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クルマ最終更新日:2023.06.19 公開日:2022.10.11

海外でも大問題! 英国で電動キックボード死傷者数が1年で900%増加

イギリス最大の慈善交通安全団体「IAM RoadSmart」は、イギリス政府に対して、国内で急激に増えた電動キックボードによる事故について言及し、交通事故による死傷者数を減らすための対策強化を求めている。今年の9月に初の死亡事故が起きてしまった日本は、電動キックボードの普及が進む海外から、何を学ぶのか。

文=原田磨由子

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イギリスで電動キックボード事故が激増していた

(c)Ewa Leon - stock.adobe.com

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 英国運輸省(DfT)が発表した2021年の調査結果によると、電動キックボード(イギリスでの呼称はeスクーター)による事故の年間死傷者数は1,434人で、そのうち10人が死亡し、重傷者は421人、軽傷者が1,003人であった。2020年の統計では、1人が死亡し、重傷者が128人、軽傷者が355人であったことと比較すると、わずか12ヶ月で死者数が900%増加したことになる。
※DfTが発表した「e-Scooter factsheet 2021」はこちら

イギリスでドライバートレーニングなどを行う慈善団体「IAM RoadSmart」で政策・研究ディレクターを務めるニール・グレイグ氏は「電動キックボードによる大虐殺を止めなければならない。わずか1年で電動キックボードに関連する死者の増加が10倍という結果は、まったく容認できない。規制の遅れは命を犠牲にすることになり、私たちの街の道路で毎日のように悲劇を引き起こす。」と語っており、同団体は英国運輸省に電動キックボードを規制する新しい法案の導入を求めている。

イギリスでの電動キックボードが関与した衝突事故による、2021年の死傷者数。電動キックボードが衝突した相手は歩行者(Pedestrian)と自転車(Pedal Cyclist)が大半を占めている。なお、この数字は電動キックボードの搭乗者自身を除いたものになる。出典=GOV.UK「e-Scooter factsheet 2021」

イギリスでの電動キックボードが関与した衝突事故による、2021年の死傷者数。電動キックボードが衝突した相手は歩行者(Pedestrian)と自転車(Pedal Cyclist)が大半を占めている。出典=GOV.UK

2021年イギリスでの電動キックボード利用者の性・年齢別死傷者数。10歳から39歳までは、男性ユーザーの方が圧倒的に死傷者数が多い。出典=GOV.UK「e-Scooter factsheet 2021」

2021年イギリスでの電動キックボード利用者の性別・年齢別死傷者数。10歳から39歳までは、男性ユーザーの方が圧倒的に死傷者数が多い。出典=GOV.UK

2020年(緑色)と2021年(橙色)におけるイギリスでの電動キックボード衝突事故の、時刻別死傷者数。通勤・登校時間帯の午前8時台と、退勤・下校時間帯の16時台が集中して事故が起こるという結果に。出典=GOV.UK「e-Scooter factsheet 2021」

2020年(緑色)と2021年(橙色)における、イギリスでの電動キックボード衝突事故の時間帯別死傷者数。通勤・登校時間帯の午前8時台と、退勤・下校時間帯の16時台が集中して事故が起こるという結果に。出典=GOV.UK

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実は、英国ではすでに電動キックボードは禁止に!?

電動キックボードは2021年12月に禁止になっていた

2020年と2021年の、電動キックボードが関与した衝突事故の月別死傷者数。ねずみ色の背景部分は、コロナウイルス感染拡大のパンデミックによるロックダウン期間。2021年12月の減少は、オミクロン株流行の影響によるものと、もうひとつ大きな理由がある。出典=GOV.UK「e-Scooter factsheet 2021」

2020年と2021年の、電動キックボードが関与した衝突事故の月別死傷者数。ねずみ色の背景部分は、コロナウイルス感染拡大のパンデミックによるロックダウン期間。2021年12月の大幅な減少は、オミクロン株流行の影響によるものと、もうひとつ大きな理由がある。出典=GOV.UK

 イギリスで、すでに電動キックボードが禁止になっているのであれば、なぜ規制法案の改善をIAM RoadSmartは求めているのか? それは、電動キックボードが禁止になった理由が、別の問題によるものだったからだ。

それは、2021年の12月までに電動キックボードのバッテリー爆発による火災発生が相次いだことで、ロンドン交通局が2021年12月13日から「個人が所有する電動キックボードに対して、公共交通機関での使用を禁止する。」と発表したためである。※ロンドン交通局による発表の詳細はこちら

現在は私有地での利用であれば個人所有も認められており、公道で乗る場合はロンドンの制限区域内で、英国運輸省が認めた業者が運営するレンタル用としてのみ走行することが可能だ。

しかし、このレンタルも試験運用としてのサービスであるため、かなりの制限がかかっている。例えば、出発地と到着地の登録や、使用時間、利用目的などのプランをあらかじめ提出する必要があることや、制限区域を出た場合、電動キックボードに内蔵されたGPSが反応し、乗り物の電源を強制的に落としてしまうことだ。トライアルとはいえ、出発地と目的地が制限区域内になければ、電動キックボードのみでの通勤・通学・観光目的での利用は難しいだろう。結果、イギリスでの電動キックボードの普及は、ほぼスタート地点に戻る形となった。

それでも、電動キックボードはロンドンの中心部をはじめ、イギリス国内での道路渋滞を軽減し、環境にもやさしい乗り物として期待されている。そのため、2022年11月のトライアル期間終了後に、イギリス運輸省のスキームに沿ってサービスや規制が再び緩和される可能性がある。IAM RoadSmartが今年の9月に改めて警鐘を鳴らしたのは、現在の試験運用で設けられた安全対策のままでは、死傷者数を減らす根本的な解決方法にならないと判断したからだろう。

さぁ、日本はどうする?

電動キックボードでの走行を後ろから確認すると、歩行時のシルエットとほとんど差がないことに驚く。乗り物の情報は地面から30cm程度の後輪まわりと、ハンドル上部にあるサイドミラーの有無をなんとか認識できる程度。(c)tsubasa-mfg - stock.adobe.com

電動キックボードでの走行を後方から確認すると、歩行者のシルエットとほとんど差がないことに驚く。「乗り物」としての視覚情報は地面から高さ30cm程度の後輪まわりと、ハンドル上部にあるサイドミラーの有無をなんとか認識できる程度。(c)tsubasa-mfg – stock.adobe.com

 「ラストワンマイルの移動手段」は、今や世界各国にとっても大きな社会課題であり、電動キックボードの普及に対しても大きな期待が寄せられている。そして、日本では2022年4月19日に道路交通法の改正案が可決され、近い将来、電動キックボードでの走行において、”16歳以上は免許不要”や、”ヘルメットの着用は努力義務”などの規制緩和が実施される予定だ。

だが、電動キックボードの走行時において、歩行者や自転車などに衝突する場合、車両などから衝突される場合、そして日本でも起きた、単独での衝突事故でも死傷者が出る可能性があることが、こうして分かっている。ならば、利便性と普及のために安全性の確保がおろそかになれば、結果的に利便性も普及も遠のくという教訓を、日本は海外の実例から学ぶべきではないだろうか。

(c)MINIWIDE - stock.adobe.com

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