21年ぶりのフルモデルチェンジ! 三菱ふそう「スーパーグレート」は乗りやすさと安全性を大幅強化
スーパーグレート。運転のしやすさ、ドライバーにかかる負荷を軽減することを念頭に置いてさまざまな工夫が凝らされた1台となっている。画像は、箱形の荷台の側面がオープンするウィングボディのバンで、バリエーション名「WING」。
三菱ふそうは5月15日、10年振りのモデルチェンジとして大型観光バス「エアロクィーン/エース」を発表したが(記事はこちら)、同時に、なんと21年振りのフルモデルチェンジとなる大型トラック「スーパーグレート」も発表した。21年分の進化とはどのようなものか?今回はスーパーグレートを紹介したい。
今回のスーパーグレートの特徴のひとつが、女性ドライバーにも扱いやすいこと。ドライバー不足が悩みの種の運送業界に対して、女性ドライバーでもこれまで以上に乗りやすい車両開発で、顧客にアピールしたいという。
スーパーグレートを正面から。画像は、最上級グレード「Premium Line」に、オプション「LIMITED WING ECO PLUS」を追加した仕様。サイズ(特に全高)や重量はバリエーションなどによって大きく異なるが、同車は全長11990mm×全幅2495mm×全高3780mm、ホイールベース7220mm。車両重量1万720kg、最大積載量1万4100kg、車両総重量2万4930kg。
スーパーグレートを側面から。
スーパーグレートを後方から。
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続いては、最大の特徴である自動トランスミッション「ShiftPilot」
前進12段/後退2段の機械式自動トランスミッション「ShiftPilot」
スーパーグレート用のShiftPilot。前進12段/後退2段と、エアロシリーズ用に比べて、前進が4段、後退が1段多い。
スーパーグレートの特徴のひとつが、エアロシリーズと同様に、全車が機械式自動トランスミッション「ShiftPilot(シフトパイロット)」を搭載し、クラッチ操作を廃したことだ。ただしエアロシリーズ用よりもギア数が多く、スーパーグレートに搭載されているShiftPilotは、前進12段/後退2段で構成される。エアロシリーズ用に関しては、こちらをご覧いただきたい。
ShiftPilotは路面状況、勾配、車両総重量などの変化に応じてプログラムによる変速操作が自動的に行われる仕組みだ。走行モードはスタンダードとエコノミー(ダンプの場合はオフロード)の2種類から選べる。
なお、エンジンの回転数を合わせたスムーズな自動変速が行われることから、当然3ペダル式のようなクラッチ・オフ時の駆動力の抜けがなくなる。その結果、加速と慣性走行の繰り返しが少なくなるので、積載物を前後に揺すってしまうことも軽減されている。
また、乾式単板クラッチの制御とスロットル制御を緻密に連携させることで、微速域でのアクセル応答性が向上しているほか、普通車のオートマのようにクリープ走行も可能とした。
スーパーグレート用ShiftPilotを別角度から。
【スーパーグレート用ShiftPilotスペック】
●トランスミッション型式:G211-12(直結)/G230-12(オーバードライブ(OD))
●変速比:14.929/1.000(直結)/11.672/0.779(OD)
排気量が異なる2種類のエンジンを用意
6R20(T2)エンジン。現行の6R10より2L少ない10.7Lという排気量にしたことで約170kgの軽量化に成功。排気量を小さくしたにもかかわらず、さまざまな技術により低速トルクをアップした。
続いてのポイントとなるのが、平成28年度排出ガス規制に適合した2種類の新型エンジンがラインナップされていること。どちらもターボ搭載の直列6気筒ディーゼルエンジンで、10.7Lの「6R20」型と、7.7Lの「6S10」型だ。
6R20は6R系の最新型で、第2世代の排出ガスのコントロールシステムを搭載し、従来型の直列6気筒12.8L「6R10」よりも排気量を小さくしたにもかかわらず、トラックに重要な低速トルクのアップに成功している。その理由としては、制御の自由度を高めたこと、燃焼効率を最適化したこと、アシンメトリックターボチャージャーや新型EGR(排気再循環)バルブ、第2世代「X-Pulus」システムによる高圧コモンレールシステム(210→250MPa)などを搭載したことなどだ。
また、全回転領域においてパワフルで扱いやすい特性を実現したという。そして、約170kgの軽量化を達成した。なお、6R20は最高出力や最大トルクの違いにより、T1からT3型まで3種類がある。
【6R20スペック】
T1型:最高出力265kW/1600rpm、最大トルク2000N・m/1100rpm
T2型:最高出力290kW/1600rpm、最大トルク2000N・m/1100rpm
T3型:最高出力315kW/1600rpm、最大トルク2100N・m/1100rpm
小排気量の6S10に関しては、エアロシリーズで紹介したので、こちらをご覧いただきたい。なお、エアロシリーズ用の6S10は高出力のT2型のみが採用されているが、スーパーグレート用には、トルクは同じながら最高出力が20kWほど低いT1型も用意されている。
【6S10スペック】
T1型:最高出力260kW/2200rpm、最大トルク1400N・m/1200~1600rpm
T2型:最高出力280kW/2200rpm、最大トルク1400N・m/1200~1600rpm
勾配を予測して燃費効率を上げる「パワートレイン3D予測制御」
なお燃費に関しては、ShiftPilotの搭載や、エンジンの軽量化などが貢献しているほか、登降坂の多い道でより効率よく走るための、「パワートレイン3D予測制御」機能がオプションで設定されている。GPSと3D地図情報を駆使して道路の勾配を予測し、アクセル開度や最適なギアの選択、積極的なエコロール(アクセルオフによる慣性走行)の作動を自動制御するオートクルーズの付加機能だ。
ちなみにスーパーグレートには「LIMITED WING ECO PLUS」というパッケージがオプションで用意されている。同パッケージはパワートレイン3D予測制御機能、ドラッグフォイラー(運転席の屋根にあるエアロパーツ)、省燃費MIXタイヤ、サイドスカート&リアディフレクターという構成で、ベース車両と比較して最大15%の燃費向上を実現できるとしている。
バンタイプは荷台の上部が運転席の屋根より上に垂直に突き出ているため、その部分が空気抵抗となってしまう。そこでドラッグフォイラーを運転席の屋根に装着することで空気の流れを改善し、燃費をよくするというわけである。
安全性の面も機能を強化
安全性の面では、衝突被害軽減ブレーキとして、2019年11月から施行される衝突被害軽減ブレーキ第2段階規制に適合している「AMB(Active Mitigation Brake) plus」と「ABA4(Active Brake Assist 4)」の2種類を用意。AMB plusは従来のAMBを発展させたもの。ミリ波レーダーを用いて前方の走行車両もしくは停止車両をセンシングし、衝突の危険を察知した際に警報やディスプレイ表示と同時に自動ブレーキを作動させて衝突時の衝撃を軽減する。スーパーグレートの3つあるグレードのベーシックモデル「Eco Line」に装備。
AMB4はAMB plusをさらに発展させたもので、停止車両に対してより高い衝突被害軽減性能を有する。またABA4は、歩行者との衝突リスクを検出した場合にも警報とディスプレイ表示と同時に、自動ブレーキで減速操作を行う仕組みだ。スタンダードモデル「Pro Line」と最上級モデル「Premium Line」に装備。
左折時の歩行者や自転車の巻き込みを防止する機能も装備
さらに歩行者の検知に関しては、「アクティブ・サイドガード・アシスト」と呼ばれるシステムも用意されている。左折時における歩行者や自転車などの巻き込みを防止するためのものだ。
ミリ波レーダーは前方を監視するもののほかに、車体左側面にも2つ備えられている。前方と後方をそれぞれ監視し、車体左側に歩行者や自転車を感知したときは(車両も検知する)、車内助手席前方ピラー部分に設置したランプが黄色に点灯し、ドライバーにその存在を通知する仕組みだ。その状態で左ウィンカーを出したり、左側へハンドルを切ったりするとランプが赤で点滅するとともに警報ブザーが発報。左折の中止を促すようになっている。
ピラーにある三角のランプが黄色に点灯したら、左側に歩行者や自転車がいるという通知。それにもかかわらずに左折しようとすると、警報ブザーと赤ランプで巻き込み事故を起こしてしまう可能性があることをドライバーに警告する仕組みだ。
わき見や居眠り運転も警告してくれる
さらに、運転中のドライバーの状況を判断する運転支援技術で、従来の「MDAS-III(エムダススリー)」の発展型である「アクティブ・アテンション・アシスト」を搭載。ダッシュボード上の赤外線方式の「ドライバーモニターカメラ」でドライバーの顔の向きや動き、瞬きの状況などを捉え、その情報と車両側から得られた運転操作情報を統合処理し、ドライバーの総合的な運転注意力を判断するというものだ。
MDAS-IIIでは判断できなかったわき見(顔の向きから判断)や、居眠り(まぶたが閉じている時間の長さから判断)も感知でき、注意力が低下した兆候をより高精度に捉え、警報ブザーとディスプレイ表示でドライバーに注意喚起をする仕組みとなっている。「Pro Line」と「Premium Line」に装備。なお、MDAS-IIIは「アテンション・アシスト」と名称を変え、「Eco Line」に装備。
ダッシュボード上の赤外線方式のドライバーモニターカメラ。ドライバーの注意力が散漫な状況を検知することができる。
無償の遠隔診断機などのコネクティビティ・サービスを用意
そして運送会社用のシステムとして全車標準装備されたコネクティビティ・サービスが、運行管理システム「Truckonnect(トラックコネクト)」だ。稼働中の車両の情報をリアルタイムに、管理者のPC端末でチェックすることができる。
管理できる情報としては、全車両の位置情報、状態、車両ごとの燃費、アイドリング情報、急制動、急発進など。エコ運転や安全運転診断も行えるようになっている。
また遠隔診断機能もあり、トラックから発信される車両の各種情報を、24時間稼働の三菱ふそうのカスタマー・アシスト・センターでモニタリング。問題が発生した場合には同社からサービス提供の段取りや、予後・予防メンテナンス、販売店への入庫予約などをサポートする仕組みだ。
なおTruckonnectは、初期導入費用、デジタルタコグラフ費用、サービス通信費用すべてが無料となっており、これもまた大きな特徴といえる。
グレードは3種類・タイプは大別して3種類
そしてスーパーグレートのグレードは以下の3種類が設定されている。
●Eco Line:基本機能のベーシックグレード
●Pro Line:Eco Lineに安全装備と実用装備を追加したグレード
●Premium Line:Pro Lineに同社の先進安全技術を追加し、上質な車内空間の演出も行った最上級モデル
さらに、Premium Line専用オプションとして、コンビネーションレザー表皮を採用したドライバーズシート、エクステリア・ルミネーションランプ、メッキ処理を施したグリルおよびバンパーなど、複数の上級装備を追加した「Executive package」も設定されている。
バリエーションとしては大別して、以下の3種類がある。
●カーゴ:荷台がオープンでフラット型のいわゆる平ボディ
●ダンプ:土砂などの運搬に用いられるタイプ
●WING:荷台が箱形のバンボディの1種で、側面が開くタイプ
価格(東京地区)は、カーゴタイプでエンジン6R20(T2)型搭載のPremium Line「2PG-FU74HZ」が、2105万2440円(税込)だ。
3種類のバリエーションの内のダンプタイプ。グレードは「Pro Line」、仕様は「強化アオリ化粧型ダンプ」。この車両のスペックは、全長7770mm×全幅2490mm×全高3180mm、ホイールベース4570mm。車両重量1万530kg、最大積載量9300kg、車両総重量1万9950kg。
ダンプタイプを後方から。
キャビン部分の後方。
最後はスーパーグレートのコックピットやエクステリアの細部などをピックアップ。
小柄な女性でも運転席に乗り込みやすいよう、3段ステップが採用された(画像はドアが閉じているために2段に見える)。
運転席を下から撮影したところ。乗降用の手すりが左右に設けられているのがわかる。これがあるとないで、乗り降りのしやすさがまったく違う。
ステアリング周り。ステアリングから手を離さずとも操作ができるようデザインされており、左側のスイッチはインパネ中央部に設けられたマルチファクションモニターの操作やオーディオ類の音量調節用。右側は、プロキシミティー・コントロール・アシストの操作や、スマートフォンの着信操作などを行える。
発表会での展示車両は、3軸の内の後軸タイヤはオプションで「スーパーシングルタイヤ」も設定されている。これにより、ダブルタイヤ(車体内側方向にもう1本タイヤがある)より最大で213kgの軽量化を行える。
テールランプ部分。
2017年5月18日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)