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最終更新日:2020.06.17 公開日:2020.06.17

首都高生まれの道路維持管理システム「インフラドクター」、鉄道でも活躍

「インフラドクター」は2017年から首都高で運用中の道路維持管理システムだ。その鉄道版が完成し、6月中旬から伊豆急行線のトンネル検査に利用されることとなった。

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鉄道版「インフラドクター」の実証試験で取得された3次元点群データ(伊豆急下田駅)。画像提供:首都高技術株式会社

 「インフラドクター」は、2017年から首都高で運用が始まった、一括型管理システム「i-DREAMs(アイドリームス)」の中核技術だ。GIS(※1)で台帳管理検索や、3次元点群データ(※2)を活用した寸法計測などを基本機能として備えており、インフラ・構造物の維持管理業務の効率化を支援するものである。また、MMS(※3)に搭載されたレーザースキャナーで捉えた高密度3次元点群から、3Dモデリングデータを自動生成する機能なども備えている。首都高技術、朝日航洋、エリジオンの3社で共同開発した。

※1 GIS:Geographic Information Systemの略。地理情報システムのこと。正しくは「ジー・アイ・エス」と読むが、「ジス」や「ギス」という誤った読み方も浸透している。
※2 3次元点群データ:レーザースキャナーによって計測されたX、Y、Zの位置情報を持った点の集合体。
※3 MMS:Mobil Mapping Systemの略。移動計測車両による測量システムのこと。または、移動計測車両そのものを指す。

 首都高速道路株式会社、首都高技術株式会社、伊豆急行株式会社、東急株式会社の4社は、このインフラドクターを鉄道施設の保守点検および管理作業要に転用するための共同開発を行ってきた。今般、その有効性が確認できたとして、6月中旬から伊豆急行線のトンネル検査に導入するとしている。これまで東急と伊豆急において、試験運用されてきた鉄道版「インフラドクター」だが、これにより実際に運用されるようになる。

実証実験において、高解像度カメラにより撮影された東急田園都市線のトンネル内の様子。画像提供:首都高技術株式会社

鉄道版「インフラドクター」の概要と4つの特徴

首都高の「インフラドクター」の計測車両を前から。トンネルを走行するだけで各種情報の取得が可能。画像提供:首都高速道路株式会社

 元祖インフラドクターの計測車両は、トヨタ「エスティマ」をベースに各種センサーをルーフに積んで開発された。鉄道版「インフラドクター」では、その計測車両を鉄道台車に積んでモーターカー(機関車)で牽引してデータ収集を行う。鉄道版で活用されるセンサーは、車両前方にある8K高解像度カメラと、後端のレーザースキャナー(2本赤い筒)。その下部にあるふたつの四角い装置はラインセンサカメラだが、路面の画像を取得するために使うことから、鉄道版「インフラドクター」では使用されない。

 レーザースキャナーは3次元点群データを取得し、8K高解像度カメラは画像データを撮影。なお8K高解像度カメラは、最小0.15mmのひび割れを検出することが可能だ。これらのデータを用いることで、要注意箇所の早期発見が容易となる。それに加え、構造物の2次元CAD図面作成、3次元モデル作成、構造図面や各種点検・補修データの一元管理なども行えるようになる。

鉄道版「インフラドクター」の計測システム一式。画像提供:首都高技術株式会社

 鉄道版「インフラドクター」の具体的な特徴は、以下の4点だ。

(1)構造物の変状の検出が容易
(2)GISプラットフォーム上のデータベースからの迅速な検索が可能
(3)システム上からの現地調査・測量や建築限界が可能
(4)2次元CAD図面および3次元モデルの作成、3次元空間での現場作業シミュレーションが容易

 (1)の「構造物の変状の検出が容易」とは、3次元点群データによってそれが可能となった。トンネル内を計測車両が走行して3次元点群データと高解像度画像データを取得することで、トンネル構造物のコンクリートの浮きや剥離などの変状を機械的に抽出できるようになるからだ。同時に、構造物の異常を定量的に把握できることから、詳細な打音調査が必要な箇所も容易に絞り込める。

左がトンネル壁面の3次元点群データ。右が変状を検出した画像で、マゼンダ色の部分が変状箇所。検出が容易だ。画像提供:首都高速道路株式会社

 (2)の「GISプラットフォーム上のデータベースからの迅速な検索が可能」とは、データ収集後の作業の効率化を実現するものだ。3次元点群データや画像データは、GISプラットフォームのデータベースに保存される。それにより、各種構造物の諸元、点検や補修履歴など維持管理に必要な情報を、GISプラットフォームで地図上からの検索やキーワード検索が可能となる。従来の紙資料などを利用する場合と比較して、情報収集に要する時間を大幅に短縮できるようになった。

「インフラドクター」の特徴その2。GISプラットフォームからの迅速な検索が可能となる。画像提供:首都高速道路株式会社

 (3)の「システム上からの現地調査・測量や建築限界が可能」とは、バーチャル・リアリティ(VR)的な仕組みだ。3次元点群データと高解像度画像データによりシステム上で構造物を詳細に再現できることから、寸法計測などの調査・測量や建築限界の確認などを、まるで現地にいるかのように行える。一度データを取得さえしてしまえば、現地で調査・測量などをする必要はなく、システム上だけで済ませられるのだ。

首都高「インフラドクター」の特徴その3。システム上から現地の調査・測量や建築限界の確認などが可能。画像提供:首都高速道路株式会社

 (4)のうち、まず「2次元CAD図面および3次元モデルの作成」について。「インフラドクター」は、3次元点群データから構造物の輪郭線を抽出することが可能だ。そして、任意の断面において2次元CAD図面および3次元モデルを自動作成する機能を持つ。つまり、図面の存在しない構造物があったとしても、図面を復元できるということだ。さらに、高度な解析技術と組み合わせられることから、より的確かつ効率的な構造物の劣化診断や予測にもつなげられるとしている。

 そして(4)のもうひとつの「3次元空間での現場作業シミュレーションが容易」は、(3)同様にVR的な仕組みといえるだろう。「インフラドクター」には、ツールがあらかじめ用意されている。そのひとつである、実車と同じ動作をする施工機械などの3次元モデルを用いれば、現場作業での安全性チェックなどの施工シミュレーションも可能だ。これにより、現場作業における安全性の確保や、作業の手戻りを最小化できるとしている。

鉄道版「インフラドクター」の導入によるメリット

 具体的に鉄道版「インフラドクター」を導入することが、どのようなメリットをもたらすのか。まず挙げられるのは、人手と作業時間の大幅な削減が可能となることだろう。

 伊豆急では20年に1回、大規模かつ詳細なトンネル検査(特別全般検査)が実施されてきた。これまでは、高所を含めてすべてのトンネル壁面をまず目視で点検。そして異常が疑われる箇所は打音調査を実施し、展開図を作成するといった作業手順だった。現場での作業に多くの人手を要し、デスクワークにも多大な時間がかかっていた。そこに鉄道版「インフラドクター」を導入すると、基本的には計測車両がトンネル内を通行するだけで、3次元点群データや高解像度の画像データを取得でき、近接目視点検をする必要がなくなる。

 それでは、実際にどの程度作業時間を短縮できるかというと、従来の近接目視点検では15日要していたところを、鉄道版「インフラドクター」を導入すれば3日ほどで済むという(8割の削減)。同じく近接目視点検にかかるコストも約4割削減できるという試算だ。

 また、デスクワークも大幅な省力化と作業時間の短縮が実現。このほかにも、検査の機械化が進むことによる検査精度のバラつきの解消や、技術継承の支援など、さまざまなメリットを有するのが「インフラドクター」だ。


 「インフラドクター」は2019年4月には静岡空港で実証実験(※4)が行われており、今回はいよいよ鉄道分野への本格進出と、その活躍の場を首都高以外にも広げつつある。重要なインフラの保守管理の劇的な効率化を実現する「インフラドクター」は、高度成長時代に急速に整えられたインフラの維持管理に必要不可欠なアイテムとなるだろう。

※4 静岡空港での実証実験:滑走路、誘導路、駐機場(エプロン)、場周道路など、約120ヘクタールある空港の3次元点群データの取得や、滑走路と駐機場の一部で路面性状調査のための高精度画像データの取得などが行われた。

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