都心~青梅に悲願の新ルート!「多摩新宿線」計画で多摩地域が大変化?「高速空白地帯」を信号なしでスルー【いま気になる道路計画】
新宿~田無~青梅方面を結ぶ高規格道路「多摩新宿線」は、高速道路の空白地帯に計画されている構想路線だ。この道路によるメリットや、現在の進捗状況について解説していこう。
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「高速道路空白地帯」を貫く「多摩新宿線」
都市計画区域マスタープランに記載された多摩新宿線。
高規格道路「多摩新宿線」は、新宿から田無、東村山を経由して、青梅方面を結ぶ構想路線だ。関越自動車道と中央自動車道のちょうど中間を貫く放射ルートで、現在の「青梅街道」「新青梅街道」を高架もしくはトンネルで立体的に高規格化し、信号ゼロ移動を可能にするものだ。
現在の青梅・新青梅街道は、都心~北西多摩地域を直結する大動脈でありながら、信号が連続しているため渋滞が激しい。代替となるバイパスは無く、関越道・中央道から圏央道を経由するのも大きな迂回となるため、交通流が集中してしまうのだ。
このように東京も都心から少し離れると、広大な「高速空白地帯」が広がっており、そこに高速軸を通すのが多摩新宿線の役割だ。
もし、中央環状線 西新宿JCTからそのまま高速道路で北西方向へ乗り継ぎ、荻窪や西東京市、東久留米市、小平市、東大和市、果ては瑞穂町や青梅市まで「信号待ち無し」で移動できるようになれば、物流や生活、緊急搬送など、さまざまな場面で大きなメリットが期待できるだろう。
1996年の都の調査報告書。多摩自立都市圏構想が核となっている。
「多摩新宿線」は、1996年に東京都が「多摩新宿線整備構想に関する基本調査」を実施。ここではじめて、本格的に基本コンセプトが詰められた。
背景となるのは東京都が進めてきた、都市機能分散計画「多心型都市づくり」である。「多摩自立都市圏構想」を掲げ、オフィスが家の近くにあり、都心まで満員電車で通勤しなくてもいい社会を作ろうとした。
多摩自立都市圏には八王子・立川・青梅・町田・多摩ニュータウンという5つの「心」が位置づけられ、核都市として都市機能強化が図られる。これら「心」と都心・他エリアをつなぐ主要軸として構想されたのが「多摩新宿線」なのだ。
東京都が30年前に調査したルートとは
1996年の都の調査報告書に記載された、多摩新宿線の3つのルート案。
基本調査での「多摩新宿線」のルート案を見てみよう。田無から都心側は荻窪・新高円寺を通る「青梅街道」の高規格化だが、西側は3案が比較されている。
A案:新青梅街道を高規格化(約39km)
B案:計画中の「新五日市街道」ルート。花小金井から西進し、玉川上水の先で北上して新青梅街道へ合流する(約41km)
C案:五日市街道ルート。練馬関町から南西に向かい、玉川上水沿いに整備される(約41km)
この調査では、C案は玉川上水とかぶるため地下トンネル建設の必要があり不利。A案は住宅が密集している。B案は空地率3割で事業推進しやすく、沿道への波及効果も高いと評価されている。
開通後の将来交通量は1日あたり3~7万台と推計。新宿副都心~立川の所要時間は、現状の50分から30分へと20分の短縮。新宿副都心から青梅へは、現状の110分から50分へと60分もの大幅短縮が見込まれる。
また、「多摩新宿線」の開通によって中央道の交通量は国立府中・稲城を中心に最大3割減少。現道の青梅街道・新青梅街道も、たとえば荻窪では混雑度が2.9から1.0へ大幅に減少すると推計されている。そして年間の経済効果は当時の物価で約1320億円に相当するという。
整備の進め方は、まず外環道より外側を先行整備する段取りだ。整備延長は約30km、事業費約1.2兆円。いっぽう新宿方面は「首都高4号新宿線のバイパス程度の機能で、多摩自立圏構想への効果は少ない」として、後回しにされる。
報告書からすでに30年が経過しているが、その外環道がいまだに関越道で止まったまま、中央道にすら到達していないというのは、なかなか複雑な思いにさせられる。
実現に向けてどうなっている?
外環道はまだ、全線開通まで道半ばとなっている。
さて、そんな夢のような「多摩新宿線」だが、実現に向けて話は進んでいるのだろうか。
国の高規格道路の整備方針のうち、最新となるのは2021年策定の「新広域道路交通計画」だ。ここで多摩新宿線は「構想路線」にリストアップされ、グレー色の丸記号でおおまかなルートが描かれている。
しかし、特に具体的な動きは無さそうだ。なぜなら、2006年の国会において、国土交通大臣が「環状道路の整備をしっかりと進めていくことが最優先の課題」と答弁したからだ。
最優先の環状道路とは「圏央道」「外環道」だ。圏央道は千葉県内(松尾横芝IC~大栄JCT)と神奈川県内(藤沢~横浜)区間が工事中で、外環道は「関越道~中央道~東名高速」の工事が続いている。さらに「東名高速~湾岸線」の構想も控えている状況にあり、多摩新宿線に順番が回ってくるのは、さらに先になりそうだ。
いっぽう、国へ要望する立場である東京都はどうだろうか。2009年改定の「東京の都市づくりビジョン」では、多摩新宿線について「交通需要の動向等を踏まえながら、関係自治体等と連携を図り、長期的な視点で検討を行う」と、前進への意思を見せている。
しかし、都議会では2017年に整備意向について確認があり、当局は「関係者と連携して検討を進めてまいります」と答えただけで具体的な説明はなかった。さらに2021年の「都市計画区域の整備、開発及び保全の方針」では、本文で触れずに「高速道路ネットワーク」の図表で「検討路線」として記載されただけだった。
このように、多摩新宿線の構想はまだ水面下にとどまっているにすぎない。もし、計画が大きく動き出すとすれば「期成同盟会の設立」「大規模な調査業務の予算計上(議会で質疑があるはず)」あたりが兆候となるだろう。圏央道や外環道の工事進捗とともに、引き続き注視していきたい。
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