【動画あり】自動レーンチェンジも可能なベンツの最新自動運転技術
中央が今回発表された新型「Eクラス」で、左がカール・ベンツが1886年に世界で初めて開発したガソリン自動車「パテント・モーター・カー」のレプリカ。右は2013年の東京モーターショーで披露された「VISION TOKYO」。
メルセデス・ベンツ日本は、7月27日に都内で行われた新型「Eクラス」の発表に併せて、同社の自動運転技術「インテリジェントドライブ」の内、同車に装備した最新機能を紹介。その一部の機能については、実際にデモンストレーションを実施した。
ベンツも自動レーンチェンジ機能を市販車に搭載
インテリジェントドライブの機能の内、Eクラスで初搭載となるものが複数ある。中でも注目すべきなのが、同社初となる自動レーンチェンジ機能「アクティブレーンチェンジングアシスト」だろう。
同機能は、ステアリングアシスト機能の「ステアリングパイロット」を起動させている状態で、ドライバーがウィンカーを2秒以上点滅させると働く。
自車周囲を監視するセンサーが、3秒以内に他車と衝突してしまう危険性がないことを確認すると、つまり真横はもちろん、移りたいレーンの後方から接近する車両などがないことが確認されると、ステアリング操作がアシストされてレーンチェンジが自動で行われるという内容である。
道交法の観点からステアリングからは手を放せないが、ステアリングが自動的に回転するのを軽く握って邪魔しなければよい。時速約80km~180kmの間で作動し、自動車専用道路でのみ利用可能となっている。
アクティブレーンチェンジアシストに関しての資料。
→ 次ページ:
続いては緊急回避機能や失神時にも安心の自動停車機能など!
歩行者との衝突を自動的に避ける「緊急回避補助システム」
またステアリングアシスト機能のひとつとして、歩行者や障害物などを避けるための「緊急回避補助システム」も搭載された。
同機能は、歩行者検知・飛び出し検知機能付き衝突被害軽減ブレーキシステム「アクティブブレーキアシスト」の歩行者検知機能を補うもの。
車道横断中の歩行者などと衝突してしまう危険性をセンサーが検知すると、正確なステアリングトルクが計算され、回避のためのステアリング操作がアシストされる内容だ。そして回避したあとに、もとの車線に復帰する際も同様にアシストしてもらえる。
回避してから復帰するまでの間、ドライバーはアクティブレーンチェンジと同様にステアリングの回転を邪魔しないように軽く握っているだけでいい。インテリジェントドライブの日本公式サイトの動画ではステアリングが左右に大きく回転するのを見て取ることができ、まさにクルマが自動で動いている感覚。作動速度範囲は時速約20~70kmだ。
アクティブブレーキアシストと緊急回避補助システムに関する同社の説明。
意識不明時の自動停車や衝突時の耳の保護機能なども
さらに、ドライバーが意識を失ってしまったことが想定される状況で働くのが、「アクティブエマージェンシーストップアシスト」。自分が運転できない状態になった場合でも自動的に停車してくれて、自車の暴走を防いでくれる仕組みである。
そして、衝突が不可避であることをセンサーが検知したときに働く「PRE-SAFE」機能シリーズにも、新たなものが追加された。そのひとつが、事故時の衝撃音から乗員の耳を守る「PRE-SAFEサウンド」。
車両のスピーカーから乗員の鼓膜の振動を抑制する音を発生させ、鼓膜の振動を内耳に伝えるあぶみ骨筋の反射収縮反応を引き起こすことで、衝撃音の内耳への伝達を軽減するという仕組みである。
またPRE-SAFEシリーズには、側面衝突時に衝突側前席バックレストのサイドサポートに内蔵されたエアーチャンバーが瞬時に膨張し、乗員をドアから遠ざけて衝突を防ぐ「PRE-SAFEインパルスサイド」も追加されている。
一般道や自動車専用道路を走行中、カメラが制限速度などの標識を読み取ってディスプレイに表示し、制限速度を超えた際には警告音を出してドライバーに注意を促す、「トラフィックサインアシスト」も新機能として追加された。標識の認識を行えるということは、将来の自動運転でも要となる機能といえるだろう。
ステアリングアシストは白線なしでも道路を認識!
そして、インテリジェントドライブの従来よりある機能も複数が強化され、その中から今回は「ディスタンスパイロット・ディストロニック」と「ステアリングパイロット」、そして「パーキングパイロット」のデモンストレーションが実際に行われた。
先行する新型Eクラスを、後方の新型Eクラスが自動運転機能で追従中。
ディスタンスパイロット・ディストロニックは前走車との車間を保って追従する機能で、一般道・自動車専用道路のどちらでも使用可能。作動速度範囲は、時速0~約210kmとなっているだ。
前走車が渋滞や信号待ちなどで停車したときは、30秒以内なら自動で再発進する仕組みも採用している。30秒以上は軽くアクセルを踏むか、クルーズコントロールレバーを引くことで再発進する。
そして、そのワンセットの機能ともいえるのが、ステアリングパイロット。前走車と白線を認識し、また白線がない場合はガードレールや反射柱などの構造物を認識することで道路を推定し、車間を維持しながらステアリング操作をアシストするという機能だ。
車線が不明瞭な場合でも時速0~約130kmの間で作動。デモンストレーションは迎賓館の前庭で行われたのでもちろん白線がなく、さらにはガードレールなどもない状況。それでも、前走車をきっちりと追走していた。おそらく直線部分では、報道陣やゲストなどの人垣、およびテントなどで判断していたものと思われる。
ただ、さすがにコーナリングは難しかった模様だ。人垣もテントもなかったため、石畳と芝生の境目にある立ち入り禁止を示す細い支柱とその間に渡されたチェーンを見ていたものと思われるが、そのために前走車のラインを完全にトレースできず、コーナリングはしていたが、若干外側に膨らんでいるようにも見受けられた。
会場となった迎賓館赤坂離宮の前庭で、前走車を追従する新型Eクラス。白線なしでも追従する。
自動でスペースを探した上で駐車してくれる
そしてもうひとつのパーキングパイロットは、縦列と並列の両方に対応した自動駐車機能だ。
時速約35km以下で利用できる機能で、まず超音波センサーでもって左右にEクラスが入っていけるだけの最適なスペースを検出。そして、ステアリング、アクセル、ブレーキ、シフトチェンジを自動制御して駐車するという具合だ。複数の駐車スペースが見つかった場合は、選択できる仕組みにもなっている。
デモンストレーションでは、停車している2台のEクラスの間に、あとからやってきた3台目が並列駐車するところが披露された。何度か前進後退してタイヤの切り返しを行い、決して余裕があるわけではないスペースにぴたりと止めていた。
パーキングパイロットのデモンストレーション。ドライバーが手を離しているのが見て取れる。
スマホで愛車を車庫から出せるように
また自動駐車関係の機能としては、今回は映像での紹介となったが、スマホを使って前進または後退の直進約15mまで動かせる「リモートパーキングパイロット」も披露された。
駐車するときはパーキングパイロットを使用するだろうから、乗り込むときにドアを開けやすいよう、広いところまで駐車スペースや車庫からちょっとだけ前進または後進させたいときに使うのが、リモートパーキングパイロットというわけである。
こちらは記者会見で披露されたデモ映像。スマホで愛車を前後進させられる仕組みだ。
このほかに強化された機能としては、「歩行者検知/飛び出し検知機能付きアクティブブレーキアシスト」、「渋滞時緊急ブレーキ機能」、「マルチビームLEDヘッドライト」などがある。
機能的に従来のままのものは、「アクティブブラインドスポットアシスト」、「リア被害軽減ブレーキ付き後方衝突警告システム」、「アクティブレーンキーピングアシスト」、「360°カメラシステム」などだ。
市街地での自動運転技術の開発も着々と進行中
また、現在開発中の未来の同社の自動運転技術として、地図情報のある市街地および郊外道路を通常のクルマの流れの中で自動運転する「アーバンパイロット」や、インフラが制御監視する方式の自動駐車・呼び出し機能「自動駐車係」も紹介された。
なお、アーバンパイロットは2013年に試験走行「ベルタ・ベンツドライブ」で実証済み。また自動駐車係は、ボッシュが試作を行っているとした。
日本でも早期に一般道での自動運転機能が実現することを期待したい。
→ 次ページ:
自動運転技術は本格的なレベル2の時代に突入!
自動レーンチェンジの実現で本格的なレベル2の時代に
国内メーカーの自動レーンチェンジはいつ市販車に?
日産セレナ。搭載される自動運転技術プロパイロット1.0は、自動車専用道路の単一レーンでのみ利用できる。
これまで、自動レーンチェンジ機能を搭載している市販車を販売していたのはテスラのみだったが、そこにメルセデス・ベンツが今回加わったことで、世界の自動運転技術は、レベル2の中でもより高度な機能を実現した時代に突入したと思われる。もはやレベル2.5といった方がいいかもしれない。
一方、国内メーカーの開発状況に関しては、テストレベルでは大手メーカーはすでに実現しているが、市販車への搭載はまだ具体的には発表されていない。
日産が8月下旬に発売する新型「セレナ」に、同社の自動運転技術「プロパイロット」のバージョン1.0を搭載することは「日産の自動運転技術「プロパイロット」試乗レポ」でお伝えした通りだが、こちらは自動車専用道路の単一レーン用の技術である。
こちらはレーンキープとクルーズコントロールを組み合わせたもので、国産の市販車としては初めてステアリング、アクセル、ブレーキの同時制御を行うレベル2の自動運転技術だが、自動レーンチェンジ機能はない。大まかだが、白線と前走車を初めとする他車を認識し、前走車に一定間隔を開けて追従。前走車がない場合は設定速度の通りに走るという内容だ。
自動レーンチェンジ機能を実装したプロパイロットのバージョン2.0は、2018年に市販車に搭載される予定だ。
日産の自動運転技術プロパイロットのロードマップ。自動レーンチェンジは2018年を予定。プレゼン資料から。
→ 次ページ:
自動運転技術は高級車にしか搭載されないのか!?
自動運転技術は普及させてこそ意味があるはず
ただし、今回の新型Eクラスの発表を見ていると、やはり現状では自動運転機能は珍しいこともあり、メルセデス・ベンツとして高級車をより高級であるとアピールするための要素のひとつとしていることも実際に感じられた。
また今回の発表では、同社が自動運転を推進する理由として、安全性に加えて「顧客に快適性を提供するため」としている。多くの国内メーカーが、自動運転というと安全性を主眼とする中で、多くの国内メーカーとは異なるスタンスをアピールした。
しかし、最初は仕方がないにしても、自動運転はずっと一部の富裕層のみが利用できる技術であっては意味がないはずだ。
smartの4人乗り用の「forfour」。二人の「fortwo」もある。
よって、日産がセレナというファミリー向けの主力ミニバンにプロパイロット1.0を搭載したように、メルセデス・ベンツにも今後はインテリジェントパイロットをもっと一般に普及してもらいたいと期待するところ。同社は高級車メーカーではあるが、「smart」のような一般向けのコンパクトカーもある。
インテリジェントドライブを搭載したsmartが普及すれば、結果としては社会全体の交通事故の減少、渋滞の少ないスムーズなトラフィックの実現に近づき、広い意味で同社のユーザーにとっても快適性を提供でき、同社の目指すことも実現できるのではないだろうか。
発表が行われた迎賓館赤坂離宮の正門から内門までの間にずらりと並んだメルセデス・ベンツのクルマたち。
2016年8月4日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)
フォトアルバム
●メルセデス・ベンツ「パテント・モーター・カー(1886年:レプリカ)」(サイズ900×600:全12点)
●メルセデス・ベンツ「Vision Tokyo(2015年のコンセプトカー)」(サイズ900×600:全9点)