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道路・交通最終更新日:2023.08.28 公開日:2023.08.28

左車線こそ、Uターン車に注意が必要|長山先生の「危険予知」よもやま話 第19回

2022年8月に逝去されるまで、JAF Mate誌の人気コーナー「危険予知」を監修されていた大阪大学名誉教授の長山先生。本連載は、誌面掲載時に長山先生からお聞きした本誌では紹介できなかった事故事例や脱線ネタを紹介しています。

話=長山泰久(大阪大学名誉教授)

左車線こそ、Uターン車に注意が必要

編集部:今回は交差点直進時に対向車がUターンして曲がり切れずに停止したため、衝突しそうになるというものです。1台目の対向車が右折していると、つい「2台目も右折だろう」と思い込んでしまいますね。

片側2車線の道路の左車線を走っていて、交差点を直進しようとしています。対向車が2台続けて曲がっています。

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2台目の対向車がUターンをして曲がりきれずに停止し、衝突しそうになりました。

長山先生:そうですね。右折に比べるとUターンはあまり見られない運転行動なので、「想定外」となりがちです。特に私が住む大阪では、Uターンができる交差点が少ないので、交差点で対向車がUターンすること自体、かなり特異な印象です。

編集部:大阪ではUターン禁止の交差点が多いのですか?  東京でも交通量の多い幹線道路などはUターン禁止になっている交差点が多いですが、Uターン可能な交差点も少なくないですね。

長山先生:交通規制については各都道府県の公安委員会が地域の特性などを考えて決めているので、場所によって違うのでしょう。以前、Uターンによる事故がどのような場所で起きているのか調べた際、「交差点」では1,892件発生していたのに対して、直線道路などの「単路」は2,681件発生と、「単路」のほうが約1.4倍多く起きていました。これもUターン禁止の交差点が多いためかもしれませんね。

編集部:長山先生のようにUターン禁止の交差点が多い地域に住む人には、今回の問題は難しかったかもしれませんね。

長山先生:そうだと思います。交差点までの距離も離れているので、車体や前輪の向きもよく見えないため、よりUターンの可能性が予測しづらかったのではないでしょうか。ただ、どんな地域に住んでいてもUターンできる交差点は存在するので、右折途中や右折待ちの対向車がある交差点を通過する際は、右折車の中にUターン車が混入していることを考えに入れる必要があります。

編集部:誌面でも触れていますが、たとえUターンでなくても、曲がった先の横断歩道に歩行者や自転車がいれば、右折車が横断歩道の手前で停止する可能性があるので、その点にも注意が必要ですね。

長山先生:そうです。特に走行している車線が左側の車線なので、走行位置の関係からUターン車が1回で転回できずに停止したり、曲がり切れず切り返しのためにバックしたりすると危険が及ぶことを認識しておかなければなりません。

編集部:なるほど。走っている車線によって注意すべき点も変わってくるのですね。

長山先生:そのとおりです。今回のようなUターン以外でも、左車線の場合、道路の左側に路地や駐車場があれば、そこから車が出てきたとき、直接危険が及びます。また、路肩を走る自転車がふらついた場合なども、左車線を走っていれば、すぐに影響してくるので注意が必要です。なお、結果の場面で気になるのは、曲がり切れずに停止している車の動きです。バックランプが点灯しているので、切り返すため、このままバックしてくる可能性があります。

編集部:直進車がすぐ近くにいるのにバックしてくるでしょうか?

長山先生:車体が斜めになっているので、ドアミラーやルームミラーだけで安全確認すると、こちらの車を見落としている可能性があります。右側の車が通過したからと、自分も右側車線に進路変更して通過しようとするとバックしてきた車と衝突する危険が生じます。

編集部:たしかに、Uターンしたものの曲がり切れないと焦るので、慌てて安全確認がおろそかになりそうですね。

長山先生:まさにそのとおりで、慌てるといつもできている安全確認も不十分になるので、Uターン車が不用意な動きをする可能性が高くなります。Uターン車にバックする空間を作って先に行かすことが必要です。

編集部:しかし、そもそも今回のような片側2車線の道路で、Uターンをしようと思うこと自体が無理な気がしますが……。

Uターンで戻ろうとするのは、人間の性(サガ)

長山先生:運転中にUターンが必要になる場面はいくつかあります。道を間違えたことに気づいて間違った地点まで戻ろうとする場合や、目的地とは逆方向に行き先を変更した場合などです。また、中央分離帯がある道路で、対向車線側に行きたい店舗や施設がある場合などです。

編集部:ナビをあまり使わない私は、道を間違えたり目的地を通り過ぎた場合にUターンを考えますが、都内ではUターン禁止の交差点も多いので、とりあえず右折してから先で方向転回して戻ってきたり、左折を繰り返して戻るケースが多いです。でも、それだと時間がかかるので、たまにUターンできる交差点があると、無駄に走らずに済むので助かりますね。

長山先生:Uターンは効率がよくて短時間で戻れるため、急いでいるときなどはUターンをしようとしがちです。たとえば家や会社を車で出て、忘れ物に気づき急いで取りに戻ろうとする場合、道幅に余裕があって交通量も少なければ、右折や左折を繰り返して遠回りするより、Uターンして戻ろうとするでしょう。これは効率や手軽さを求める人間の性(サガ)と言えます。

編集部:人間はつい楽をしたがりますからね。でも、楽をすると、たいていツケもありますね。それが今回のような事故の危険性なのかもしれませんね。

長山先生:たしかに効率や利便性を追求すると、確実性や安全性が低下することがあります。誌面でも解説したように、Uターンする場合、対向車の存在を見落としたり速度を見誤るなど、事故の危険がともないます。道幅によって一度で曲がり切れないこともあるので、正確な判断と運転操作も重要です。交通量の多い道路では、無理にUターンしようとせず、できるだけ安全な箇所で左折や右折をして戻るようにする必要があるでしょう。

フィットとクラウンの最小回転半径が同じ!?

編集部:車によってUターンしやすい車としづらい車もありますね。かなり前に、ホンダのシビックからユーノスロードスターに乗り換えたことがあったのですが、全長はそれほど変わらないのに、ロードスターはシビックと比べてかなり小回りが利き、狭めの道でも簡単にUターンできました。駆動形式やホイールベースの長さが違うと、小回り性能はずいぶん変わりますね。

長山先生:たいてい前輪駆動より後輪駆動の車のほうがハンドルが切れるので小回りも利くようです。シビックは前輪駆動でロードスターは後輪駆動なので、そこで差が出たのでしょう。コンパクトカーの多くは前輪駆動なのに対して、大型セダンには後輪駆動車が多いので、実は最小回転半径が同じというケースもあるようです。

編集部:コンパクトカーと大型セダンの最小回転半径が同じなんてことがあるのですか?

長山先生:たとえば、ホンダのフィットは前輪駆動のコンパクトカーですが、同じフィットでも、ハイブリッドや4WD、スポーツタイプの場合、最小回転半径は5.2mあります。実は、この数値はトヨタのマークXやクラウンと同じなのです(注:2016年当時のデータ)。

編集部:本当ですか!?  たしかフィットの全長は4m弱で、マークXやクラウンは5m近かったような。車体の長さが1mくらい違うのに、最小回転半径が同じとは信じられませんね。

長山先生:車種やグレードによって多少変わりますが、前輪駆動のコンパクトカーは、見た目ほど小回りが利かないというのは確かでしょう。

編集部:「コンパクトカーだから、1回でUターンできる」と思っていると、痛い目に遭いますね。

長山先生:そのとおりです。なお、最小回転半径は車が旋回した際に外側前輪の中心が通るラインで、実際はフロントバンパーの角のほうが外側を通るので、そのぶんも考慮しないと、タイヤは曲がり切れても、バンパーが縁石やガードレールに接触してしまう危険性があります。また、速度を上げれば回転半径も大きくなるので、自分の車はどの程度の道幅でUターンできるのか、十分認識しておく必要があるでしょう。

編集部:誌面でも触れていますが、Uターンする際は「一度で曲がり切れるか?」「対向車が完全に途切れたか?」または「対向車が来る前にできるか?」を正確に判断しなくてはいけないハードルの高い運転操作ですね。十分安全確認ができていないと、大事故につながりかねませんね。

長山先生:おっしゃるとおり「安全確認」が重要になりますが、そもそも「安全確認」の意味をご存知ですか?

頭を左右に向ければ、安全確認OK?

編集部:「安全確認」の意味ですか?  文字通り「安全を確認する」という意味だと思っていましたが、違うのでしょうか?

長山先生:「安全」とは、広辞苑によると「①安らかで危険がないこと。②物事が損傷したり、危害を受けたりするおそれがないこと。」となっています。交通場面で考えると「自分の目的地に向かって移動している場合に、何事も起こらず、問題もなくスムーズに進行することを安全と名付ける。」と言えるでしょう。

編集部:「安全」を改めて説明すると、そうなるのですね。では、「確認」はどのような説明になるのでしょうか?

長山先生:「たしかにそうだと認めること。また、はっきりたしかめること。」と示されています。確認する場合には、あらかじめ、何かを想定していて、「確かにその通りだ」、あるいは「その通りでない」と確かめることです。交通場面で言うと、「予想」「予知」「予測」して、「そうであるか・そうでないか」を確かめることなのです。

編集部:「確認」する際には、必ず何かを想定していているのですね。あまり意識していませんでしたが、たしかに何か危険や疑問を感じなければ、確認することはないですね。

長山先生:そうです。だから、安全確認はまさに「間違いなく安全であるかを確かめる」『心の働かせ方』を意味しているのです。安全確認は「見る」ことと同じように考えられがちで、そちらに目を向けて見ると、安全確認したと勘違いされているきらいがあります。さらに酷いのになると、そちらに頭を向けると安全確認したと誤解している人がいるのです。

編集部:「頭を向ければ安全確認OK」は、さすがに乱暴ですね。頭を向けていても、しっかり見て確認できているとは限りませんからね。

長山先生:それが正しいのですけど、以前、交通安全教育推進校に指定されている小学校に交通安全指導を行うため、何度か行ったことがありました。校庭に白線を引いて模擬交差点を作り、そこで安全に行動することを教えるのですが、先生方は後ろから子どもの頭をもって左右に向けさせて「確認するのですよ」と指導している場面に出くわしたものです。日本の教育の中には「形から入る」という言葉が使われますが、動作だけを教えて「事柄の本質を考えさせない・教えない教育」のやり方に大いに疑問を感じたものです。

編集部:確かに、頭を振るのは何かを確認しようとしたときに自然に出てくる行動ですから、強制的に頭を振らされたら、その肝心な部分が抜け落ちてしまいますね。

長山先生:まさにそのとおりで、教育・訓練後の講評で、先生方には次のことを強調しました。「頭を回すこと、目を向けることが安全確認ではありません。車が来ているか・来ていないかどうかを確かめることが安全確認なのです。何もない校庭で左右を見る行動を教えるだけではダメですよ。交差点から少し離れたところに1台車を置いて、その向こうから車が来ていないかを覗き込むように確かめる場面を作ることで、初めて安全確認の訓練ができるのです。校庭に自動車を入れることに抵抗感があるかもしれませんが、ぜひとも障害物を置いて積極的に覗き込むように見て、判断する訓練に持って行ってもらいたいものです」

編集部:車を1台置くだけで実際の交通場面がイメージできるので、実践的な安全教育訓練になりますね。何もないところを見せても、子供はピンと来ないですから。

長山先生:道を渡るときに「右見て、左見て、もう一度右見て」と教えるのも、右を見たけれど、本当に来ていないかを確かめることなのです。本当は両方ともに2回以上見て初めて確かめられるのです。確認とは、単に見て情報を取ることを意味しているのではありません。見たものの、見た内容が間違っていないかをチェックする心的活動が確認なのです。見ることを「第一次心的活動」と名づけると、見たことが間違っていないかどうかを確かめる確認は「第二次心的活動」と名づけることができます。見ることよりも、確認することはレベルの高い心的活動なのです。

編集部:「心的活動」ですか?  心理学用語のようで若干難しくなってきましたが、今回のUターンする側の立場で考えると、「対向車との距離が離れている」と判断するのが「見る」で、「本当にUターンできるほど離れているか?」と確かめるのが「確認」なのでしょうか?

長山先生:そのとおりです。ちなみに、以前シートベルト着用率調査のため、ドイツに行った時に「ストップ」標識のある交差点に差し掛かった運転者が、停止して発進するまでに何回も左右を見て、車が来ないことを確かめて発進していることに気づきました。「彼らは一度見て車は来ていないと思ったが、自分の見たことには間違いがないかを再確認しているのだ」ということが分かったのです。

編集部:ドイツ人の国民性が関係してそうですね。勤勉さや真面目な国民性では、日本人も同じような傾向がありそうですが。

長山先生:おっしゃるとおり、国民性による差が考えられたため、ドイツでの経験をもとに一時停止の交差点での安全確認の頻度を、カナダと韓国の研究者と一緒に国際比較を行いました。下のグラフがその結果で、左右3回以上の頻度で確認するドライバーの比率はカナダ(トロント・モントリオール)、日本(東京・大阪)、韓国(ソウル・釜山)で大きく異なっています。

編集部:カナダの比率はかなり高いですね。特にモントリオールでは、8割近いドライバーが3回以上左右の確認をしていますね。

長山先生:そうですね。カナダでは7割以上のドライバーが「一度見たが、本当に来ていないか?」を再確認していますが、日本で再確認するドライバーは3~5割に留まります。カナダのように、一時停止の規制がある場所で事故を起こした場合に非優先道路側のドライバーが全責任を負わなければならない国では、自己責任で100%安全を確保しなければならないという意識で行動していますが、日本のように優先道路を走っている相手であっても、何かしら責任があると考えようとする国では、安全確認の意識と行動のうえで大きな違いが出てくるようです。

 

各国・各都市における左右確認3以上の運転者の比率(1986・87年踏査結果)

『JAF Mate』誌 2016年7月号掲載の「危険予知」を元にした「よもやま話」です

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