ニッサンの「R35型GT-R」のエンジン「VR38DETT」の生産試作型!
日産のR35型「GT-R」専用のV型6気筒ツインターボエンジン「VR38DETT」。MSJ2017「日産自動車大学校ブース」にて撮影
クルマは、その走りはもちろん、工業製品としてのデザイン性や、その中に詰め込まれた技術も魅力のひとつだ。さまざまなパーツで緻密に構成されており、各社各様のその時代における最先端の技術が投入されているが、中でもクルマ好きが熱い視線を最も注ぐのがエンジンだ。当コーナーでは今後、エンジンにスポットを当てて紹介していく。
今回は、モータースポーツジャパン2017の日産自動車大学校ブースで展示されていた、日産のR35型「GT-R」に搭載されているV型6気筒ツインターボエンジン「VR38DETT」の生産試作型を紹介しよう。
VR38DETTは、V型エンジンの「V」、GT-R専用の「R」、排気量が3800cc(正確には3799cc)の「38」、DOHCの「D」、電子制御の「E」、ツインターボの「TT」を意味する。
日産のモータースポーツ部門NISMOがチューニングした「GT-R NISMO」のVR38DETTエンジン。銀座のNISSAN CROSSINGにて撮影。最高出力や最大トルクがアップされている。
17年式のR35型GT-R。日産グローバル本社ギャラリーにて撮影。2007年に発表されたR35型も10年が経ち、そろそろ後継モデルのR36型が登場するというウワサもある。
GT-Rで初めて採用されたV型6気筒エンジン!
VR38DETTエンジン。燃費は、JC08モードで8.8km。ハイパフォーマンスのスーパーカーとしては燃費がいい。
VR38DETTの大きな特徴が、GT-Rに初めて搭載されたV型6気筒エンジンであることだ。
これまで、初代GT-RのKPGC10型(1969年)と2代目のKPGC110型(73年)に搭載された「S20型」と、3代目のR32型(89年)から5代目のR34型(99年)まで搭載された「RB26DETT型」のどちらも直列6気筒で、「GT-Rのエンジンは直6」のイメージがあった。そうした中、6代目となるR35型ではV型が採用されたのである。
R35型の開発ではエンジンの仕様決定は最後に
V6型が選ばれた理由は、通常のクルマの設計とは大きく異なる手法でR35型の開発が進められたからだ。
一般的にクルマを開発する際はエンジンの仕様を決めることから進められていくことが多いが、R35型は運動性能が最重視され、まずリヤタイヤに必要なグリップ力を決めることからスタート。そして、世界初となる「独立型トランスアクスル4WD」機構(クラッチ、トランスミッション、トランスファーをリアファイナルドライブと一体化させた機構)を採用することがまず決定されたのである。
その後、前後の重量バランスなどが決められていき、最終的にエンジンの仕様が決定。高い運動性能を実現するには、重心位置をフロントの車軸よりも後方に置くフロントミッドシップレイアウトを採用する必要があり、直6型では縦置きした場合に全長があるために難しかったことから、短いV6型という形式が選択されたというわけだ。
VR38DETTを横から。最も下側のシルバーの弧を描いたパイプは、モータースポーツで実績のあるIHI製インテグレーテッドターボチャージャー。VR38DETTは左右のバンク別にターボが装着されている。
たった5人しかいない「匠」がすべて手組みしている!
R35型は高い技量を持った職人たちによってハンドメイドで製造されており、調整が行われている。例えば、ボディ剛性を実現するための溶接もロボットだけでなく細部が職人の手によって行われているし、ブレーキローターの制動性能を上げるための「焼き入れ」も選ばれた6人のテストドライバーによる慣らし運転でハードブレーキングして行われている。
VR38DETTに関しても同様で、たった5人しかいないエキスパート=「匠(たくみ)」によってすべて手組みで組み立てられているのだ。
この匠によるハンドメイドというコンセプトは、日本のものづくりの技術を注ぎ込もうという考えが採り入れられているからである。
さて、今回紹介しているVR38DETTが生産試作型であることを冒頭で述べた。その証拠は、エンジンを組み立てた「匠」の名前が記されたプレートが貼り付けられてないことである。
GT-R NISMOのVR38DETTエンジンに取り付けられた匠の名が入ったプレート。同エンジンを組み立てられる匠は世界で5人しかいない。
日産自動車大学校のVR38DETTエンジン。このように、ネームプレートがあるべき部分にシリアルナンバーしかなく、通常のエンジンではないことが見て取れる。
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はたして生産試作型とは? そしてVR38DETTエンジンのスペック!
生産試作型とは試作型と量産型の間のエンジン
ニッサン大学校横浜校が所有するこのVR38DETT生産試作型は、錆びを防ぐことと展示用という意味合いもあり、実際に搭載されているエンジンとは異なる塗装が施されているという。
生産試作型とは、工業製品においてパーツからすべて手作りの試作型と、実際に市販される量産型の間に位置づけられる。生産試作型はパーツを実際にラインで生産した上で匠が手組みするという量産型と同じ態勢で初めて製作されたエンジンのことをいう。R35型のボディに実際に搭載されたことはないが、ベンチテストで使われた可能性はあるそうだ。
日産自動車大学校は全国に5校あるが、同エンジンを所有しているのは横浜校。モータースポーツジャパンのようなイベントで展示することも多いそうだが、教科書に載せられている一般的なイメージのターボと、市販車で実際に取り付けられているターボの違いを比較するといった特別授業でサンプルとして利用するそうである。
またVR38DETTエンジンの07年当時のスペックは以下の通りだ。年々進化しており、17年式は最高出力419kW/6800rpm、最大トルク527N・m/3300-5800rpmまで強化されている。
種類・シリンダー数:DOHC・V型6気筒
シリンダー内径×行程:95.5×88.4mm
総排気量:3799cc
圧縮比:9.0
最高出力:357kW/6400rpm(ネット値)
最大トルク:588N・m/3200-5200rpm(ネット値)
燃料供給装置:ニッサンEGI(ECCS)電子制御燃料噴射装置
使用燃料・タンク容量:無鉛プレミアムガソリン・74L
2017年7月19日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)