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最終更新日:2023.08.09 公開日:2023.08.09

日本の高速道路の合流はスムーズ?|長山先生の「危険予知」よもやま話 第18回

2022年8月に逝去されるまで、JAF Mate誌の人気コーナー「危険予知」を監修されていた大阪大学名誉教授の長山先生。本連載は、誌面掲載時に長山先生からお聞きした本誌では紹介できなかった事故事例や脱線ネタを紹介しています。

話=長山泰久(大阪大学名誉教授)

日本の高速道路の合流はスムーズ?

編集部:今回は都市高速道路の右カーブに差し掛かっている状況です。パーキングエリアから合流してくる車によって前車が急減速したため、追突しそうになるケースですが、見通しが悪いカーブで合流してくる車がまったく見えなかったので、予測するのが難しいケースですね。

問題写真

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結果写真1

結果写真2

長山先生:たしかにカーブが急で先の様子が見えないので、合流車による危険を予測しづらいのですが、問題の場面をよく見れば、危険を予測できる手がかりが少なくありません。

編集部:「合流交通あり」の警戒標識と「合流注意」の看板のことですね。

長山先生:そうです。このような警戒標識は見過ごされがちですが、都市高速には先の状況が見えない急カーブが多いので、重要な情報としてしっかり確認しておき、「合流車があるかもしれない」と考えておかないといけません。

編集部:警戒標識だけでなく、わざわざ道路の側壁にも目立つように「合流注意」の看板があるのですから、ここでは事故が多いのかもしれませんね。

長山先生:そうだと思います。事故が多発している場所には、道路管理者も事故を減らそうといろいろな対策を考えます。警戒標識に加えて「合流注意」の看板まで設置しているのですから、事故の発生件数も多い場所なのでしょう。今回、前車がミニバンだったので警戒標識も見えましたが、前車がトラックやバスだったら警戒標識が車体に隠れて見えない可能性があるので、前を走る車の種類によって車間距離をより長く取る必要もありますね。

編集部:車間距離というと、つい前車の減速や急停止に備えるためで、前を走る車によって変えることはありませんでしたが、前方の重要な情報を得るためにも状況に応じて調整することが重要なのですね。ところで、合流地点に差し掛かり、合流してくる車があった場合、譲って入れるかどうか迷うことがあります。今回の前車のように、急減速してまで合流車を入れる必要はあるのですか?

長山先生:道交法で「本線車道の優先」が定められているので、急減速してまで合流車を入れる必要はないでしょう。道交法の第75条の6では合流する側の規則として「自動車は、本線車道に入ろうとする場合において、当該本線車道を通行する自動車があるときは、当該自動車の進行妨害をしてはならない」と明確に規定しています。

編集部:でも、合流車と本線を走る車のタイミングが合ってしまい、合流車が強引に入ってくることもありますよね。

長山先生:そうですね。判断が難しいケースが少なくないので、状況に応じて臨機応変に対応する必要がありますね。特に都市高速道路には合流車線(加速車線)が短い所も多いので、合流するドライバーも「加速車線が終わらないうちに」と焦り、無理して合流しがちです。本線を走るドライバーが周囲の安全を確認して問題がなければ、合流車がスムーズに入れるように少し減速してあげることも必要ですね。

編集部:譲り合いの精神ですね。ちなみに、これはあくまでも噂レベルですが、関東より関西のドライバーのほうが運転が乱暴で、合流させてくれないケースも多いと聞きます。関西にお住まいの長山先生はどう思われますか?

長山先生:関西と言ってもいろいろな地域がありますし、ドライバー個人の性格も違うので、一概に乱暴と言われるのに抵抗がありますけど、関西人のほうがせっかちな人間が多い気がするので、そのせいでしょうか? 実は私もせっかちなほうで、若い頃は減速してまで合流車に譲ることはなかったかもしれませんね(笑)。ただ、以前オーストリアの交通心理学者であるD.Klebersberg教授を大阪空港で出迎えて阪神高速道路を走行したとき、教授は「日本の高速道路の合流は実にスムーズですね」と感心していました。私はそのような実感を持っていませんでしたが、ドイツ語圏のオーストリアでは優先権が明確で、「減速して入れる」という考え方がないのかもしれません。ドイツのアウトバーンを走った実感でも、本線を走る車に譲ってもらった経験はなく、合流する際には実に神経を使ったものです。

編集部:そうでしたか。ドイツ人は規則やルールに厳しいイメージがありますね。初心者ドライバーにはやさしいのかもしれませんが、アウトバーンで「高速教習」はやりたくないですね。日本との比較で思い出しましたが、外国のカーナビも同じかもしれませんが、日本のカーナビは合流地点が近づくと、懇切丁寧に「この先、合流車あり」と教えてくれますね。初めて通る道路や今回のように見通しが悪い場所なら助かりますが、何度も通ったことのある道路では鬱陶しく感じます。特に追越車線を走っていると合流車の影響を受けないので、「自分には関係ないし」と思ってしまいます。

長山先生:それは違います。合流地点が近づくと、走行車線の車が合流車を避けて追越車線に進路変更してくることがあるので、たとえ追越車線を走っていてもナビのアナウンスは重要な情報と言えます。ただ、古いナビの場合、新しくできた合流地点を網羅していないこともあるので、ナビに頼り切るのも危険ですね。

編集部:なるほど。追越車線を走っていても、間接的に自分に危険が及ぶことがあるのですね。ところで、今回の場所は左側からの合流でしたが、首都高などの都市高速には右側から合流してくる場所も多く、慣れないうちは面食らいました。今回のカーブも急でしたが、都市高速には設計基準のようなものはないのですか?

都市高速の急カーブは道路構造令が原因?

長山先生:合流・分流地点の位置については分かりませんが、カーブの曲がり具合については道路構造令で決められています。道路構造令第15条にて、道路の設計速度に応じて、曲線半径は下表の値以上でなくてはいけないと定められています。

編集部:曲線半径には2つの数値が入っていますが、これは何ですか?

長山先生:基本は左欄の数値で、地形の状況やその他特別な理由でやむを得ない箇所については、右欄の数値まで縮小できることになっています。たとえば、設計速度が100km/hの場合、曲線半径は460m以上が基本ですが、地形など特別な事情があれば、380mまで小さくできます。

編集部:やはり設計速度は制限速度より高くなるのでしょうか?

長山先生:そうですね。設計速度は自動車が安全かつ快適に走行できる最高速度になるので、制限速度はそれに安全マージンをとるので、より低い速度になります。一般的な高速道路の設計速度が120㎞/hとすると曲線半径は710m(または570m)になるのに対して、都市高速道路の設計速度が80㎞/hとすると曲線半径は280m(または230m)と大きな差があります。

編集部:都市高速の曲線半径は、一般的な高速道路と比較して半分以下ですね。これでは急カーブになりますね。

長山先生:そうですね。都市高速では曲線半径の最小値を取ることが許されるとともに、カーブに入るのに際して緩やかな曲線の緩和区間が設けられますが、都市高速がある都市部では土地に余裕がなく、地方部のように緩和区間を長く設置できません。曲線半径が小さいうえに緩和区間も短いことが、都市高速道路のカーブをきつく感じさせる理由です。

編集部:首都高の場合、本当に土地がなくて川の上や道路の下を走っていますからね。都心をクネクネと抜けるには、急カーブが多くなるのも仕方ないですね。初心者ドライバーにはかなりハードルが高い都市高速ですが、安全に運転するのに最も重要なことは何でしょう?

昭和30年頃に免許を取った人は「安全」知らず?

長山先生:安全に運転するためにはいろいろと必要なことがありますが、「運転技能」の中で最も重要なことと言えば、メンタルな技能としての「安全確認」だと言いたいですね。これは都市高速でも同じです。

編集部:「安全確認」ですか?? 失礼ながら極めて当たり前のような……。

長山先生:当たり前のことですが、それができずに事故が実際に起きているのです。交通事故の原因となる違反を調べると、1位が「安全不確認」31%、 2位が「脇見運転」17%、 3位が「動静不注視」11%となります。この割合は平成26年のデータですが、この順位は例年変わらず、「安全不確認」はダントツで多い事故原因になっています。データからも事故を起こさない安全運転をするのに最も重要なのは、「安全を確認する」ことだと言えましょう。

編集部:でも、「安全確認」という言葉は昔から使われていて、”耳タコ“的な言葉で新鮮さがないですね。

長山先生:昔からと言えばそうですが、私が運転免許を所得した昭和33年(1958年)頃は、いまの「道路交通法」ではなく「道路交通取締法」の時代でしたから、運転というのは「法規に従ってハンドル・アクセル・ブレーキを操作すること」と考えるような時代で、以前の法律には「安全」「危険」「事故」などという言葉はほとんど使われていませんでした。「安全運転」という言葉も使われず、もちろん「安全確認」という考えもなかった時代でした。

編集部:そんな時代があったのですね! 自動車自体がまだ普及段階で、まず法規どおりに運転することが求められたのかもしれませんね。

長山先生:そうだと思います。「安全」や「危険」は、法規どおりの運転ができて初めて生まれてくる概念だったようです。下表は運転関連の法律で「安全」「危険」「事故」の用語がどの程度使われていたのか調べた結果です。

調査結果

長山先生:それぞれの法律で「安全」という用語の使い方を見ると、「道路取締令(大正9年~昭和22年)」での2回の「安全」は、電車の停留所の「安全地帯」についてのみです。

編集部:「安全地帯」ですか? 使われ方が名詞的というのか、よく言う「安全」とはまったく違いますね。

長山先生:「道路交通取締法(昭和22年~昭和35年)」では、この法律の目的を危険防止と交通の安全を図ることとしていますが、行政の安全規制が主でした。ハンドル等による安全な操縦という言葉は用いられていますが、運転に当たって安全に注意するべき点については、「踏切通過時は安全かどうかを確認する」と「右折時の対向直進車・対向左折車との安全確保」、「横断歩道を通行する歩行者の安全」が述べられているのみです。この時代に運転免許を取得した運転者には「安全」という観念は植付けられなかったでしょう。

編集部:「道路取締令」と比べると、「安全」の数は一挙に10倍になっていますが、まだ使われ方が一義的というか、深みがないですね。

長山先生:そうですね。「道路交通法(昭和35年~)」になってからは、それまでの取り締まり主体のものとは異なってきて、第70条(安全運転の義務)が明確になり、「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。」の規定が定められました。また、「踏切での安全確認」以外に、「追越し時安全な速度と方法で進行」「安全を図る場所での徐行」が付け加えられています。

編集部: 事故を防ぐには、法規を守るだけでは不十分で、さらに進んだ安全意識や注意深さが求められるようになったのですね。

長山先生:ちなみに、交通事故・自動車台数などの推移を示す統計は昭和元年からありますが、私が持っている詳細な事故統計は昭和44年からのものです。その中の「違反種別交通事故発生状況」には「安全運転義務違反」が設けられています。それはさらに「ハンドル等の操作不確実」と「その他安全運転義務違反」の2つに分けられ、事故件数は前者が5万9000件に対して、後者は26万9000件と、約5倍の比率を占めます。安全に運転するためにはハンドルやブレーキ、そしてアクセルなどの操作以上に重要なことがあることを物語った数値です。

編集部:現在は「安全運転義務違反」は、さらに「安全不確認」や「脇見運転」などに分かれていますが、昭和40年代くらいまでは「その他安全運転義務違反」としてまとまっていたのですね?

長山先生:そのとおりで、「安全運転義務違反」の内訳が再分割され、その中に「安全不確認」が設けられたのが昭和57年(1982年)でした。その時から一貫して事故原因としては「安全不確認」が第1位、第2位「脇見運転」、第3位「動静不注視」となっています。今回は「安全」がどのように扱われていたのか歴史的に見ましたが、次回は「安全確認」とはどのようなことか考えてみたいと思います。

 

『JAF Mate』誌 2016年6月号掲載の「危険予知」を元にした「よもやま話」です

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