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ライフスタイル最終更新日:2024.03.19 公開日:2024.03.14

【フリフリ人生相談】第430話「地球環境のこれから」

登場人物たちは、いいかげんな人間ばかり。そんな彼らに、仕事のこと人生のこと、愛のこと恋のこと、あれこれ相談してみる『フリフリ人生相談』。人生の達人じゃない彼らの回答は、馬鹿馬鹿しい意見ばかりかもしれません。でも、間違いなく、未来がちょっぴり明るく思えてくる。さて、今回のお悩みは?「地球環境のこれからが心配です」。答えるのは、UFOで宇宙人と飛びまわる男、天空です。

ストーリーテラー=松尾伸彌

画=Ayano

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グレタさん、とか

今回のお悩みは、もはや人類共通の大問題について、です。
そう、環境問題。
26歳男性からのお便りです。

「これからの地球環境について心配しています。私ひとりが心配したところでどうなるものでもないかもしれませんが、異常気象、たび重なる天変地異、など、人類の手に負えない危機が迫っている気がして、不安になります。
解決策なんてないのかもしれません。でも、なにかしらの気構えみたいなものが大切だとも思います。いい知恵がありましたら教えてください」

ほんとに、この若者の言うとおりですよね。ひとりの力なんて限りがあるし、悩んでもラチが明かないのはわかっている。けれど、どうにかしないと、と、あせる気持ちも湧き起こる。できることからコツコツと……なんて言ってる間に、引き返せないほどの事態になってしまっているのではないか……。

さて、どうすればいいのでしょうか。

あまりにも問題は大きすぎるのかも知れませんが、26歳男性からのお悩み相談に答えるというささやかなミッションと考えて、気持ちを落ち着けつつ、天空のところに行ってみました。UFOに乗って、宇宙人とドライブするみたいに宇宙を飛びまわっている、なんて豪語するペテン師・天空です。地球環境の大問題を語り合うには、案外、ふさわしい人物かもしれません。

「わはは、ようやく、来たな」
と、いつものようにソファにからだを沈めて、呑気に缶ビールを飲みつつ、天空は愛想よく笑っています。

「ようやく……?」
怪訝な顔つきの私に、天空は冷えた缶ビールを差し出してくれます。
「恋愛とか不倫なんて悩みもいいけど、やっぱり、こういうビッグな地球規模のお悩みこそ、私が答えるのにふさわしい、なんちゃって」
「天空さん、酔ってます?」
「いやいや、大丈夫だよ」
「そうですか。だったら……地球環境問題、さて、天空さんなら、どう解決します?」
「…………」
天空はにやりと笑って缶ビールを傾けて、ゆっくりと笑うと、大きくうなずきました。

「おれにわかるわけ、ないだろ」
「へ?」
「そんな大問題、どうして、おれに解決できるのさ」
「できるのさって……」
「解決できる人間なんて、いない気がするけどね」
「いや、でもいま、ビッグな地球規模のお悩みこそ、私が答えるのにふさわしい、なんて偉そうなこと言ったじゃないですか」
「うんうん。答えることはできるけど、解決なんて、無理っしょ?」
「…………」

呆れるしかない私を見つめて、天空は腹立つくらい穏やかに笑います。

「グレタさんっているじゃん。グレタ・トゥーンベリ、だっけ?」
「スウェーデンの環境活動家ですね、二十歳くらいの女の子ですよね」
「うん、あの子って、聞くところによると、8歳のころに、気候変動問題に対策が行われてないことに落ちこんじゃったらしいね」
「そうなんですか? 子どものときから環境意識が高かった……」
「意識が高いっていうより、どんよりしちゃったわけだよね。8歳なんだから、そもそも理屈じゃないよ。まるで種としての本能みたいなものさ……」
「本能?」
「そこにヒントがある気がするんだよね。人類は、明らかに、環境問題を前にして精神的に参ってるわけだよ」
「…………」
「これは、意外に大切なことでさ。大いなる示唆だと思うんだよ」
「大いなる示唆?」

私は思わず唇を曲げていました。ニヤリって感じです。

「出ましたね。天空節」
「なんだよ、それ」
「大いなる示唆……そこから宇宙の話にいくんでしょ」
「…………」
「コスモス・パワーが教える、大いなる示唆……」

私が冗談めかして言うと、天空は不愉快そうに首をひねったのでした。

宇宙人の視点

「冗談じゃなくさ」
と、天空は驚くほどかたい顔で言います。

「今回の26歳の男にしたってさ、地球環境について心配してます、人類の手に負えない危機が迫っている気がして不安ですって言うんだろ……それだよ、わかる? 若い人たちはさ、環境問題を考えると怯えて、不安になって、精神的に参るくらいになってるわけだよ」
「…………」
「グレタさんはその先駆者なんだと思うんだけどさ、それが現代の、人類の自然な反応なんだよ。逆に、タチの悪いのは、古い世代っていうか、石油燃やしてゴミを捨てて平気な顔できるやつ。環境問題なんてフェイクだとかデマだとかふつうに言うやつ……それはもはや、罪深い精神構造なんだよ」
「…………」
「わかる?」
「うーん、どうなんだろう。わかりますよ、天空さんの言ってることは。でも、そうやって怯えることで、この地球はどうにかなりますかね。救われますか? もっと根本的な解決策があるんじゃないかと思うんですけどね」
「たとえば、なにさ……」
「うーん、たとえば……」

私は少し迷ってから、ぼんやりと考えていることを口にしてみました。

「たとえば、ですけど、環境によくないいろんなものを、ロケットに積んで太陽に向かって発射する、とか」
「…………」
「ダメですかね。ゴミはもちろん、二酸化炭素とか、なんなら核廃棄物とか。ロケットで太陽まで運んじゃうんですよ」
「…………」

天空はぼんやりと顔を引きつらせて、それでも精一杯の表情で言いました。

「太陽をゴミ焼却炉にしちゃおう大作戦……」
「うーん、まぁ、そういうことですかね」
「それって、地球から発射するときに爆発して大失敗ってことになると、笑えないね?」
「あ、ああ、そ、そうですね」
発射台あたりで爆発して、ゴミやら核廃棄物が散乱する様子を思い浮かべて、私は力なく首を振るしかありません。

そんな私を笑いながら見つめて、天空は缶ビールを豪快に傾けてから、プハっと息を吐きました。
「グレタさんに聞いてみなよ」
「は? なにをです?」
「その、地球のゴミや核廃棄物を全部まとめて太陽に打ちこむってアイデアさ」
「グレタさんに?」
「そう。どう思いますかって……もしかすると、バカウケして友だちになれるかもしれないし……もしくは、蹴り倒される」
「馬鹿にしてます?」
「グレタさんを?」
「いや、ぼくを」
「どうかな。壮大な計画は悪くないかもしれないけど、人類にはまだその科学的な技術がないんじゃない? と言うか、そもそも、掃除するより、ゴミ出すなってほうが大切だよね」
「そう、ですよね」

私が視線を落とすと、天空はまるで慰めるような口調でやさしい声をあげたのです。

「とにかく、まずは、もっともっと、みんなが怯えればいいと思うんだよ。この26歳みたいに、危機を感じて不安になって、夜も眠れない、精神的に不調を感じるって人が増えるべきだと思うし、間違いなく、増えていくんだと思う」
「それが解決につながりますか」
「グレタさんみたいな感覚が、進化の先取りなんだよ。人類の進化の方向性を示してるんだよ、きっと」
「…………」

私はビールを舐めるように口にしながら、天空の言う言葉の意味を考えていました。

環境問題。不安。グレタ・トゥーンベリ。進化。

「なにもしないってことではなく……」
と、考えがまとまらないまま、私はつぶやくように天空を見つめました。

天空は笑うでもなく、言いました。

「なにもしないんじゃなくて……環境によくないことを、身体とか精神が受けつけなくなるんじゃないかと思うんだよね。無理してるんじゃなくて、そうでないと生きていけないってことに、人類は気づくっていうか、さ」

この星を、よろしく

「宇宙人なら」
と、私はぽつりと投げ出すように言いました。

「天空さんのお友だちの宇宙人なら、この問題、どう考えますかね」
「どういう意味?」
「だから、天空さんはUFOに乗って宇宙人とあちこち飛びまわってるんでしょ」
「…………」
「その宇宙人たちが、地球を眺めて、どう思うのかなぁって……」
「少なくとも……」

天空は、まるで本気で宇宙人のことを思い出しているような顔つきをしました。

「どこかの誰かひとりに解決を任せようとはしないだろうな。そんな人間、いないからね」
「アメリカ大統領ってことは、ないですもんね」
「ないね。国連でもないし、イギリスでもフランスでも、もちろん日本でもない。ビル・ゲイツでもないし、イーロン・マスクでもない。人類以外の、イルカとかクジラかって言うと、ちょっと違う」
「…………」

私は、天空の言葉に寄り添うように、ぼんやりと、宇宙船から地球を眺めているような気持ちになっていました。

そういう私を前にして、天空は、静かに言いました。

「とにかく、地球に住んでいる生命たちに向かって、声をかけるしかないと思うね」
「…………」
「この星を、よろしく」

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