『イタリア発 大矢アキオ ロレンツォの今日もクルマでアンディアーモ!』第57回【Movie】━━噂のフィアット・グランデパンダ、全国ツアー開始!
新型は人気上々! でもスケジュールにソワソワ? イタリア・シエナ在住のコラムニスト、大矢アキオ ロレンツォの連載コラム第57回は、噂のフィアット・グランデパンダ、全国ツアーの模様をお届けします。
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フェリチタ!
フィアットが大きな期待を寄せるニューモデル「グランデパンダ」。そのEV版とマイルドハイブリッド版の詳細については、2024年9月18日の本欄でお伝えしたとおりである。ブランドの故郷イタリアでは、内覧会ツアーが2025年2月末からスタートした。こうしたツアーはフィアットが従来から新型車投入のたびに行っていたものだ。主要都市の販売店に運び込み、優良顧客を招く。ひと晩だけの催しで、翌日車両は別の街の店へと運ばれてゆく。
筆者が住むイタリア中部シエナに、グランデパンダは2025年2月27日にやってきた。会場はトスカーナ州内屈指のフィアット・ディーラー「スコッティ・ウーゴ」である。普段は納車ブースとして使われている2階に上がると、グランデパンダがヴェールをかぶせられたまま置かれていた。販売店が後援する地元バスケットボール・チームのメンバーが華やぎを添える。
夜7時、まずは販売店のジャーダさんが車両の概要を説明。1957年「ヌオーヴァ500」、1980年「初代パンダ」といった歴代の成功作の開発思想がふんだんに盛り込まれていることを強調した。グランデパンダはセグメントBのハッチバックで、パワーユニットは
・マイルドハイブリッド : 3気筒1.2リッター・ターボ100HPps +28HPモーター/48Vバッテリー 6段デュアルクラッチAT
・EV : 44kWバッテリー+83kW(113ps)モーター
の2種である。
ヴェールが取り払われるとEV版が姿を現した。詳しくいえば、上級仕様である「ラ・プリマ」だ。車体色は「ルナ・ブロンツェ(ブロンズ色の月)」と名づけられたオプショナル・カラーである。
生バンドがイタリアでグランデパンダのCMに起用されている名カンツォーネ『フェリチタ(幸せ)』を奏でる。そのリリースは1982年。ちょうど初代パンダが人気を博していた時代と一致する。

グランデパンダは、ステランティスのセルビア工場で生産される。その晩展示されたのは、EV仕様に2グレード設定されたうちの上級版である「ラ・プリマ」。

EV仕様ラ・プリマの価格は27,900ユーロ(イタリア付加価値税込み)。ボディカラー「ルナ・ブロンツェ」は750ユーロ(約12万円)のオプションである。

生演奏は70-80年代のカンツォーネ中心にセレクトされていた。

ラ・ブリマ仕様には、マイルドハイブリッド、EVともに専用デザインの17インチ・アルミホイールが装着される。

ドア下端にプレスされたPANDAの5文字は、初代4✕4バージョンに貼られていたデカールを意識したものだ。

ラ・プリマ仕様に装着されるルーフレールも、初代のイメージを踏襲したものという。

初代パンダのスクエアなフォルムを再現したことがわかるリア・クォータービュー。

テールランプはピクセルLED。

テールゲート下端には立体のPANDAロゴが。

フロントフードを開けてモータールームを覗く。満充電からの航続可能距離は320km(WLTP複合モード)。

EV版グランデパンダの“売り”である内蔵型スパイラル充電ケーブル。ただし最大7.4kWのAC充電のみ対応。

最大100kWのDC充電には、側面の充電口を用いる。

初代の幅広いラック型ダッシュボードが再解釈されている。

ドアトリムのデザインも大胆。

ディスプレイ縁の楕円は、フィアット旧リンゴット工場の屋上テストコースを表現したもの。初代パンダのミニアチュアも添えられている。

ダッシュボードの一部にはバンブー(竹)繊維が用いられている。「パンダ✕竹」とは、なんとも洒落の効いた組み合わせだ。

センターコンソールのトレイにも、リンゴット工場屋上テストコースのオーバルが投影されている。

ダッシュボードの隅までデザインに手を抜いていない。
熱烈ファンが続々と
招待客には、仔細にグランデパンダを観察する人が多くみられた。シルヴァーノ・チリッロ氏は、隣町にあるショールームのセールスパーソンに連れられてやって来たという。若い頃購入したヌオーヴァ500以来のフィアット・ファンで、「初代パンダも乗っていましたよ」と教えてくれた。
アルド・サルヴァドーリ氏は夫人のアンナさんと一緒に来場した。彼らもヌオーヴァ500でフィアットとの馴れ初めを果たしたと振り返る。さらに1974年に登場したフィアット製2ボックス車「127」は2台も乗ったという。ここ数年は「スズキ・イグニス」に乗ってきたが、グランデパンダでフィアット復帰を果たすつもりだ。
シルヴァーノ、アルド両氏とも過去に所有したフィアットの購入価格を記憶していた。当時“一生懸命買いました”感”が溢れている。シルヴァーノ氏は動画を撮影するばかりか、ときおりビデオ通話している。聞けば、相手は家で待つ夫人だった。「(グランデパンダを)彼女にプレゼントするつもりなんですよ」と語る。いっぽうのアルド氏も、グランデパンダに乗る夫人の姿を熱心に写真に収めていた。フィアット乗りは愛妻家である。それはともかくグランデパンダには、長年のファンの心の琴線に触れるものがあることは確かなようだ。

シートには「フィアットで愛を込めて作られたパンダ」のメッセージ。

販売店が後援するシエナのプロバスケットボール・チーム「メンズ・サーナ」の選手たちもやってきた。

ステアリングを握る夫人の姿を撮影するアルド氏。
ちょっとソワソワするカレンダー
いっぽうでグランデパンダに財布を開く若い世代がどの程度いるかは、もう少し観察が必要だ。従来型パンダが1万ユーロで買えるイメージがあまりに定着しているからだ。グランデパンダのイタリア国内価格は、マイルドハイブリッド版は3グレード中のベースモデル「ポップ」が18,900ユーロ(約312万円)から。EV仕様の基本グレード(RED))が24,900ユーロ(約411万円)からである。
ただし、筆者が後日接した若い世代は、少なくともグランデパンダのデザインに対しては肯定的だ。彼らによれば1980年の初代パンダを意識したそのスクエアなフォルムは、誇張された曲線的デザインが主流だった従来車からすると新鮮に映るという。その感覚は、近年イタリアの若者の間で人気の70-80年代グッズとも一致する。
70-80年代のモデルをモティーフとした新型車といえば「ルノー5 E-Techエレクトリック(120psで27,900ユーロ:約454万円から)がある。実は同車もグランデパンダも同一のデザイナーが関与している。その名はフランソワ・ルボワン。彼はルノーのアドバンスド・デザインスタジオの責任者として5 E-techエレクトリックのコンセプトカーを手掛けたのち、2021年5月ステランティスに移籍。フィアットのデザイン責任者に就任してグランデパンダ計画をまとめた。
フィアットによるとグランデパンダの納車開始はEV版こそ2025年4月だが、売れ筋となるであろうマイルドハイブリッド版は6月からの予定だ。イタリア生活で最大の年間イベントである夏休みにこのクルマでデビューしたい購入者は、間に合うかどうかちょっとソワソワするカレンダーかもしれない。

販売スタッフのフィリッポ・ニッコリーニ氏。彼の語りは動画でご覧いただこう。

デザインのみを見れば、若者層の70-80年代回帰志向にも波長が合う可能性は高い。

当日の来場者プレゼントは地元養蜂家によるハチミツという、ほのぼのとしたものだった。

シエナから大矢アキオ ロレンツォがお伝えしました。