「動物の糞(ふん)」|第36回アニマル”しっかり”みるみる
世界中から集まったさまざまな動物たちを、間近で見て・感じられる施設がサファリパーク。そんなサファリパークで動物たちの世話をする飼育員さんに、知っておくとちょっぴり動物通になれるポイントを、 "しっかり" ご指導いただきました。富士山の自然豊かな環境にある富士サファリパークの動物展示課飼育担当川村さんと動物ふれあい課飼育担当岸本さんに、「動物の糞」について解説してもらいました。
ゾウの糞から紙が作れる!?
動物が生きるためには、食物を外部から取り入れることが不可欠です。植物や他の動物を食物として食べ、体の中で栄養やエネルギーの元となる栄養素に変えています。消化吸収の過程で、食物のカスや水分、新陳代謝ではがれた腸内細胞、腸内細菌の死骸など、体にとって不要になったものが出てきます。それが「糞」です。糞は、体外に排出できないと、体調が悪化したり病気になることもあります。
草食動物は、植物(草、葉、果物や種など)を食べる動物です。特に主食となる草や葉は、動物の肉に比較して、栄養価が低く、栄養を得るためには、量を多く取ることが必要となります。しかも植物(特に草や葉)には、消化吸収しにくい繊維が多く含まれるため、長時間かけて胃や腸などで消化しなくてはなりません。そのため草食動物は消化管が発達しています。アジアゾウの腸の長さは30m以上(雑食動物の人間は7~9m、肉食動物のライオンは約7m)もあります。 そんな草食動物の糞にはどんな特徴があるのでしょうか。園内にいる草食動物(3種類)の糞の特徴を表(下表)にまとめました。
●草食動物の糞の特徴(※糞の色・カタチ・状態・量は、エサの種類によって変わる)
例えば草食動物の中でも特に体の大きなアジアゾウは、1日に出る糞の量が60㎏と大量です。草や葉などのエサを食べた分とほぼ同量の糞をします。しかもアジアゾウは反芻(はんすう)を行わないので、食物の消化率が高くありません。「草の塊のような糞で、スコップでたたくと細かく崩れる」(動物展示課川村さん)そうです。植物の繊維が多く残っているので、アジアゾウの糞を煮て、繊維を取り出して紙を漉くこともできます。
キリンは、ウシなどと同じ反芻動物です。消化管の中の微生物の働きと反芻によって、エサである葉などの栄養分が効率よく吸収されるので、ゾウなど反芻をしない草食動物に比べて糞の中に草の繊維は残りません。
シマウマは、発達した大腸の中で微生物が植物の繊維を分解・発酵させ、栄養を吸収します。反芻動物に比べると消化の効率が劣るので、糞の中に植物の繊維が残ります。
またシマウマの子供は、母親の糞を食べる習性があります。これは、母親の腸内の微生物を自分の体内に取り込むためにとる行動です。
ところで草食動物の中には、糞の排泄方法がちょっと変わった動物がいます。カバは、短く平たい尻尾を左右に激しく振って、肛門から出てくる糞をあたりに撒き散らします。オスに見られる行動で、その理由は、自分のテリトリーを主張するための糞による臭いづけ(マーキング)だと考えられています。「水中でも陸上でも至る所でこの『撒き糞』をします。糞の色はモスグリーンで、草の繊維が多く残っています。表面がヌルヌルしていて、しかもこのヌルヌルは一度どこかに付くとなかなかとれにくい」(動物ふれあい課岸本さん)そうです。
シロサイ、フタコブラクダ、ラマは、同じ場所に糞をする傾向があります。この習性も、テリトリーを主張する意味合いがあります。
毎日大量に出るこうした動物たちの糞を、廃棄物として処理せず、有効活用する取り組みも行われています。「園内の草食ゾーンにいる動物たち(ゾウ、サイ、キリン、シマウマ、アメリカバイソンなど)の糞を集め、数週間から数か月かけて堆肥(家畜の糞や落ち葉などの有機物を微生物によって分解・発酵した肥料)化しています」(川村さん)。動物たちの糞は、貴重な有機物資源なんです。
色が黒いのは、肉のせい?
肉食動物は、他の動物の肉(血液、卵も含む)などを食べます。動物の肉は植物に比べて栄養価が高いうえに消化しやすいので、肉食動物の消化管は草食動物に比べて短いのが特徴です。
肉食動物の糞にはどんな特徴があるのでしょう。園内の肉食動物(5種類)の糞の特徴を表(下表)にまとめました。
●肉食動物の糞の特徴(※糞の色・カタチ・状態・量は、エサの種類によって変わる)
ライオンの成獣の糞は、黒っぽい色をしていますが、「赤ちゃんライオンはミルクを飲んでいる期間の糞は黄色っぽい色をしています。肉を与え始めると黒っぽくなるので、黒い色は肉(もしくは肉に含まれる血液)が関係しているものと考えられます」(川村さん)。
トラの糞は、やや硬めで丸く節くれだった棒状になっています。
チーターは、「糞の量は少ないのですが、臭いは強い」(川村さん)そうです。
リカオンは、「群れで糞をする場所が決まっています。自分たちのテリトリーを主張するためのものです。また個体ごとの体調を糞の臭いを通して知らせることで、他の個体とコミュニケーションをとっています」(岸本さん)。
糞の色が変わっているのはシマハイエナで、白っぽい色をしています。骨付きの肉を強い顎の力で骨もろとも嚙み砕いて食べてしまうので、骨が消化されず排泄され糞の色を白くしています。
食べた順番に出てくるレッサーパンダの糞
雑食動物は、消化するのに手間がかかる植物も、栄養価が高く消化しやすい肉も食べます。そのため雑食動物の消化管は、草食動物よりは短く、肉食動物よりは長いつくりになっています。
雑食動物の糞にはどんな特徴があるのでしょう。園内の雑食動物(2種類)の糞の特徴を表(下表)にまとめました。
●雑食動物の糞の特徴(※糞の色・カタチ・状態・量は、エサの種類によって変わる)
アメリカグマは、「サツマイモやジャガイモ、鶏、果物などさまざまな種類のエサを与えているので、エサの種類によって糞の色が変わる」(川村さん)そうです。
ワオキツネザルの糞に毛が混じっているのは、「グルーミングのときに自分の毛を飲み込んでしまうせい」(岸本さん)です。
雑食動物の中では、レッサーパンダは特徴のある糞をします。「例えば、笹を食べると笹の糞、リンゴを食べるとリンゴの糞、竹を食べると竹の糞というように、消化管の中で混ざらずに、食べた順番通りにまとまって出てきます」(岸本さん)。竹の糞は、割ってみると中が鮮やかな緑色だったりします。
制服にしみ込むシロサイの糞の臭い
●独特な臭いがする糞は?
上記の表は、飼育担当者が「独特な臭いがする糞」という観点で選んだ、動物ごとの特徴の一覧です。一般的に糞の臭いは、(1)肉食動物、(2)雑食動物、(3)草食動物の順に強いと言われています。エサの種類や消化のしくみによって臭いの質が違ってくることが分かります。
また糞からは、動物の健康状態がチェックできます。糞の臭い、形や色、量をチェックする以外にも、「飼育員は、草食・肉食・雑食の動物を問わず、糞がゆるくないか、血液が混ざっていないか、未消化物が含まれていないか、虫が出ていないかなどを常日頃観察している」(川村さん)そうです。
最後に「動物の糞あるある」についても伺いました。
まずは草食動物から。「『シロサイの獣舎で作業をしていた人はどこにいたかがすぐに分かってしまうこと』です。サイの糞は独特の発酵臭がきついうえに、制服に臭いが染みついてなかなか取れないので臭いですぐ分かってしまう」そうです。
肉食動物の糞あるあるは、「『カラスがライオンの糞を持っていくこと』です。ライオンの糞の中に残る動物の骨が気に入って持ち去るようなのですが、骨が残っていてもクマの糞は持っていかない」そうです。ライオンの糞にはカラスを惹きつける何かがあるのでしょうか?