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最終更新日:2025.02.03 公開日:2025.02.03

スバルのクルマは燃費がねぇ……はもう過去の話!? 初のストロングハイブリッド「S:HEV」搭載車を試す!【試乗レビュー】

新型「クロストレック」の燃費やいかに? スバル初のストロングハイブリッドシステム「S:HEV」搭載車をモータージャーナリストの渡辺敏史が試乗。東北の地でその実力を試した。

文=渡辺敏史

写真=SUBARU

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スバル初のストロングハイブリッド車として登場した新型「クロストレック S:HEV」

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スバル、環境性能向上の切り札「S:HEV」とは

スバルにとって燃費性能は長年の課題だ。それはひとえに、ブランドの価値を決定づけている水平対向エンジンが抱える宿命にある。

シリンダーを左右に等分し180度、つまり水平に配置する水平対向エンジンは、正対する両側のピストンがパンチを繰り出すような動きをみせることから「ボクサー」というニックネームで呼ばれることもある。

このエンジン型式を積極的に採っている量産車のメーカーといえば他にはポルシェくらいしかない。部品や製造にまつわるコストが余計にかかるためだが、代わりにメカニズムの重心が低く設定でき、運動性能や運転感覚にも一定の利がある。そしてスバルの場合は四駆が看板であるがゆえ、そのためのメカニズムを組み合わせやすいという一面もある。

が、エンジンを前輪付近に積むスバルの場合、その横幅が操舵時のタイヤの切れ角などに影響を与えるため、なるべく小さく抑える必要がある。言い換えればボクサーのリーチにあたる工程、すなわちピストンのストロークを長く採ることが難しくなるわけだ。燃料の撹拌や細粒の効率が高いロングストローク化は低燃費技術のトレンドでもあるため、そこに一定の制約が加わるスバルとしては、低燃費のための抜本的な改善技術として、喉から手が出るほど欲しかったのが、CMでも盛んに喧伝されているストロングハイブリッドの「S:HEV」というわけである。

エンジンはストロングハイブリッド用に開発した自然吸気の2.5リッター水平対向4気筒を搭載

発電用と駆動用の2つのモーターをトランスミッションに内蔵。バッテリーを荷室フロア下に格納することで重量バランスを最適化した

スバルは以前からマイルドハイブリッドとなる「e-BOXER」を展開していたが、こちらは既存のエンジンとミッションの間に小さなモーターを加えるシンプルなシステム構成ゆえ、燃費の伸びしろが小さかった。S:HEVは発電用と駆動用の2つのモーターを組み合わせることで、幅広い速度域での電動走行や駆動アシスト、効率的な減速エネルギーの回収などが可能となった。システムの基本骨格は提携先であるトヨタのFR車向けのハイブリッドシステムを活用しているが、エンジン型式も用途目的も異なるわけで、組み合わせるにあたっては当然ながら独自のエンジニアリングが隙間なく注がれている。

スバルにとっては環境性能向上の切り札ともなるS:HEVは、まずクロストレックに搭載された。が、最大市場の米国ではフォレスターへの搭載がアナウンスされているように、今後横展開が進むことは十分予想できる。ちなみにクロストレックS:HEVの燃費は日本のWLTCモード値で18.9km/Lと発表されている。先んじて販売されているe-BOXERの4WDグレードが15.8km/Lなので、数値的にはざっくり2割弱の向上ということになるわけだ。

「S:HEV」の実力を東北で試す

スバル クロストレック Premium S:HEV EX|SUBARU Crosstrek S:HEV EX

果たしてS:HEVの燃費やいかに。ということで、東北での雪上試乗の機会を使って、インスタントながら実用的な燃費値を実感してみようとドライブをスタートした。コースは青森市街と酸ヶ湯温泉との往復だが、アップダウンが大きいため参考値ということにはなる。

行程としては酸ヶ湯温泉へ向かう山岳路は無視し、高速道路と一般道のみで計測。比率としては高速7:一般道3くらいの割合で走ってみた。イメージ的には週末のドライブ旅行という感じの走り方だろうか。距離的には100kmに満たないので、返す返すも参考値ということになるが、著しくブレることもないとは思う。

その結果は車載計数値で18.1km/Lと、ほぼWLTC値に準ずるものだった。高速巡航では高低差の関係もあったのだろう、思ったほどは伸びず16km/L余という感じで推移し、期待外れかと心配になったが、時折渋滞にもはまる一般道に入るや、じわじわと燃費は伸びていき、最終的に18km/L台までもっていけたわけだ。電池残量も多少は影響するが、一般道でのモーター走行領域はそれこそトヨタのHEV車にほど近いくらいに採られているし、減速回収効率の高さもあり……と、街中走行では今までのスバルのクルマでは望めなかった効率を示していることが数字の伸びからも伝わってくる。

加えて、その動力性能はクロストレックにはちょっと贅沢かもと思うくらいにリッチだ。特に発進から低中速にかけては、大出力の駆動モーターのアシストもあって、アクセルの踏量に対して間髪入れず、ぐいっとレスポンスする。はからずも最速のクロストレックであることは間違いなく、だったら組み合わせるエンジンを2.5Lではなく2Lや1.6L
でも良かったのではないかという疑問も抱くわけだ。

担当エンジニア氏曰く、そこは日本の営業サイドにも猛反対されましたと前置きしつつ、主要な北米市場での積載量や牽引などのヘビーデューティな使われ方を考えると、2.5Lを基本とするべきだろうという結論に至ったという。確かにこの余力をもってすれば、フォレスターはもちろん、将来的にも様々なクルマに適応できるだろうという感はある。

一流×一流が生み出す新たな価値

インテリアは現行のクロストレックに準ずる。上位グレードの「Premium S:HEV EX」はフル液晶メーターを標準装備

加えて、S:HEVのこだわりのポイントは、従来通り機械式の四駆を継承しているということだ。電動化に伴って、四駆化は前後両側にモーターを配して担わせることで前後間の物理的なドライブシャフトを接続する必要がなくなるという考え方が趨勢となりつつある。確かにそれは物理的な接続がなくても成立できるメリットのひとつだし、BEVの世界ではそれが当然だ。

が、S:HEVは敢えて物理的な前後輪間の接続を残すことで、四輪がガッチリ噛み合って駆動しているという手応えをドライバーに伝えてくれている。それは雪が少なかった今回の試乗でも、残雪残る広場などでしっかり感じることが出来た。物理的接続がもたらすインフォメーションは、ドライバーにおいては運転の自信や安心に直結する。言い換えればこれはスバルのクルマにおいての他にはない、そして譲れない商品価値でもある。

ちなみにS:HEVはトヨタのTHSと同様、最大1500Wまで引き出せるAC電源ポートをオプションで装着することが可能だ。アウトドアレジャーやキャンプ等ではもちろん、万一の災害時を想定すれば、大きな電源が手元にあるという安心感も見過ごせない性能のひとつだろう。

スバルのクルマは燃費がねぇ……という方は少なからずいらっしゃると思うが、S:HEVについては相応の期待を寄せていいと思う。当のスバルのエンジニアも「うちのクルマで20km/Lいけるのが現れるなんて思いませんでした」と仰せになるほどだ。一流の燃費に一流の四駆技術がピタリと噛み合った、スバルにとっては悲願だっただろう、この商品力は侮れないと思う。

スバル クロストレック S:HEVの燃費はカタログ値で18.9km/L(WLTCモード)。今回の試乗では車載計数値で18.1km/Lと、ほぼWLTC値に準ずるものだった

SPECIFICATIONS
スバル クロストレック Premium S:HEV EX|SUBARU Crosstrek S:HEV EX
ボディサイズ:全長4480×全幅1800×全高1575mm
ホイールベース:2670mm
車両重量:1660kg
駆動方式:AWD
エンジン:2.5リッター水平対向4気筒
エンジン最高出力:118kW(160PS)/5600rpm
エンジン最大トルク:209Nm(21.3kgm)/4000-4400rpm
モーター最高出力:88kW(119.6PS)
モーター最大トルク:270Nm(27.5kgm)
トランスミッション:CVT(リニアトロニック)
燃費:18.9km/L(WLTCモード)
価格:405万3500円(税込)

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