日本とヨーロッパは1本の路線でつながっている? 東京にある国道の起点のひみつ。【川辺謙一の「道路の雑学」Vol.2】
交通技術ライター川辺謙一が語る「道路の雑学」。第2回は「日本国道路元標」を紹介しながら、ヨーロッパとの意外な関係に迫る。
ヨーロッパと道路でつながる東京の日本橋
東京の日本橋は、市街地を南北に貫くメインストリート(中央通り)にある橋です。周辺は三越や髙島屋といった百貨店がある商業地であり、ビルが建ち並ぶオフィス街でもあります。
日本橋は、日本の国道の起点であり、ヨーロッパに続くある道路の路線が通る場所でもあります。「日本は島国だから、東京とヨーロッパが道路でつながっているわけがない」と思う方もいるでしょうが、本当です。実際に日本橋の近くには、それを示す看板もあります。
そこで今回は、日本橋の起点としての歴史をふり返りながら、ヨーロッパに続く路線に迫ってみましょう。
400年以上起点であり続けた歴史
日本橋は、今から400年以上前に日本の陸路の中心的存在になりました。江戸時代に「五街道」と呼ばれる5つの主要街道(東海道・中山道・日光街道・奥州街道・甲州街道)の起点として定められたのが、その始まりです。
ここは、江戸時代に陸路と水路の結節点となり、栄えました。真下を流れる日本橋川は、海とつながる水路の1つだったため、当時は水運の大動脈として機能し、多くの船が行き交いました。それゆえ日本橋の周囲は全国から物資が集まる場所となり、商業地として発展したのです。
かつての日本橋は、木造の太鼓橋(半円状に反った橋)でした。そのレプリカは、東京都江戸東京博物館(現在大規模改修のため休館中)や羽田空港の第3(旧国際線)旅客ターミナルビルで見ることができます。どちらも19世紀前半の日本橋をモデルにしてつくられました。
明治時代には、日本橋は石造のアーチ橋になり、東京市(現在の東京都23区に相当)の道路の起点ともなりました。
中央分離帯にある「日本国道路元標」
現在の日本橋は、国道1号をふくむ7つの国道の起点であり、そのことを示す「日本国道路元標」があります。これは、国道の起点を示す50cm四方のプレートで、1972(昭和47)年に設置されました。
その実物は、歩道から離れた中央分離帯にあるため、直接見ることはむずかしいです。ただし、日本橋の北側にはそのレプリカがあり、間近で見ることができます。このレプリカの横にある「里程標(りていひょう)」には、国内の主要都市までの距離が記されており、それを見ることで、ここが日本の国道ネットワークの起点になっていることが実感できます。
首都高速道路にもある目印
首都高速道路(以下、首都高)には、真下に「日本国道路元標」があることを示す目印として装飾を凝らした柱があります。この柱は、ちょうど「日本国道路元標」の真上にあり、日本橋の真上を通る都心環状線の2本の高架橋の間に立っています。
この柱のすぐ東側には、「日本橋道路元標」と書かれた看板が立っています。その名前は、「日本国道路元標」という正式名称とは異なります。おそらく、ここが日本橋の真上であることをドライバーにわかりやすく示すため、そう記したのでしょう。
「日本橋道路元標」の看板の真下には、「AH1」と書かれた看板があります。この「AH1」は、アジアハイウェイ(ASIAN HIGHWAY)1号線の略称です。
ヨーロッパに続く路線
アジアハイウェイは、アジアの32カ国を横断する国際幹線道路網です。アジア諸国全体の平和的発展を目的として、国際連合アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)が中心になって推進されています。
アジアハイウェイ1号線は、アジアハイウェイで唯一日本を通る路線で、東京からトルコのカピクレ(トルコとブルガリアの国境)までの約21,000km(国土交通省資料より)を結んでいます。また、トルコ国内の区間は、ヨーロッパに広がる欧州自動車道路網(International E-road network)のE80号線と重なっています。
この路線は、国内では東京から福岡までを高速道路経由で結んでいます。福岡から先は、フェリーを介して韓国の釜山(プサン)の道路とつながっています。
なお、国土交通省の資料には、アジアハイウェイ1号線の起点が東京のどこであるかは明記されていません。ただし、同省ウェブサイトの「アジアハイウェイ標識の設置場所」には、「首都高拡大図」が載っています。これには、日本橋のすぐ東側にあった江戸橋出入口(2021年廃止)から東名高速道路の東京インターチェンジを結ぶルートが記されているので、日本橋がその一部になっていることがわかります。以上のことから、「日本橋はアジアハイウェイ1号線を通じてヨーロッパとつながっている」と言えます。
なお、現在日本橋付近では、首都高の地下化工事が進められています。その地下化が実現したら、「AH1」の看板がトンネル内部に移るかもしれませんね。
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