どうして発生するの? なぜ予測が難しいの?【ゲリラ豪雨について調べてみた(1)】
近年、日本では豪雨による土砂災害や浸水災害が多く発生している。特に、今から21世紀に入って00年代半ばほどからは、通称「ゲリラ豪雨」が問題となっている。 なぜ発生するのか? そして、なぜ予測が難しいのか? ゲリラ豪雨に迫ってみた。
「ゲリラ豪雨」という言葉は正式な気象用語ではなく、気象庁では「局地的大雨」と呼ぶ(今回の記事ではゲリラ豪雨と表記)。一般的に広まったのは、00年代半ば頃から。ゲリラ豪雨の発生回数が増えて人的・物的被害をもたらすようになり、民間の気象予報事業者であるウェザーニューズ社やマスコミなどが頻繁に使うようになったからとされる。実際、ゲリラ豪雨は2008年の新語・流行語大賞でトップ10入りし、一般に広めたということでウェザーニューズ社が受賞している。
そもそもゲリラ豪雨とは? どのような危険性がある?
集中豪雨とゲリラ豪雨との違いは、降水域の広さと降雨時間、そして発生しやすい時期の3点が異なる。集中豪雨の場合は、50~300km×20~50km程度の帯状の降水域が数時間停滞して大雨を降らす。時期的には梅雨や9月などに多い。
それに対してゲリラ豪雨の降水域は20~30km四方の広さといわれ、より局所的だ。時期的には5月や夏に多い。また雨量に関してはどちらも明確な基準はないが、気象庁では集中豪雨は数時間に100mmから数100mmとされ、ゲリラ豪雨は数10分ほどの間に数10mmとしている。
ゲリラ豪雨の注意すべき点のひとつは、降水域が局所的であるため、二次災害を想定しにくい場合があることだ。例えば2008年7月に石川県では、1時間の降雨量が140mmというゲリラ豪雨が降った。問題だったのは降った地域が、金沢市内を流れる河川の上流域だったこと。わずか20kmしか離れていない金沢市内では1時間に20mmという降雨量だったのだが、一気に流量が増えて河川が氾濫。市内での浸水被害が出てしまったのである。
ゲリラ豪雨はどのようにして降る?
ゲリラ豪雨も集中豪雨も、大雨を降らすのは積乱雲だ。積乱雲は、大気の状態が不安定になると発生する。大気が不安定な状態とは、地上付近の空気が暖かくて湿っている場合、または上空に寒気が入り込んだ場合などだ。要は、地上付近と上空の温度差がより大きい状態である。
このようなとき、地上付近の湿った暖気が上昇していくが、その暖気も上昇すると共に気温が下がっていく。その結果、暖気中の水蒸気が凝結して雲粒(雲を構成する雨粒よりも小さな水滴)となり、積乱雲として成長していくのである。雲粒が雨粒まで成長すると地上に落下しだして雨となり、それによって大気の不安定さが解消される(地上と上空の温度差が少なくなる)のである。
集中豪雨の場合は、複数の積乱雲が降雨帯で次々と発生していくことも多い。そのため数時間にわたって降雨が続く場合もある。しかしゲリラ豪雨の場合は単体の積乱雲が降らす。しかも、その積乱雲は10分程度で急速に発達するという。そのため積乱雲の発生から降雨の終了まで1時間かからない場合も珍しくないのだ。
なぜゲリラ豪雨を予測するのが難しいのか?
気象庁ではレーダーや気象衛星などのさまざまな観測データをもとに、複数の「数値予測モデル」(コンピューター・シミュレーション)を用いて天気予報を行っている。その観測に使われている気象レーダーのうち、国土交通省などにより都市域で整備されてきているのが、降雨量をより細かく観測できる小型の「Xバンドマルチパラメータ気象レーダー」(XバンドMPWレーダー)だ(※1)。
しかし、XバンドMPWレーダーはパラボラアンテナを機械的に回転させて降雨の観測を行うため、地上付近の観測でも1~5分程度、降水の様子を3次元的に観測するには5分以上の時間を要してしまう。それに対して、ゲリラ豪雨を降らせる積乱雲は10分程度で急速に発達する。そのためXバンドMPWレーダーでは、積乱雲の詳細な3次元構造を短時間にとらえることができないのである。
ゲリラ豪雨の発生地点の予測精度についても現状では限界が
また現状では、ゲリラ豪雨の発生地点に関しても予測精度の限界がある。気象庁が実施している複数の数値予測モデルのうち、最も精度が細かいのが「局地モデル」だ。日本周辺を対象としており、その領域を1辺が2kmのメッシュ状に分割して、コンピューター・シミュレーションが行われている。しかし大気が不安定な状況では、積乱雲は一定の区域内のどこに発生してもおかしくない。そのため、2km四方という分解能では「この辺りで積乱雲が発生しやすい」までが限界となっているのである。
そして局地モデルのシミュレーション実行回数は1時間ごと。数値予測モデルのうちで1日の予測実行回数が最も多く、10時間先までの予報を出すのに用いられている。しかし、ゲリラ豪雨を発生させる単体の積乱雲は急速に発達して豪雨を降らし、1時間ほどで姿を消してしまう。そのため、時間的にとらえきれない可能性もあるのだ。
ゲリラ豪雨とは、このように現代技術を持ってしても予測が難しい難敵なのである。