なぜトヨタは“仮眠用”のシートを開発? クラウン・セダンより気になった「TOTONE」とは。【人とくるまのテクノロジー展2024】
「人とくるまのテクノロジー展2024(通称:人テク展)」が5月22~24日の3日間にかけてパシフィコ横浜で開催された。国産自動車メーカーは何を展示していたのか? 今回はスズキ、スバル、トヨタの3ブースをまとめて紹介する。
5月22~24日にかけパシフィコ横浜で開催された「人とくるまのテクノロジー展2024」。今年の来場者数は3日間でのべ7万5,972名で、昨年の6万3,810名を大きく上回った。このイベントには国産自動車メーカーも出展しており、モビリティショーやオートサロンと比べるとこぢんまりとしているものの、そのぶんメーカーの主張もシンプルでわかりやすい側面がある。
しかしBtoB向けの自動車技術展というだけあって開催は平日のみ。一般の方は訪れにくいかもしれない。そこで今回は自動車メーカーのうち、スズキ、スバル、トヨタのブースの中から注目すべきポイントをコンパクトにまとめた。現地の雰囲気が少しでも伝われば幸いだ。
【スズキ】2030年に向けた成長戦略とは?
顧客の立場になった価値ある製品づくりをモットーとするスズキ。2030年に向けて、机上の空論を排した「現場・現物・現実」の三現主義で行動し、成長戦略を進めるという。
スズキのブースでは「ワゴンR CBG(圧縮バイオメタンガス)車」、「水素エンジンBURGMAN(バーグマン)」、「MOQBA(モクバ)」の計3台の車両を展示していた。ワゴンR CBG車は、インドで飼育されている牛の糞尿を利用したバイオガス燃料で走行するクルマだ。CBGはいま注目のエネルギーのひとつで、牛10頭における1日あたりの牛糞は、クルマ1台の1日分の燃料に匹敵するといわれる。現地スズキ法人では今後、充填スタンドを併設したバイオガス生産プラントをインド国内に設置し、スズキが7割以上のシェアを有するCNG(圧縮天然ガス)車の燃料として販売する計画だ。
水素エンジンBURGMANは、保存・運搬のしやすさと燃焼時にCO2を排出しない水素を燃料とした二輪車で、カーボンニュートラルに向けたスズキの取り組みのひとつ。いっぽう“ワクワクする商品と技術の取り組み”として、階段も段差もシームレスに移動できる次世代四脚モビリティ「MOQBA」も参考出品していた。
【スバル】アイサイトXで目指せ事故ゼロ!
続いてスバルのブース。展示車両は「LEVORG LAYBACK(レヴォーグ レイバック)」のみという潔い構成だった。3つのカメラとレーダーを標準搭載したレヴォーグ レイバックは、障害物を認識してブレーキ制御を自動で行う最新のアイサイト「アイサイトX」を搭載し、安心・安全をアピール。2030年死亡交通事故ゼロの実現に向けた取り組みを継続していく。
筆者としては“事故ゼロ目標”など到底無理だろうと思ってしまうのだが、2014~2018年におけるアイサイト搭載車(Ver.3)では、追突事故発生率はなんと0.06%だったというから驚きだ。また5月28日には、同社のクロストレックとインプレッサが2023度の自動車安全性能でファイブスター大賞を受賞しており、アイサイトへの注目度と信頼度はさらに上昇するに違いない。スバルなら本当に事故ゼロを実現してくれるかもしれない。
スバルのブースでは他にも、航空機の製作工程で発生した端材を用いて、スーパー耐久ST-Qに参戦したBRZのボンネットフードを製作するなど、再生カーボン材を活用する取り組みについて展示していた。
【トヨタ】クラウン・セダンよりも気になる!? 謎の仮眠用シートとは
トヨタのブースは他のメーカーよりも広く(地図上ではトヨタ、日産、ホンダのブース面積がほぼ同じ)、展示車両は「クラウン」のカットモデルと、中央のパネル裏には仮眠用シートと廃車リサイクルへの取り組みに関する展示があった。
生まれ変わった16代目の新型クラウンはクロスオーバー、スポーツ、セダン、エステートの4タイプを展開。会場には、セダンのHEV(ハイブリッド車)と、パワートレインが異なるFCEV(燃料電池車)の2台が並べて展示されていた。HEVとFCEVはプラットフォームが全く同じというだけあって、カットモデルの違いを見比べる人が大勢いた。
クラウン初のFCEVは1回3分程度の充填で約820kmの走行が可能だ。水素ステーションがまだまだ足りていないというのが実情だが、トヨタが誇る人気モデルがインフラの充実と水素社会実現にどう影響していくのか、注目しておきたい。
この他、トヨタのブースで異彩を放っていたのが仮眠ボックス「TOTONE(トトネ)」の存在だ。TOTONEはトヨタが将来の自動運転を見越して開発し、15~30分程度の短時間睡眠による脳の疲労回復を目的としたシートだ。トヨタがアンケート調査を通して、“自動運転が実装されたら、車内でどう過ごしたい?”という質問に対し、回答者からの“寝て過ごしたい”という意見が多かったことから製品化の着想を得たという。
せっかくなので、実際にどのように動作するのか確認してみた。まずシートに座り、アプリで睡眠時間を設定。手動でカーテンを閉めて睡眠モードを開始すると、リクライニングシートが絶妙に沈み込み、体圧が分散されていくのを実感する。同時にシートに内蔵されたヒーターによってシート全体がじんわりと温まり、入眠へ誘う仕組みだ。
起床時間になると、両耳付近に搭載されたスピーカーから癒しのBGMが流れ、ほんのりと照明が点灯。シートに搭載されたエアクッションが背中と腰をゆっくりと押し出し、背伸びしたときのような心地良い感覚を与えてくれた。
TOTONEは基本的にオフィスでの使用が想定されている。15~30分という仮眠時間も、昼食後や集中力が下がったタイミングを意識したものだという。筆者もランチ後はいつも睡魔に襲われるので、当編集部でもぜひ導入してほしいところだ。なおTOTONEは現時点では購入はできず、リース契約のみの対応で、5年間契約の場合は月額4万7,300円(税込み)だ。
トヨタブースでは他にも自動車の製造工程や廃車から出た端材を再利用した取り組みも展示していたが、個人的には突如現れた仮眠用シートが印象的だった。
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