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最終更新日:2024.09.06 公開日:2024.09.04

『イタリア発 大矢アキオ ロレンツォの今日もクルマでアンディアーモ!』第52回【Movie】──盗んだパンダで走り出す!? 初代フィアット・パンダが若者に愛される理由。

なぜ初代フィアット・パンダが若者たちの間で人気に? イタリア・シエナ在住の人気コラムニスト、大矢アキオ ロレンツォの連載企画の第52回は、世代を超えて巻き起こる新たな自動車カルチャーに大注目!

文=大矢アキオ ロレンツォ(Akio Lorenzo OYA)

写真=大矢麻里 (Mari OYA)

2024年6月、パンディーノ村のパンダ祭で。コモから「フィアット・パンダ4✕4シスレー」でやって来たマヌエル君(右から2人目)と仲間たち。

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きっかけは「自撮りブーム」

近年イタリアでは、あるフィアット・パンダの大ミーティングが愛好家の間でお約束イベントになりつつある。その名もパンディーノという村を舞台にしたジャンボリーだ。正しくは「Panda a Pandino(パンディーノのパンダ)」という。メーカーの企画ではない純粋なファンイベントで、2017年にスタートした。

パンディーノ村は、イタリア北部クレモナ県にある人口約9千人の自治体である。歴史上最初の村名が出てくるのは遠く1144年で、Bandoというゲルマン系の人名が変化したものとされている。すなわち、フィアット・パンダとは関係ない。

なぜ韻を踏んだような企画が始まったのか? 発起人のひとり、アレッサンドロ・バイオッキさんは説明する。

「イタリアではフィアット・パンダの愛称として、縮小語尾-inoをつけてPandino(可愛いパンダ)と呼ぶのが、もはや一般的です。加えて近年、“PANDINO”と記された村の入口の標識の前で、愛車のパンダと記念撮影するのが流行ったのが、開催のきっかけになったのです」

パンディーノ村の境界を示す標識。これを入れて愛車写真を撮るのが、パンダ・ファンの間で流行していたという。

当初1日イベントとして始まったが、年を追うごとに盛大となり、周辺町村のホテルや民宿は年明けから予約で満室になるのが通例となった。村興しにもひと役買っているのだ。

発起人のひとり、アレッサンドロ・バイオッキさん(右)と、広報担当のウィリアム・ジョナサンさん(左)。

2024年大会は6月21日から23日まで3日間にわたり開催された。台数は過去最多だった前年の1051台を上回ることこそできなかったが、1031台もの歴代パンダが集結した。

主会場であるパンディーノ城前は、パンダ用アクセサリーやチューナーのショップ、そしてクラブの特設ブースに充てられた。

屋台は食べ物・飲み物・デザートとも豊富。おかげで参加者は食事片手に、夜遅くまでパンダ談義を楽しむことができた。

参加者はさまざまな形で、パンダ愛を表現していた。

「親世代のクルマに乗る」新カルチャー

初代パンダ・オーナーで目立ったのは、その生産年(1980-2003年)と対照的に、若者が少なくなかったことである。彼らと話していてわかった理由をまとめると、以下の3つだ。

2日目、パレードのスタートとなったショッピングモールの駐車場で。

1. 価格が手頃。ときには爆安も
本稿を執筆している2024年8月現在、欧州の主要中古車検索サイト「オートスカウト24」で初代パンダを検索すると、イタリア国内だけでも400件近い出品が即座に見つかった。状態さえ問わなければ1000ユーロ(約16万円)以下の個体も複数ある。

個人出品では、10ユーロ(約1600円)という、無料同然の売り物まである。排ガス規制が強化されているイタリアでは近年、初代パンダが進入できない都市が少なくない。だが、郊外での使用ならまったく問題ない。

マルコ・ルッソさんの愛車は、かつてスイスで郵便車として用いられていた個体。中古車市場で品薄の初代4✕4仕様だが、価格は4200ユーロ(約67万円)だったという。

2. 白のキャンバス感覚
初代パンダはコンパクトかつ、シンプルな内外装ゆえ、改造やいわゆるステッカー・チューンがしやすい。内装材がほとんど無いのでアクセサリー用の配線もきわめて容易だ。まさに白いキャンバスを与えられた画家の感覚に近いのである。

オランダからアルプスを越えてCVT仕様「パンダ・セレクタ」で参加したサイモンさんと彼の妹、そして父親。柄は80年代イタリアにおける有名なデザイン集団「メンフィス」のものをモティーフにしている。

3. 80’sの香り
イタリアでも昨今、1980年代の風物が若者たちの間で人気だ。カセットテープ、フィルム式カメラ、そして初期のテレビゲームといった中古アイテム市場の活況がそれを表している。初代パンダの直線的デザインも、若者にとっては当時を彷彿とさせるに十分なのである。2024年7月に発表された新型車「グランデパンダ」が、初代のデザイン記号を再解釈していることからも、その傾向が窺える。

ある参加車の窓に貼られた漫画風イラスト。吹き出しに記された「Se non ci fosse, bisognerebbe inventarla(もしなければ、発明しなくちゃ)」は、初代パンダの広告キャッチ。

面白いのは、動画に登場するマヌエルさんのように、「以前、家族が乗っていたのに憧れて」という人や、家族に譲渡してもらったという若者にたびたび出会ったことだ。同じく動画の中のジョヴァンニさんは「親のクルマを“盗んで”」とコミカルに表現した。

これまでは、とかく前の世代が乗っていたタイプのクルマは避けられていたものだ。実際、セダンからハッチバックへ、そしてSUVへといった流行の変化は、そうした嗜好から生まれたものだった。対して、若者による初代パンダ人気は、親世代が乗っていたクルマへの憧れが原動力となっている。新たな自動車文化が生まれつつあることを、ひしひしと感じさせるのだ。

2025年のパンディーノ村には、どのように個性的な車両が、どのようなパンダ愛溢れる若者によって持ち込まれるか、今から楽しみである。

「母親が乗っていたのを“盗み”ました」と言うジョヴァンニさん(最前列左)と仲間たち。

フィナーレの表彰式で。

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