【自動車カメラマンの、旅のしおり】タイのタクシー運転手の誇り
モータースポーツ競技のラリーを撮影するために、タイをはじめ東南アジアの国々に通い続けて早や十数年。今回は、その度に利用するタクシーのお話です。
タイのタクシーは、トヨタ・カローラがとても多く使われています。正確に言うと日本のカローラとはちょっと違う、タイ生産の「カローラ アルティス」です。利用方法は、路上で手で合図をして止まってもらったり、ホテルに呼んだりするところは、日本と概ね同じです。乗車拒否をされることがありますし、前もって大体の料金を調べておいた方がよかったりする場合もあります。ですが、基本的には事前にネットで注意点などを調べておけば、そんなに怖い乗り物ではありません。
そんなタイのタクシーですが、昨年夏にちょっぴり印象的だったことがありました。長距離利用しなければならなかったので、事前にドライバーさんに値段の目安を尋ねたら「ウチの車は最新型のカローラだから値引きはしないよ」って釘を刺されてしまいました。僕自身タクシーの年式などあまり気にしたことがなかったのでちょっと新鮮でした。
そんなやりとりをしながら出発すると、すぐにタクシーは燃料補給のためにLPGスタンドへ。この時は事前に目的地を伝えてホテルに来てもらったのですが、空のタンクのまま迎えに来てくれました。燃料計の針は下の方にへばりついています。乗車後の給油は、日本では経験がないですが、タイに限らず東南アジアではタクシーやトゥクトゥクなどで何度も経験しています。このへんは文化というか習慣の違いですかね。
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運転手さんの話が止まらない!
このタクシーの運転手さん。とってもカローラがお好きなようで。
給油中(というかLPGですから油ではないんですけど)、また「ウチのタクシーは最新型なんだよ」と誇らしげに語り始め、次に「見てなよ、LPGのタンクはここにあるんだよ」といってトランクを開けて見せてくれます。そしてボンネットフードを開けエンジンルームも見せられました。その後、改造箇所の説明が始まったのですが、お互いカタコトの英語でのやりとりだったことと、そもそも僕はクルマのメカニズムに疎いので話がよくわかりません。
僕にもわかるのは、タイの多くのタクシーがそうであるように、この車にもヒーターが装着されていないので空調のパネルに赤い色がないことと、日本ではすっかり見なくなったMTのシフトレバーくらいでしょうか。
そんなことがありまして。燃料補給も済んで乗車する間際、日本人の僕に「これはトヨタの車だけど、日本で作っているタイプとは違うんだよ。タイで生産しているモデルなんだよ」ってこの日一番のドヤ顔。
そう。このドライバーさんは、自国でのトヨタ車生産をとても誇りに思っているのです。日本のメーカーの車が海外で生産され、それが現地で根付き愛されていると感じられて、僕も誇らしい気持ちになりました。
2018年5月15日(自動車カメラマン・高橋学)
高橋学(たかはしまなぶ):フォトグラファー。1966年北海道生まれ。スタジオに引きこもって創作活動にいそしむべくこの世界に入るが、なぜか今ではニューモデル、クラシックカー、レーシングカーなど自動車の撮影を中心に活動中。日本レース写真家協会(JRPA)会員。