2020年08月20日 18:00 掲載

クルマ 『イタリア発 大矢アキオの
今日もクルマでアンディアーモ!』第7回
「えっ、たったコレだけですか!?」イタリア最新AT事情

あなたはAT派? それともMT派? イタリア在住のコラムニスト、大矢アキオがヨーロッパのクルマ事情についてアレコレ語る連載の第7回目は、イタリアにおける最新AT事情について。

文・大矢アキオ(Akio Lorenzo OYA)
写真・Akio Lorenzo OYA

イタリアではAT車の比率が年々上昇しているものの、小型車ではまだ圧倒的にMT車が主流だ。写真のフィアンメッタさんも、フィアット500のシフトレバーを鮮やかに操る。

イタリアではAT車の比率が年々上昇しているものの、小型車ではまだ圧倒的にMT車が主流だ。写真のフィアンメッタさんも、フィアット500のシフトレバーを鮮やかに操る。

ギアチェンジするのが面白いのよォ

 日本では年間乗用車総販売台数のうち、AT(オートマチック)車の比率が限りなく100%に近くなって久しい。いっぽう、筆者が住むイタリアでは新車登録台数のAT比率は20.4%だ(2017年 出典:FCA)。

 日本に住んでいる読者からは「えっ、たったコレだけですか!?」という声が聞こえてきそうだ。しかし筆者個人としては、ずいぶん普及したものだというのが率直な感想である。今日に至る経緯を知っているからだ。

 1996年、筆者がイタリア中部シエナで生活を始めたときのこと。公共交通機関の未発達に辟易して車を買おうと思い立った。ただし、30歳で一念発起してやってきた留学生である。新車など買える予算はない。中古車一択であった。

 ヨーロッパはMT主流であることを知っていたものの、実際に探してみると、ATの中古車探しは想像を絶する困難があった。ディーラーでも中古車専売店でも、AT車が並んでいることはほとんどなかった。地元新聞の「売りたし」欄も、目を皿のようにして読んだ。おかげでイタリア語の読解力が僅かに向上したものの、やはりAT車は見つからない。

 バスを乗り継いで行った自動車販売店で探しあてたのは、フィアットのCVT式AT車だった。だが、車内を見せてもらうと、さまざまな補助器具が付加されていた。どうやらハンディキャップをもった人が前オーナーだった。販売員は「器具は簡単に取り外せるよ」という。しかし、4輪ともタイヤの空気が抜けているのを見て、かなり長く放置されていたと想像した。加えて、シートにタバコの焦げ跡がいくつもあるのを発見するに及び、購入をあきらめてしまった。

 その日以後、街で車椅子マークが付いている駐車スペースの車をチェックすると、ボルボの「66」「300」といったCVT式AT車が多いことに気づいた。知り合いのイタリア人に聞くと、「2ペダルのATは脚に障がいのある人が多く乗っているんだよ」と教えてくれた。イタリアでは第二次大戦中、外地で地雷によって脚を負傷したり失ったりする人が多かったことも、少なからず影響していることがわかってきた。

 それはともかく、驚いたのは、彼の脇にいた夫人、というかおばちゃんの言葉だった。東京で免許を取得して以来、自分の車はほとんどATだった筆者が「AT車が見つからない」と嘆くと、彼女は「何言ってるの? 車は、ギアチェンジするのが面白いのよおォ」と、変速するジェスチャーとともに叫んだ。

 彼女以外にも、筆者のぼやきに、多くのイタリア人が同様の反応を示した。テレビのCMもしかり。日本ではとっくにAT仕様しか輸入しなくなっていた高級車でも、颯爽とMTを変速するシーンが映しだされているではないか。MT好きな人々が多いことを示していた。

2008年のアルファ・ロメオ販売店の風景。当時同ブランドは、シーケンシャルAT「セレスピード」をカタログに載せていたものの、実際の店頭に並ぶ中古車にはほとんどなかった。

2008年のアルファ・ロメオ販売店の風景。当時同ブランドは、シーケンシャルAT「セレスピード」をカタログに載せていたものの、実際の店頭に並ぶ中古車にはほとんどなかった。

 やがて自動車に詳しいイタリア人やディーラーの販売員と話すうち、「運転の楽しさ」以外にもATの人気が無いさまざまな理由が判明してきた。列挙すると以下のとおりである。

・AT仕様の追加料金が高い
・大都市以外、交差点の多くがロータリー式(ラウンドアバウト)である。したがって信号によるストップ&スタートが少ない。MTであっても変速する回数が少ないので、苦にならない
・都市部以外、渋滞が少ない
・走行距離が20万km前後に達するまで乗り続けるユーザーが少なくない。ATだと、その間オーバーホール費用が掛かる
・公共交通機関が発達していない地方都市に住んで通勤に使用すると、年間走行距離が3万kmに達することも珍しくない。MTとATでは燃料代負担にそれなりの差が生じてしまう。

......といったものだった。

今日でもイタリアでは、中身が露出するほど摩耗したMTシフトノブを頻繁に見かける。この車は、すでにオドメーターが20万kmを超えていた。2020年7月撮影。

今日でもイタリアでは、中身のスポンジが露出するほど摩耗したMTシフトノブを頻繁に見かける。この車は、すでにオドメーターが20万kmを超えていた。2020年7月撮影。

 これでは、ATの中古車を探しても無駄だ。結局、筆者が2台のMT車を経てAT車を手に入れたのは、在住10年目であった。それも、我が家から380km離れた北部ミラノにあるメーカー認定中古車センターだった。当時、筆者が住む中部のシエナよりも、まだAT車を見つけられる確率が高かったからである。

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