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道路・交通最終更新日:2018.11.21 公開日:2018.11.21

菰田潔の【良い車、売れる車】その2「売れる車」は「よい車」か?

良い車なら売れるのか。メーカーによって販売台数に差が出るのか。モータージャーナリストの菰田潔氏が、その本質を解説する。

菰田潔

 前回は、「良い車というのは、乗り手のライフスタイルや使い方に合っているかどうかで決まる」という、車選びの大原則をお話しました。今回は、売れている車が良い車か、ということについて考えてみたいと思います。

売れる商品かどうかは、まず売り場の数で決まる

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 なぜ、車が売れるのか。なぜ、各社の販売台数に違いが出るのか。実は工業製品としての出来の良し悪しだけでは決まりません。ズバリ結論ですが、車の販売台数に決定的な影響を持つのは「販売店と販売員の数」です。なぜトヨタが国内販売台数で圧倒的なのか。これは、全国津々浦々まで強力な販売網を持っているからです。もちろん、必要十分な性能や耐久性、競合に勝てる価格があってこそではありますが、そこは各社とも力を入れているので、販売台数で圧倒的な大差が付くほどの根拠とはなり得ないのです。ですから、少なくとも販売店と販売員の数で、売ることができる車の販売数の上限が決まるということになります。

 分かりやすい例として輸入車があります。今国内で最も売れている輸入車は、ベンツ、BMW、VWです。なぜ日本人はここまでドイツ車が好きなのか。まず一番の理由として、ドイツ勢が日本国内で熱心に販売網を拡げたということが挙げられます。販売網を拡げる過程で多くのプロモーション活動も行ってきました。その中で、長い時間をかけて「ブランド力」を磨いてきました。だから日本にここまで受け入れられて、現在でも売れ続けているのです。

かつてのイメージに販売が左右される例もある。

 それと、もうひとつの理由は、ドイツ車が日本人の気質に合っている。特に日本人の車好きの嗜好に合っているということがいえます。それは正確に操ることができる車がドイツ車には多いということです。実は車としてはフランス車やイタリア車のほうが「味」があります。シトロエンとかDS、プジョーとかルノーなど、足回りがしなやかで、ストローク感がたっぷりあって、でもハンドルには「あそび」が少なくてキビキビ走れる。そういう特性はドイツ車にはないものです。イタリア車も、何となく普通に走っていても運転がすごく楽しく感じる。情感に訴えるのが非常にうまい。でも、日本人にウケるのは正確にカチカチっと運転できる車で、そういう意味では、ドイツ車に一日の長があるのです。

 また、ベンツやBMW、アウディが世界的に見ると、日本では「安売り」しているという事情もあります。一見プレミアムブランドは高く見えますが、値引きを大きくしているので、日本車のプレミアムカーの価格と近似してきているということもあります。しかもリセールバリューが割と良い。

 一方、比較対象としてアメリカ車です。アメリカ車にはキャデラックやシボレーなど、ベンツやBMWにブランド力で勝るとも劣らない車がたくさんあります。米トランプ大統領が、アメリカ車が売れないのは障壁があるからだと、関税もかけていない日本に圧力をかけていますが、なぜ日本でアメリカ車はまったく売れないのか。世界一ユーザーの見る目が厳しいと言われている日本市場に、米各社はあまり積極的に進出してこなかった。という、これも前述の販売店事情が大きく影響しています。

 加えて、アメリカ車の場合とりわけユーザー心理も多分に影響しているのではないでしょうか。昔、「アメ車はデカイ、ガス食い、よく壊れる」というイメージが日本人にはありました。実は今、アメリカ車もなかなか頑張っていて、ダウンサイジングしてきていますし、燃費も思ったほど悪くない車が増えてきているのです。しかもアメリカ車は、割安なんです。特にドイツ車と比べたら、同じような車格や排気量で比べた場合、値ごろ感がある。でも一方で、リセールバリューも悪い。なぜ価値が下がってしまいやすいのか。これはユーザーの中に、昔のアメリカ車の悪しきイメージが残っていて、だから新車で買ってもあっという間に価値が下がってしまう。これがさらに販売の足を引っ張っていると思われます。

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販売店の数が少ない、リセールが悪い、他にも原因が

ちゃんと設計しても、その通り生産されない事情

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 ところで、販売面ということを脇に置いておいて、工業製品としてはどうでしょうか。アメリカ車は、細部まで気を配って作られていない車が多いというのが正直な印象です。世界の車のレベルが上がってきている中で、雑なところが目立つんです。米自動車メーカーでは、設計ではきちっと作ってちゃんと仕上げています。ところが、製造・生産技術があまり高くない。ちゃんと設計しているのに、それを工場で生産する場面にまで落としこめずに、結果製品が粗くなっている節があります。不思議なことに、アメリカで乗ると気にならないのですが、日本で乗ると、他の日本車がきちっとできている。軽自動車やエントリーカーだって、細かいところまで本当によくできているんです。そういう中で比べられてしまうので、アメリカ車の作りの粗さが目立つということになる。逆にドイツ車は細部まで作り込みます。そこも日本人に合っているのかな、と思います。

 生産の話に立ち返ると、ドイツメーカーでは、誰が作っても狙い通りの品質で作れるように設計してあるといいます。例えばBMWが米サウスカロライナ州に工場を作りました。そのとき、内外から「アメリカで車を作ってBMW大丈夫か?」と嘲笑されました。けれどBMWは「大丈夫だ。ウチは誰が作ってもBMWクオリティを担保できるよう開発している」と言ってのけたのです。「ドイツ国内だって車の生産工場で働くのはトルコ人など外国籍の人が多い」とも。つまり「Made in USA」ではなくて「Made by BMW」だとしているわけなんです。生産技術が高ければ、確かにどこで誰が作っても相応のものが出来上がるというものです。

せっかく生産品質を向上させても、売り場がないと意味がない

 そうした誰が作ってもきちっとしたものが出来上がる生産技術は、日本車とかドイツ車だけのものなのか、というと、最近ではそうでもなくなってきているので、アメリカ車はますます分が悪い。フランス車やイタリア車のプレミアムカーは最近めっぽう質が良くなってきています。

 例えばアルファロメオ。これまではブランドの名声と作る車が一致しないようなところがあったメーカーですが、「ジュリア」は作りもすごくよくなった。それから「ステルビオ」とか、新生代の車はFCAがすごく力を入れて作り始めた好例です。大金を投じて大きく変えたんです。シトロエンのプレミアムセグメントの「DS」もすごく質の高い車を作り始めています。

 ドイツ車やラテン系の車以外で、最近メキメキと品質を向上させてきたのがスウェーデンのボルボです。日本では2016年に登場したSUVの「XC90」は、新しいプラットフォームで作りました。この隅々まで新しい考え方で作り直し、1車種を開発する金額としては通常の5倍以上の1兆3000億円もの開発費をかけて作ったのです。その結果、非常に品質が高くなった。本当に細かいところまで手を抜かずに作ってあるので、はやり日本人にも受け入れられました。これを元に「V90」、「V90クロスオーバー」、「S90」 と大きいサイズの車種を続けざまに出しました。さらには、17年にXC90より少し小型の「XC60」、「V60」を、18年にはヤングファミリーにも手が届く「XC40」を発売しました。特にXC40は、発売当初から6ヶ月待ちの状態になっているといいます。このためボルボ・カー・ジャパンでは、日本向けの割り当て台数を増やしてもらうように本国と交渉し、多少は増えたようです。それでも世界的に売れているので、日本での販売台数が限られてしまった。これは、販売店の数以前の問題であるといえます。

 生産だけではありません。例えば「ルノーメガーヌRS」というのは、すごい「走り」に振った車です。もう運転するとすごくおもしろい車に仕上がっている。これ一つとってみても、相当にウリなわけで、もっともっと宣伝しないといけないのです。でもユーザーがルノーを買おうかなと思っても、売っているところがない。「アルピーヌ A110」が出ました。伝統の車名が復活したのでぜひ欲しいけれど、買おうとしても販売店が全国に数箇所しかない。車は買っておしまいではありません。メンテナンスや、事故・故障での修理などが必要なんです。販売店の絶対数が少な過ぎて、車が好きな人が買おうとしても、隣の県に行かないと買えないという状況だとなかなか買えない。ですから、「数が売れるかどうかということと、いい車かどうかということはまったく違う」ということが言えるのです。

2018年11月21日(モータージャーナリスト 菰田潔)

菰田潔(こもだきよし):モータージャーナリスト。1950年生まれ。 タイヤテストドライバーなどを経て、1984年から現職。日本自動車ジャーナリスト協会会長 / 一般社団法人 日本自動車連盟(JAF)交通安全・環境委員会 委員 / 警察庁 運転免許課懇談会委員 /NPO法人 日本スマートドライバー機構 理事長/ 国土交通省 道路局環境安全課 検討会 委員 / BMW Driving Experienceチーフインストラクター / 運送会社など企業向けの実践的なエコドライブ講習、安全運転講習、教習所の教官の教育なども行う。

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