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最終更新日:2018.03.08 公開日:2018.03.08

世界初の2ローターにしてマツダ初のロータリー量産車「コスモスポーツ」

ロータリーエンジンを搭載したマツダ発の量産車が「コスモスポーツ」。そのスタイリングにも定評があり、今でも人気の高い1台だ。ここでは、そんな「コスモスポーツ」を取り上げる。

流麗なスタイリングで、名車の1台と数えられるマツダ「コスモスポーツ」。デザインは、東洋工業(現・マツダ)デザイン部門が手がけた。「オートモビルカウンシル2017」のマツダブースにて撮影。

 今でこそロータリーエンジン(RE)といえば、マツダが開発したエンジンというイメージだが、正確には少々異なる。マツダは自分たち独自の技術で量産化にこぎつけたが、世界で初めてREを実用化したのは、1920年代から研究を続けてきたドイツ人エンジニアのフェリックス・ヴァンケル博士と、独NSU社である。両者が1959年12月に共同発表したヴァンケル式のロータリーエンジンが世界で最初のREとなる。

 3輪トラックメーカーから乗用車メーカーへの脱却を図っていた当時の東洋工業(現・マツダ)の松田恒次(まつだ・つねじ)社長は、”技術は永遠に革新である”、”会社が生き残るためには独自の技術が必要”をモットーとしており、革新的といわれたREに着目。NSU社とヴァンケル博士と接触し、REの実力を目の当たりにする。REは軽量コンパクト、排気量に対して高出力の上、上下動を繰り返すピストンや開閉を繰り返すバルブなど、可動部分が少ないために振動や騒音が少ないといったメリットもあった。

 そして東洋工業は60年10月にはNSU社とヴァンケル博士と仮契約を、そして61年2月にはお互いに新開発した技術の成果を交換し合うというクロスライセンスを基本とする技術提携を結ぶに至り、REの開発をスタートさせるのであった。

「コスモスポーツ」は2人乗りの2ドア・クーペ。夢のエンジンを実用化したということを強くアピールするべく、マツダ初のRE車はイメージ戦略もあって、REの性能を最大限に引き出せる専用設計のスポーツカーとなった。

後方から。流麗なテールが魅力のひとつ。

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困難を極めたREの開発に成功!

「ロータリー四十七士」らの活躍でREを遂に実用化!

「コスモスポーツ」は現在でも十分に通用するスタイリングを持つ。

 社内から集められた「ロータリー四十七士」と呼ばれることになる、47人の若手技術者たちは寝食を忘れてRE開発に没頭するが、それは困難を極めた。

 ヴァンケル式REは、まゆ型のローターハウジング内を三角形のおむすび型をしたローターが高速回転する仕組みだ。RE実現の前に立ちはだかった最大の問題点は、ローターの3つの頂点のアペックスシールがローターハウジング内面を異常摩耗させてしまう、通称「悪魔の爪痕」と呼ばれる現象が発生してしまうことだった。

 開発当初は、エンジンを始動してわずか数時間で、クロームメッキ加工されたローターハウジングの内面が引っかき傷だらけとなってしまい、エンジンとして使い物にならなくなってしまっていたという。この厳しい現実に直面し、一次は社内外からREの実現は不可能という声も出てくるようになる。それでもロータリー四十七士は必死の開発を続け、アペックスシールの形状と素材を工夫し、社外の協力も得たことでその難関を乗り越えることに成功。マツダのREはいよいよ実用化の目処が立ったのである。

 そして、夢のロータリーエンジンが遂に実現できたということで、イメージ戦略として、新規設計のスポーツカーに搭載されることが決定した。REの優れた点を最もアピールできるという理由からである。

ヴァンケル式RE(「コスモスポーツ」に搭載された「10A」型)のカットモデル。まゆ型のローターハウジング内を、三角形のおむすび型のローターが回転する。オートモビルカウンシル2017」のマツダブースにて撮影。

 63年8月にデザイン部門が手がけた試作車が完成し、「コスモスポーツ」と命名された。その2か月後の第10回全日本自動車ショー(現・東京モーターショー)において、松田社長自らがプロトタイプを運転して会場に乗り付けることで、鮮烈なデビューを飾るのであった。松田社長は2台の「コスモスポーツ」試作車でショーからの帰途、協力会社や販売店を行脚し、ロータリーエンジンをさらにアピールし、協力を要請したという。

「悪魔の爪痕」と呼ばれたハウジング内面の傷跡。開発開始当初は、エンジンを駆動してたったの数時間で内面がこのような状態になってしまい、まったくエンジンとして使い物にならなかったという。オートモビルカウンシル2017」のマツダブースにて撮影。

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「コスモスポーツ」は徹底的に開発された!

60台のプロトタイプを用いて全国のディーラーがテスト

「コスモスポーツ プロトタイプ」。60台のプロトタイプを、マツダの全国のディーラーに配車し、さまざまな条件の下にテストをしてもらい、報告された問題点を解決していったという。最初の1台が失敗したらREの未来がないという覚悟のもと、徹底的な開発が行われた。

 「コスモスポーツ」の正式発表は、64年の9~10月に開催された第11回東京モーターショー(第11回から東京モーターショーに名称を改めた)。このときは目玉の展示車両のひとつとして、会場の人気を集めた。なお同じく10月には、NSU社が世界初となるRE車で、シングルローターの「ヴァンケルスパイダー」を発表している。

 世界初のRE車はNSU社が開発したが、マツダはその後も慌てることなく着実にテストを重ねていく。65年になるとテスト走行で10万kmを突破。さらに社外委託試験として、60台のプロトタイプの「コスモスポーツ」を全国各地のディーラーに配車して、さまざまな気象条件や道路状況におけるテストも実施。このテストは66年末まで続けられ、市販車の「コスモスポーツ」にフィードバックされると同時に、全国のディーラーがREを理解するのに大いに役立ち、整備やサービスにおいても貢献したという。

 そして67年5月になり、満を持して販売を開始。長きにわたる開発の末に、「コスモスポーツ」は世に送り出されたのであった。

 NSU社に先行されたため、RE車としては世界で2番目となったが、2ローター(マルチローター)搭載車は世界初であった。

後方から。右に見えるのは初代「サバンナRX-7(SA22C型)」。

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「コスモスポーツ」は若者が手を出せない高級車だった!?

68年にはマイナーチェンジで後期型が登場

正面から。68年に行われたマイナーチェンジで登場した後期型は、フロントグリルなどのデザインが大きく異なっており、見た目でわかりやすい。今回紹介しているのは前期型。

 「コスモスポーツ」に搭載されるREは「10A」型だ。排気量は491cc×2ローターで、110馬力を発生させた。最高速度は時速185km、0-400m加速性能は16.3秒。価格は148万円。現代の貨幣価値に換算すると600万円弱という高級車だが、月に20~30台ほどが販売されたという。

 68年にはマイナーチェンジが行われ、後期型が登場した。出力を128馬力までアップさせたRE「10B」型と5速MTを搭載し(前期型は4速MTだった)、最高速度200kmを達成。0-400mの加速性能も15.8秒に短縮した。外面も変更され、フロントグリルなどの形状が改められている。価格もアップして158万円となった。

 「コスモスポーツ」は72年9月まで生産され、累計生産台数は1176台を数えた。その後、マツダはレシプロエンジン車とボディを共用するRE車を販売していくが、78年に専用設計のボディに新型RE「12A」を搭載したピュアスポーツ「サバンナRX-7(SA22C型)」を誕生させ、「コスモスポーツ」で培ったものを継承していく。

 そんなRE車も、2012年6月の「RX-8」の生産終了を持って販売を終了。ただし、RE車の復活を望むファンの声は根強く、新型REを搭載した「RX-9」が期待されている。

REチューンといえば、RE雨宮。東京オートサロン2018のRE雨宮ブースにて撮影した「RE雨宮 COSMO SPORTS 13B」。外見的に大きな差はないが、フロントに当時は存在しなかったマツダのオーナメントが貼り付けられている。実は、エンジンが2代目「RX-7(FC型)」や3代目「RX-7(FD型)」などに搭載されたREとしては「10A」よりも新型の「13B」型に換装されるなど、中身は大きく変更されている。

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「コスモスポーツ」のスペック!

「コスモスポーツ」のスペック

 下に掲載したスペックは前期型のもの。後期型は全長が10mm短くなった一方で、ホイールベースが150mm延長されている。そして最高出力が18ps、最大トルクが0.9kg・mアップした。

【スペック】
全長×全幅×全高:4140×1595×1165mm
ホイールベース:2200mm
トレッド(前/後):1250/1240mm
車重:940kg
サスペンション
 前:独立ダブルウィッシュボーン/コイル
 後:ドディオンアクスル/縦置半楕円リーフ
ブレーキ(前/後):ディスク/ドラム

【エンジン】
排気量:491cc×2
最高出力:110ps/7000rpm
最大トルク:13.3kg・m/3500rpg

運転席。ステアリングやシフトノブは木製。現代の価値で600万円弱という高級スポーツカーであったことから、高級感も演出されていた。

2018年3月8日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)

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