけるお守りについて。

文と写真=大矢アキオ(Akio Lorenzo OYA)

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今回はイタリアのドライバーがリアビューミラーに掛けるものを分析する。これは魔除けの赤い角×2本と、幸運を呼ぶテントウムシの組み合わせ。

中古車のテントウムシ

皆さんは愛車のルームミラーに、何かぶら下げているだろうか? 日本では「視界を遮る」「揺れる物体は運転への注意力を散漫にする」といった考え方があるのも事実だ。また筆者がかつて聞いた話として「左右に振り子運動をすることから、催眠効果が誘発される」という説もあった。

それでも筆者が住むイタリアでは、かなりの頻度でリアビューミラー(以下ミラー)に何かをぶら下げているクルマを目撃する。

この国でミラーにマスコットを下げたクルマと最初に出会ったのは、25年ほど前である。購入した個人売買の中古車だった。下見の時点で、テントウムシのマスコットがぶら下がっていることに筆者は気づいていた。

高齢の自動車所有者と、ユーモラスなテントウムシはあまりに対照的だった。そこで引き取り当日「これ、どうしますか?」と尋ねると、彼は丁寧にヒモを外しながら、こう言って笑った。「これは子どもが小さいときに付けたんだよ」。クルマは12年落ちだった。彼に20歳の子どもがいたとすると、8歳の頃からぶら下がっていたことになる。乗っている子どもを飽きさせないために、ぶら下げていたに違いない。

「魔法の木」と「世相反映型」

他にもイタリアのドライバーは、どのようなアイテムをミラーにぶら下げているのかを解説していこう。もっとも頻繁にみられるのは「芳香系」。つまりフレグランスである。なかでももっともシェアが高いと思われる商品は、木の形にくり抜かれた紙プレートだ。

商品名は「アルブル・マジーク(魔法の木)」という。開発のきっかけは化学者で調香師でもあったアメリカのユリウス・ゼーマンという人が1952年、「こぼれてしまった牛乳の臭いを何とかしたい」というトラック運転手の悩みを耳にしたことが始まりという。

彼は、カナダに生える松の木の香りを染み込ませた自動車芳香剤「リトルツリー」を作ったところヒットした。「アルブル・マジーク(魔法の木)」はそのイタリア版で、メーカーによると1964年から販売されている。今日その香りやカラリングのバリエーションは40種類にのぼる。

ただし、芳香系には「自作」もみられる。とくに多くみられるのは、ラヴェンダーを摘んで乾燥させ、つまりポプリにして適当な袋に入れて下げているものだ。庭や道端にラヴェンダーが頻繁に生えているイタリアならではである。

イタリアでもっとも普及している芳香剤「アルブル・マジーク」を掛けたクルマ。

同じ芳香系でも、こちらはリキッドタイプ。

ラヴェンダーなどでポプリを作り、袋詰めした自作派。

 いっぽう社会・世相反映型といえるものもある。たとえばイヤフォンだ。イタリアでもスマートフォンや携帯電話を操作しながらの運転は道路交通法違反である。そうしたなか、ハンズフリー用イヤフォンを耳に装着して運転するドライバーが増えてきた。外したときに引っ掛け場所にミラーはちょうど良いのである。

もうひとつはマスクである。2022年4月現在イタリアで、人々が密集していない屋外でのマスク着用義務はすでに撤廃されている。だが店舗など屋内では4月末まで着用が引き続き義務づけられている。そのため、外したマスクをちょいと掛けるのに、これまたミラーが最適なのだろう。

それに関連していえば、下記の写真は2022年に入ってから、ある欧州系自動車ブランド販売店の中古車コーナーの展示車に下げられていたプレート系芳香剤である。よく見ると「危機は終わった。これから貧乏の始まりだ」と、アイロニックなメッセージがプリントされている。調べてみるとこの商品、大手チェーン系カー用品店でも扱われている。マスクも皮肉メッセージも、できれば早く不要になってほしい「ぶら下げモノ」である。

よく見ると「危機は終わった。今は貧乏の始まりだ」の文字が。

ハンズフリー用と思われるイヤフォンとマスク。

レベル5時代も魔除けグッズ?

しかしイタリアのミラーぶら下げアイテムとして伝統的なものといえば、やはり「お守り系」である。日本でも交通安全の赤いお守りを下げている人がいるが、そのイタリア版だ。十字架のほか、とくに南部で魔除けとして信仰が篤い「赤い角」もたびたび見かける。

他にも「馬蹄」や、カトリックにおけるお数珠的存在である「ロザリオ」も定番である。また「ゴッボ」といわれる山高帽を被った男の人形は、背中のこぶに触ると幸運が訪れると信じられている。

自動車保険比較サイト「キアレッツァ・プント・イット」の2011年調査によると、イタリアでは「おまじないや魔除け・幸運のマスコットは、たとえめざましい効果は無くても、交通事故や不運から身を守ってくれる」と信じるドライバーがなんと60%にのぼる。

ロザリオ付き十字架+赤い角(と象)

ナポリにて。赤い角は、とくにイタリア南部で幸運のシンボルとして大切にされている。

赤い角同様、山高帽の紳士「ゴッボ」もラッキーアイテムだ。

 冒頭のテントウムシも、実は幸運のシンボルである。カトリックにおける聖母マリアの人生における悲しみと喜びが各7つであったことと、テントウムシの紋が7つであることから崇められてきた、というのが有力な説である。

テントウムシ信仰は、アルプス以北で強いが、イタリアでもときおりみられる。たとえば、冒頭の写真は、赤い角とてんとう虫の”ハイブリッド”、さらにロザリオ付き十字架+赤い角(+象?)というクルマも発見した。

テントウムシのぬいぐるみ状マスコット。

 気になるのは未来だ。特定の条件下でシステムがすべての運転操作をする「レベル4」や無条件ですべての運転操作をクルマがする「レベル5」が普及すると、リアビューミラーは必要なとき、つまり手動運転するときだけ引き出す、もしくは自動的にポップアップするようなるかもしれない。

今回紹介したようなアクセサリーたちは居場所を失ってしまうのだろうか、それとも別のぶらさがり場所が与えられるのか。ドライバーがいない車内で十字架や赤い角が揺れているのを眺めながら乗っているのは、いかなる心境なのか、今から興味あるところだ。

幸運を招び寄せるべく、赤い角にすがる筆者。ナポリにて。

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