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最終更新日:2018.03.20 公開日:2018.03.20

【クルマ解体新書】高剛性ボディの今・トヨタ編

クルマの衝突安全性能のうち、搭乗者の安全を確保するための中核技術となるのが、「衝突安全ボディ」と呼ばれるクルマの基本骨格である。本記事「クルマ解体新書」では、現行車種に採用されている基本骨格を紹介していく。

トヨタが2012年から開発を始め、現在も開発を進めているTNGAプラットフォーム。今回は、クルマの乗員保護性能に大きくかかわる、基本骨格について紹介する。MEGA WEBにて撮影。世界中の公的機関により実施されている、自動車アセスメント「NCAP(New Car Assessment Program)」。目的は、ユーザーにはより安全なクルマの購入を促すこと、自動車メーカーにはより安全性の高いクルマ作りを促すことのふたつだ。日本では国土交通省と自動車事故対策機構による「JNCAP」が行われており、クルマの安全性能は年々進歩している。

 安全性能は、衝突被害軽減ブレーキなどの「予防安全」と、実際に衝突してしまったときに搭乗者や歩行者の安全を保護する「衝突安全」の2種類がある。

 衝突安全の内、搭乗者の安全を確保するための中核技術となるのが、「衝突安全ボディ」などと呼ばれているクルマの基本骨格だ。

 クルマの中身をお見せする「クルマ解体新書」シリーズ、メーカー別に現行車種に採用されている基本骨格を紹介していく。まずはトヨタ編だ。

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まずはトヨタの衝突安全ボディについて

トヨタの衝突安全ボディは「GOA」

 トヨタの衝突安全ボディは「GOA(Global Outstanding Assessment:ゴア)」の愛称で呼ばれ、1996年1月発売の5代目「スターレット」から採用された。「クラス世界トップレベルを追求している安全性評価」という意味を持ち、現在ではトヨタ車の大多数のクルマに採用されている。

 GOAは以下の画像のように、年々進歩しており、最新車種に搭載されたGOAほど最も進んだGOAということになる。GOAを採用したトヨタの最新車種というと、セダン「カムリ」(17年7月)、コンパクトSUV「C-HR」(16年12月)、「プリウス」(15年12月)など。それらは、トヨタが12年4月に発表した「TNGA(Toyota New Global Architecture)」という新コンセプトのプラットフォームを搭載しており、下の画像よりもさらに進んだGOAを備えている。

GOAの進化年表。画像では2012年頃までとなっているが、現在も最新技術が導入されている。この年表以降のトピックとしては、2015年にTNGAのコンセプトが反映された。それにより、骨格に環状構造などが採り入れられている。トヨタ公式サイト「テクノロジーファイル安全技術版」より。

衝撃吸収構造と高強度キャビンで搭乗者を保護

 衝突事故が起きたとき、搭乗者の傷害を低減させるには、搭乗者が圧迫されないよう、キャビン(搭乗者のいる客室空間)を変形させないことが大切だ。これを生存空間の確保という。また、ドアや車外からの物体がキャビンに侵入してしまうことを防ぐことも重要だ。

 それを実現するため、キャビンは変形しにくい強固な構造としている。一方、車体のボンネット(エンジンルーム)やトランクなどの前後の構造物は、緩衝スペースとして壊れることで効率よく衝撃を吸収する。問題は、衝撃吸収のスペースがない側面だが、センターピラーやフロアクロスメンバーなどの高強度のボディ骨格系に少ない変形で衝撃を吸収させ、搭乗者の傷害を低減させるようにしている。

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それでは、実際にトヨタ車の骨格を紹介!

現行プリウスのGOAはこうなっている!

2代目「プリウスPHV」。4代目「プリウス」がベースだ。MEGA WEBにて撮影。

 それでは、具体的にトヨタの現行車種に採用されているGOAを見ていこう。まずは、15年12月に登場した4代目「プリウス」ならびに、17年2月に登場した2代目「プリウスPHV」で採用されているGOAだ。

4代目「プリウス」のGOA(左斜め後方から見た図)。青い部分は、高剛性を実現する上で重要な部分。広報資料より。

 4代目「プリウス」のGOAの特徴のひとつは、引っ張り強度980MPa以上の超高張力鋼板(ハイテン材)の採用率を3代目の3%から19%まで拡大したこと。これにより、さらなる強度と軽量化を実現したという。

 ちなみにハイテン材の内、鋼板を加熱して特殊加工した超高張力鋼板は約1500MPaの引っ張り強度を持つ「ホットスタンプ材」と呼ばれており、4代目「プリウス」でも採用されている。

4代目「プリウス」でハイテン材が使用されているか所を示した図。より濃い紫は980MPa以上のハイテン材が、薄い紫は約1500MPaのホットスタンプ材がそれぞれ使用されている部分。緑色の部分はアルミニウムだ。「プリウス」広報資料PDFより。

GOAのアンダーパネルの拡大図。赤い部分はハイテン材が使用されている部分。「プリウス」広報資料PDFより。

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「プリウス」からはGOAにTNGAの考え方も反映された!

「プリウス」にはTNGAのコンセプトである環状構造を採用

 4代目「プリウス」は、TNGAプラットフォームを採用した第1号であり、同車のGOAにはTNGAのコンセプトが反映されている。それが環状構造の骨格を採用していることだ。このGOAへの環状構造の採用は、TNGA採用第2号の「C-HR」、第3号の「カムリ」でも採用されている。

側面衝突時の衝撃を逃がして骨格のわずかな変形のみに抑えることで、キャビン内の搭乗者を守るのが「日の字環状構造」。AからCまでの各ピラー、上部のルーフサイドレール、下部のサイドシルなど、サイドボディの骨格をひとつなぎにして横に寝かした”日の字”型の環状構造としている。広報資料より。

左右のCピラーをつないで、リアの剛性を高めているリア環状構造。広報資料より。

 さらに、破壊することで衝撃を吸収するフロントおよびリアの構造の内、フロントボディの構造を解説した図が以下のものだ。衝撃を全体に分散させる「マルチロードパス構造」が採用されている。このマルチロードパス構造も、多くの自動車メーカーの基本骨格に採用されている考え方だ。

バンパーリインフォースと第2クロスメンバーで前方からの衝撃をまず受け止めると、青矢印と赤矢印の通り、複数の方向に衝撃(図中では荷重と表現)に分散して伝わり、骨格全体に逃がすようになっている。広報資料より。

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続いては、そのほかのトヨタ車のGOAを紹介!

09年から16年まで時期の異なるGOAを紹介!

 続いては、開発時期の異なるGOAを3種類紹介。16年12月発売の新型コンパクト・クロスオーバーSUV「C-HR」、14年12月発売の燃料電池車(FCV)「MIRAI」、そして09年10月発売の2代目「マークX」だ。新しい順に紹介していこう。

TNGA採用第2号のクロスオーバーSUV「C-HR」

トヨタが新開発したコンパクト・クロスオーバーSUV「C-HR」。「オートカラーアウォード2017」にて撮影。

 新開発のコンパクト・クロスオーバーSUV「C-HR」は、TNGAプラットフォームの採用第2号車だ。そのため、4代目「プリウス」と同様、両サイドの日の字環状構造とリア環状構造が採用されており、剛性アップが図られている。

「C-HR」のGOAを後方から見たところ。4代目「プリウス」と同様に、サイドボディは日の字環状構造、それと直交する形で左右のCピラーをつなぐリア環状構造を備える(青いライン)。

FCV「MIRAI」のGOAは少し以前のモデル

FCV「MIRAI」。水素を燃料とする、燃料電池車。ジャパンEVラリー白馬2017にて撮影。

 FCV「MIRAI」は、4代目「プリウス」のちょうど1年前、14年12月から販売を開始した。TNGAは12年に発表されているが、「MIRAI」にはまだ同プラットフォームは採用されておらず、当然ながらMIRAIで採用されているGOAにもTNGAのコンセプトは反映されていない。そのため、当時の最高水準のGOAではあるが、今では4代目「プリウス」や「C-HR」などと比べると、旧式になっている。

「MIRAI」のGOA。リアサスペンション周りの剛性が高められているという。

FRセダン「マークX」のGOAは2000年代末のもの

FRセダン「マークX」。かつての「マークII」の系譜に連なる車種だ。

 現行の2代目「マークX」は09年10月に登場したことから、GOAとしては今回の中では最も旧式ということになる。「マークX」はそろそろモデルチェンジのウワサがあり、FR用TNGAプラットフォームも開発中であることから、次期「マークX」にはそれが採用される可能性も予想され、GOAも最新式となるはずだ。なお、トヨタは、20年頃には同社の全世界における販売台数の内、約半数にはTNGAプラットフォームが搭載されることになるとしてしている。

「マークX」のGOAとアンダーパネル。厳密にはGOAのイメージCGというよりも、スポットの打点を増やしたポイントと、構造用ボディ接着剤の使用部分を示したものである。「マークX」は2回行われたビッグマイナーチェンジのたびにスポット打点が増やされており、剛性アップが図られている。また「マークX」のGOAの開発では、数百kg重い車重2tクラスのクルマとの衝突試験も実施されている。

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セダンなどとはまた少し異なるミニバンの骨格!

ミニバンの基本骨格を紹介!

 続いては、ミニバンの基本骨格をお見せしよう。ミニバンはセダンなどと比べるとより重量があるため、車種によってはモノコック構造だけではシャシーの剛性が不足する場合もあり、ラダーフレームで補強しているものがある。シャシー剛性は衝突安全性能とは直接は関係ないが、ラダーフレームを搭載している車種にGOAは採用されておらず、また異なる仕組みで安全性を確保している。なおラダーフレームとは、本来はモノコック構造と並ぶクルマの剛性を実現するための方式のひとつであり、現代では大型車にのみ用いられる、はしご形のフレームのことだ。

トヨタ最小のミニバン「シエンタ」はGOA

トヨタの最小ミニバン「シエンタ」。初代は03年9月に登場。約12年を経て15年7月に2代目にモデルチェンジした。

 15年7月にモデルチェンジを果たした、6~7人乗りミニバンの2代目「シエンタ」。トヨタのミニバンの中では最小車種で、5ナンバーなのが特徴。ちなみにトヨタではミニバンの主な定義として、「3列シートであること」としている。GOAを採用したトヨタのミニバンとしては、ほかに「ノア」/「ヴォクシー」/「エスクァイア」の3兄弟がある。この3兄弟車がGOA採用車としては最も大型になる。

2代目「シエンタ」のGOA。ミニバンはいうまでもないがセダンやSUVとは形状が大きく異なるため、独自の工夫が必要とされる。なお、2代目にはTNGAプラットフォームは採用されていないが、”FF系ラージ車”用の開発が進められおり、具体的にどの車種に搭載するのかは発表されていないが、次期モデルには採用される可能性がある。画像は「シエンタ」広報資料PDFより。

ラダーフレームも装備する「アルファード」&「ヴェルファイア」

「豪華・勇壮」がテーマの「アルファード」(上)はトヨペット店、「大胆・不敵」がテーマの「ヴェルファイア」はネッツ店の販売で、フロントマスクなど外見が異なるが、性能的には同等の兄弟車。「アルファード」の2代目にモデルチェンジした際に、「ヴェルファイア」が誕生。

 15年1月にモデルチェンジして、3代目となった「アルファード」と、兄弟車の「ヴェルファイア」(こちらは2代目)。この兄弟車はトヨタのミニバンラインナップ中で最上位の7~8人乗り大型モデル。モノコック構造ではあるのだがシャシー剛性を補強するため、ラダーフレームも採用されている。なお、GOAは採用されていない。

「アルファード」および「ヴェルファイア」の基本骨格(モノコック構造)。厳密には、剛性確保のためにスポット打点の増し打ちと構造用ボディ接着剤が使用された部分を表したもの。

「アルファード」および「ヴェルファイア」のアンダーパネル内にあるラダーフレームのイメージ。サイズや車重から、モノコック構造だけではシャシー剛性が不足するため、このような骨格を用意することで補強している。ラダーフレームの歴史は長く、モノコック構造が開発される前は普通車でもラダーフレームを採用していた。ただし、重量面で不利であるため、モノコック構造を採用することで剛性を維持しながら軽量化を図れるようになると、普通車などでは採用されなくなり、現在では大型SUVやバスなどで採用されるだけになった。

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最後はバスの骨格を見てよう!

バスならではの骨格を有した「コースター」

初代より50年の歴史を誇る小型バス「コースター」。3代目からほぼ四半世紀という期間を経て、17年1月にモデルチェンジを果たした4代目が誕生した。

 最後に紹介するのは、トヨタが17年1月に24年ぶりとなるモデルチェンジを果たした、25人程が乗車可能な小型バス「コースター」(4代目)だ。「コースター」は1963年発売の「ライトバス」まで遡ることができ、50年以上にわたって販売されてきた歴史のある車種である。4代目「コースター」では、TNGAのコンセプトを採り入れたGOAでも見られる、骨格の環状構造を用いて強度を高めることで安全性を確保している。

「コースター」は、ルーフ部の補強材、側面のピラー、フロアの補強材をつないで一体化させた環状骨格を合計4か所に持つ(赤の骨格)。バスのボディに関する世界的な安全評価基準「ECE(欧州統一車両法規)基準R-66(ロールオーバー性能)」に適合しており、横転時の客室空間を確保できる設計だ。

車内から見た「コースター」の基本骨格のイメージCG。ハイテン材を利用することで、剛性を確保しつつ、軽量化も実現したという。赤いフレームは上の画像と同じで、4か所の環状構造。画像は、「コースター」広報資料PDFより。

2018年3月20日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)

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