道路はおもしろい! 暮らしを支えるインフラの技術や歴史を楽しもう。【川辺謙一の「道路の雑学」Vol.1】
交通技術ライター川辺謙一が「道路の雑学」を語る新連載を開始。第1回では「道路を知る3つのメリット」を述べながら、道路のおもしろさに迫る。
道路を知る3つのメリット
この連載記事のテーマは、ずばり「道路」です。これからは、知っているとちょっと楽しくなるような道路の話をピックアップして紹介します。
こう書くと、「道路? いったい何が面白いの?」と感じる方がいるでしょう。それは、当然のことです。なぜならば、多くの人たちにとって道路はあまりにもありふれた存在であり、とくに面白さを感じるものではないからです。
しかし、見方を変えて道路のことを知ると、おもに次に示す3つのメリットがあり、世の中の見方が変わって面白いと私は考えています。
- 都市や国土がわかる
- 歴史がわかる
- 機能がわかる
それぞれ説明しましょう。
1. 都市や国土がわかる
道路を知ると、都市や国土がわかります。なぜならば、わたしたちの身体では骨格がそれを支える重要な役割をしているように、都市や国土では道路がそれらの骨格として機能しているからです。
その点、東京という都市や、日本という国は、骨格となる道路網が未完成です。
東京は、首都圏という世界最多の人口を誇る都市圏の中心都市です。ところが東京都では、都市計画に基づいて計画された道路(都市計画道路)の約6割しか完成していません。言い換えれば、一般道路で不足する交通処理能力を首都高速道路(首都高)や鉄道で補って成り立っているという、ちょっとめずらしい都市なのです。
いっぽう日本は、道路網が未完成の国です。鉄道の建設は、現在建設中の北海道新幹線や中央新幹線を除いてほぼ一段落しているのに対して、道路の建設は、新東名高速道路をふくめて現在も全国各地で着々と進められています。
つまり、道路を知ると、この国で進められている都市や国土の計画が見えてくるのです。
2. 歴史がわかる
道路を知ると、歴史がわかります。そのことは、ヨーロッパと日本の車両交通や舗装道路の歴史をくらべるとよくわかります。
ヨーロッパでは、早期に馬車による車両交通が発達したため、車両がスムーズに通行できる舗装道路が整備されてきました。いっぽう日本では、幕府が防衛を重視して街道での車両の使用を禁じたため、長らく車両交通が発達しませんでした。
このため日本では、明治時代になって急に国家の近代化を図る必要に迫られました。そこで明治政府は、輸送効率が高い鉄道の整備を優先し、道路の整備を後回しにしました。
日本では、第二次世界大戦後に自動車の保有台数が急増したものの、それが満足して走れる舗装道路があまりありませんでした。そこで当時の政府は、1950年代に道路の整備に本腰を入れ、ようやく国内初の高速道路の建設に着手しました。国内の旅客・貨物輸送のシェアにおいて自動車が鉄道を抜いたのは、1970年代です。
先ほど「日本は道路網が未完成の国」と言いましたが、その理由がこれです。つまり、ヨーロッパとくらべると、道路網を本格的に整備するタイミングが遅れ、渋滞などの交通問題がまだ解消されていないので、道路網が今も延び続けているのです。
3. 機能がわかる
道路を知ると、その機能がわかります。道路は、人や物が移動するための「通路」であるだけでなく、それ以外のさまざまな役割を担っています。
道路は、わたしたちの暮らしに欠かせない電力・水道・ガス・通信などのライフラインの「通り道」でもあります。近年は都市を中心に電柱の地下化が進んでおり、そのことに気づきにくくなっていますが、道路の地下では多くのライフラインのケーブルやパイプが埋まっています。
また、道路は、防災において重要な役割を果たします。地震などの災害が発生したときには、救急車や物資輸送車両などが走る緊急搬送路になりますし、火災が発生したときは、火が建物から別の建物へと燃え広がる「延焼」を防ぎます。建物が密集する都市で幅が広い道路が必要とされるのは、このためです。
暮らしを支えるインフラで楽しもう
以上の3つの話から、道路を知るメリットを感じていただけたでしょうか? そう、道路は身近な存在でありながら、わたしたちの生活を支える縁の下の力持ちのようなインフラストラクチャー(通称・インフラ)であり、一般にはあまり知られていない歴史や技術が詰まった存在なのです。
この連載では、以上の話を踏まえて、道路を楽しむための雑学を紹介します。道路を起点にして、見る世界が変わる面白さを感じていただけたら幸いです。
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