2021年03月06日 06:00 掲載

次世代技術 超小型EVを150万円で。出光興産が自社SSで22年発売へ

トヨタが昨年末に発表した「C+Pod」に続き、出光興産も超小型EVを発売へ。いま各社が次世代モビリティに注目する理由とは? モータージャーナリストの会田 肇氏が解説する。

文・会田 肇

新会社「出光タジマEV」が開発する超小型EV。定員4名で最高速度は60km/h

新会社「出光タジマEV」が開発する超小型EV。定員4名で最高速度は60km/h

 ガソリンスタンドで超小型EVを買ったり借りたりできるようになる! そんな時代が来年(2022年)にも訪れそうだ。

 出光興産は2月16日、タジマモーターコーポレーション(以下:タジマモーター)と超小型EVなどの次世代モビリティおよびサービスの開発を行う「株式会社出光タジマEV」を2021年4月に設立することで合意。21年10月に開催される東京モーターショーで生産モデルを公開し、翌22年には出光SSで販売する他、シェアリングサービスにも対応すると発表した。

記者会見を終え、アクリル板越しに肘タッチする出光興産の代表取締役社長の木藤俊一氏(左)と、タジマモーターの代表取締役会長兼社長CEOの田嶋伸博氏

記者会見を終え、アクリル板越しに肘タッチする出光興産の代表取締役社長の木藤俊一氏(左)と、タジマモーターの代表取締役会長兼社長CEOの田嶋伸博氏

個人ユースとビジネスユース合計で需要は約100万台を想定

 新会社はタジマモーターの関連会社であるタジマEVに出光興産が出資し、商号を「出光タジマEV」へ変更した上で新たなスタートを切ることとなる。新会社の代表者は、タジマモーターの代表を務める田嶋伸博氏が兼務。新会社では出光のSSネットワークと素材開発技術を活用し、タジマモーターの車両設計の技術を融合することで年間100万台と予想される潜在的ニーズに応えられる超小型EVを開発するとしている。

 この超小型EVとは、軽自動車に区分される中で最高速度を60km/h以下とした超小型モビリティを指す。これまで実用化を目指して日本各地で実証実験が実施されてきたが、2020年9月に国土交通省が道路運送車両法の施行規則を改正し、このカテゴリーを軽自動車の一つとして正式に区分したことで販売が可能になったものだ。

 車体サイズは原付四輪と同じ全長2.5m以下、全幅1.3m以下。最高速度は60km/h以下に抑えられるが、それを周囲に示すことで衝突安全試験の一部を緩和・免除される(この区分の超小型モビリティには、最高時速60km以下の車両であることを車両後面の見やすい位置に表示する必要がある)。

「出光タジマEV」が開発する超小型EVのデザインコンセプト

「出光タジマEV」が開発する超小型EVのデザインコンセプト

 出光興産とタジマモーターの両社はこれまで岐阜県高山市や千葉県館山市において、超小型EVを活用したシェアリングサービスの実証実験を実施してきた。出光興産の代表取締役社長である木藤俊一氏は、「この実証実験を通してわかったのは、地方部に限らず、さまざまなエリアにおいて異なる移動手段に対する多様なニーズがあること」と述べ、「そのニーズとは大きく個人ユースとビジネスユースに分けられる」とした。

 個人ユースで想定されるのは、免許返納に伴って移動へのニーズが高まっている高年齢者層と、日々の買い物や子供の送り迎えに自動車を利用することに不安がある運転経験の浅い層となる。超小型EVは車両サイズが小さくて車両感覚がつかみやすく、最高速度も60km/hに抑えてあることで、運転に自信のない人たちにも取り扱いしやすいとの判断だ。

 もう一つのビジネスユースについては、「一日の移動距離が15km未満の近隣営業を行う層にも一定の需要がある」(木藤社長)との認識を示し、これらは「車両稼働率も20%以下であるために軽自動車ほどの高い性能・機能は不要と感じている会社が少なくなかった」(木藤社長)という。ビジネスに必要十分なスペックを備えた超小型EVはそんなニーズにも最適というわけだ。

近距離を手軽に、かつミニマムに走行するカテゴリーに属する超小型EVは、年間100万台の需要があると見込む

近距離を手軽に、かつミニマムに走行するカテゴリーに属する超小型EVは、年間100万台の需要があると見込む

ターゲット層の具体的な潜在ニーズのイメージ。個人ユースからビジネスユースまで多様な需要を見込む

ターゲット層の具体的な潜在ニーズのイメージ。個人ユースからビジネスユースまで多様な需要を見込む

出光SSを超小型EVの販売やシェアリングだけでなく、さまざまなサービスの拠点としていく計画

出光SSを超小型EVの販売やシェアリングだけでなく、さまざまなサービスの拠点としていく計画

乗車定員はC+Podが2名なのに対し、出光タジマEVは4名を想定

 では、出光タジマEVが開発する超小型EVはどんなクルマなのか。明らかになっている試作車を参考にすると、スタイルはEVならではのスペース効率の高さを最大限活用した4人乗り(カーゴタイプは1人)で、車両のボディサイズは全長2,495mm×全幅1,295mm×全高1,765mm。全高以外は国土交通省が定めた超小型モビリティのほぼギリギリのサイズだ。パワーユニットは最大出力15kWで最高速度60km/hとなり、バッテリー容量は10kWhと規定枠内に収められ、航続可能距離はフル充電で120km前後を想定する。

 超小型EVの分野で先行したのはトヨタで、すでに「C+Pod(シー・ポッド)」を法人向けに販売中。22年には一般向けにも販売を予定する。車両スペックはボディサイズが全長2,490mm×全幅1,290mm×全高1,550mm。全長×全幅はほぼ同寸だが、全高は出光タジマEVの車両よりも低く設定されている。

 一方で、C+Podのパワーユニットは最大出力9.2kWにとどまるものの最高速度は60km/h。バッテリー容量は9.06kWhとやや控えめながら航続距離は150kmを実現している。充電についてはC+Podが100V/200Vに対応しているが、出光タジマEVの車両は100Vのみとなる見込みだ。

トヨタが現在、法人向けに販売している超小型EV「C+Pod」。グレードは「G」(写真)と「X」がある

トヨタが現在、法人向けに販売している超小型EV「C+Pod」。グレードは「G」(写真)と「X」がある

 「C+Pod」の定員は2名。運転席/助手席共にエアバッグを標準装備した他、エアコンも装備する

「C+Pod」の定員は2名。運転席/助手席共にエアバッグを標準装備した他、エアコンも装備する

C+Podは買い物した荷物が収納できる十分なスペースを用意した

C+Podは買い物した荷物が収納できる十分なスペースを用意した

 最大の違いは定員だ。出光タジマEVの開発車は定員が4名で、ビジネスユース向けにカーゴルームを増やした定員1名のモデルも用意する。一方のC+Podは定員2名のモデルのみ。この辺りが影響しているのか、航続距離はC+Podの方が長い。

 出光興産の木藤社長は「前後に2人の子供を乗せて走る自転車の代替を想定した」というだけあって、家族の移動を踏まえれば定員は4名の方が適しているのかも知れない。しかし、その分だけ重量は増え、航続距離に影響を与えている可能性はある。

 それと走行中の安全性も気になるところだ。出光タジマEVが開発する車両は、出光興産が開発する高機能プラスチック素材を使うことになるが、公道を走る以上、C+Podに搭載されているABSやESCなど走安性に関わる部分は必須だし、エアバッグやシートベルトなどの安全装備は欠かせない。

 これについてタジマモーターの田嶋代表は「量産車として型式認定を取る以上、保安基準をクリアできる安全性は確保していく」と説明。また、「快適性を確保するためにエアコンも装備する」(田嶋代表)とも述べた。

2019年開催の東京モーターショーに出展した、出光興産とタジマモーターの超小型EV試作車

2019年開催の東京モーターショーに出展した、出光興産とタジマモーターの超小型EV試作車

航続距離を短くして低価格化を実現したEVにこそ市場性があるのかも

 そして気になる価格はC+Podが165万円からとしているのに対し、タジマ代表は「100万~150万円の価格帯を目指す」とする。装備などによって価格差は生まれると思われるが、仮に安全装備やエアコンまで装備して、4人乗車が可能となれば価格面での優位性は大いにある。

 ただ、これはまだ生産モデルがない段階での話であって、生産する場所も「出光興産の施設か、全国にある協力会社を予定する」とし、バッテリーも"国内外のユニットを検討中"(田嶋代表)としているなど未確定な部分が多いのも事実だ。

 また、EVが航続距離を長くするには高価なバッテリーの大容量化が欠かせず、そうなれば車両価格も高くなって広く普及するにはハードルが高くなる。出光興産の木藤社長が述べたように、いわゆる"チョイ乗り"で日常生活をこなしたいと考える層が一定数はいるはずだ。その意味では、航続距離を短くして低価格化を実現したEVにこそ市場性があるのかもしれない。トヨタがC+Podをいち早く投入したのもそういった部分の市場性を見込んだからだろう。新たに第三のメーカーが参入することで、近距離走行に絞った車両の新たな市場が生まれていくことを期待したい。

2021年4月1日付けで出光興産がタジマEVに出資し、「出光タジマEV」に商号を変更して新会社がスタートする2021年4月1日付けで出光興産がタジマEVに出資し、「出光タジマEV」に商号を変更して新会社がスタートする

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