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【フリフリ人生相談】第425話「シニアの正義感」

登場人物たちは、いいかげんな人間ばかり。そんな彼らに、仕事のこと人生のこと、愛のこと恋のこと、あれこれ相談してみる『フリフリ人生相談』。人生の達人じゃない彼らの回答は、馬鹿馬鹿しい意見ばかりかもしれません。でも、間違いなく、未来がちょっぴり明るく思えてくる。さて、今回のお悩みは?「バイト先でのシニアの正義感」。答えるのは、シニアなペテン師、天空です。

ストーリーテラー=松尾伸彌

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画=Ayano

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シニアの正義感?

今回は、60代男性からのお悩みです。

「定年を過ぎて数年たち、最近、コンビニでアルバイトをはじめました。こんな年齢でもやさしく迎えてくれて、楽しく仕事をしています。
が、ひとつ問題が。
アルバイト先に常勤スタッフでチーフのような人がいます。年齢は私より20歳くらい下。あれこれと指導してくれるのですが、その態度がものすごく偉そうで高圧的なのです。とくに外国人のバイトたちに接する態度が横暴このうえなく、ちょっと見るに堪えない感じです。
先日、目の前で、あまりにひどく外国人アルバイトを怒鳴るので、つい見かねて『やめなさい!』と私も大きな声を出してしまいました。『なんだと?』という感じで睨みつけてくるので『そういうのはハラスメントですよ、やめたほうがいい』と言ってしまいました。落ち着いて諭したつもりなのですが、声がうわずっていました。
彼は気分を害したようなのですが、その場では大きな騒動になりませんでした。私のほうが正しいのだと確信しつつ、常勤スタッフかつ指導者的な人物を怒鳴りつけてしまい、少しばかり気が滅入っています。
後日談としては、その後、そのスタッフとは顔を合わせないシフトになったので、ひと安心なのかもしれません」

職場で理不尽な出来事を目にして黙っていられませんでした、ということですね。いいんじゃないですかねぇ、と、賛同したい気もしますが、ひとつ間違うと逆上されたり、いらぬ恨みを買ったり……みたいなこともふつうに起こる昨今です。

なかなか悩ましいなぁと思いながら、今回は天空に相談することにしました。世代としてはこの相談者と同じです。もちろん、私もそっち側。
というわけで、もしかすると、おじさんの雑談になっちゃうかも、なのですが、とにかく天空の事務所がある恵比寿に向かいました。

「シニアの嘆きってやつかもしれませんけど」
などと、言いわけのように苦笑して、天空にお悩みを読んでもらいました。

いつものように缶ビールを飲みつつ、ゆったりとソファに身を沈めて、天空は顔をあげ、肩をすくめました。

「これって……お悩みじゃあ、ないよね」
「まぁ、そうかもしれません。でも、なんか、ひとごとじゃない気もするんですよ。街なかで、ちょっとした理不尽に遭遇して、黙っていられないってこと、あるじゃないですか」
「…………」
「でも、へんに関わりあって、殴られたりとか、みょうな騒動にまきこまれたりとか、ありそうで怖い気もしますしね」
「ははは」
天空は声をあげて笑います。

「わかるよ。そういうとき、おれってわりとガンガン参加しちゃうタイプなんだよね……昔からだけど」
「天空さんの場合、そもそも見た目が怖そうだから、いいんですよ」
私も笑うしかありません。なにしろ天空の本業は土建屋の社長で、見た目はロマンス歌謡のおじさんなのです。こんな人が入ってきたら、どんな騒動だっていったんおさまるのは間違いありません。

「でも、ぼくみたいに、見た目が弱っちいのに、ついつい口をはさみたくなるタイプが問題なんですよ。よせばいいのに、つい出てしまう関西人の正義感、みたいな……」
「いいんじゃないの?」
天空は実におかしそうに言います。
「出ちゃうものは、仕方ないよ」
「人のことをオデキみたいに……」
「イボ痔とかさ」

会話がやはり、ただのおっさんの雑談になってます。

お天道様が見ているぜ

「昔からさ」
と、天空はどこか冗談でも言いそうな顔つきのまま、ビールを飲んでから言いました。
「お天道様が見ているぜって、言うよね」
「小学校のときの訓示みたいな」
「いまはそういうこと言わないのかもね。そもそも、漢字で天の道に様って書いてオテントサマって読めないかもしれないし……オテントサマが太陽のことだっていうのも、わからないかも」
「そうかもしれません」
「でもさ、そういうことだって思うんだよね」
「そういうこと?」
「だから、お天道様が見てるっていう……そういう人生観っていうかさ、誰も見てないところでの正義感のありようっていうかさ……」
「…………」
「そういうのって、ついつい、忘れがちじゃない?」
天空は、いつの間にかまじめな目つきになって、ビール缶を手にテーブルのすみっこを見つめています。

「えーと、いまいち、話が見えてこないんですけど」
私は正直に、首をかしげるしかありません。

「いや、だからさ……シニアの正義感問題だろ……ちょっとした若者が理不尽なことをやってるのに遭遇すると、つい、声をあげちゃいがちなわけだよ、これくらいの年齢になるとさ。でも、それって、いまの時代、逆恨みされたり、いきなり殴りかかられたり、ややこしいことになっちゃうんじゃないかってことだよね」
「そう……ですね」
シニア限定の問題ではない気もしつつ、結局のところ、正義感をふりかざすとロクな目に逢わないかもしれない、さてどうする? ってこと……なのでしょうかね。

「そういうときの精神状態はさ、いつの間にか、自分がお天道様になっちゃってるわけだよ」
「は?」
「気分がさ……。目の前で理不尽なことが起こった、とか、若いやつがちょっと許しがたい態度に出た、とか、それを見ていて、ついつい熱い気持ちになってアクションを起こしちゃいました、と。それはつまり、こちらの正義をふりかざしてるわけだよ」
「…………」
「おれが天に代わって制裁を加えてやる、と」
「そ、そうなのかな?」

天空の話はどこかずれた線路を走っている気がして、私は自分の頭のなかを探るように言葉を探します。
「そんな大それた気持ちはなくて、つい、理不尽なところを指摘しましたってくらいじゃないですか」
「でも、問題は、逆恨みされたらどうしよう、相手がへんなやつで殴りかかってきたらどうしようってことだよね」
「まぁ……それはそうかも」
「だからさ、お天道様が見ているぜ、なんだよ」
「…………」
「天がお前を見ているんだぞってこと。ほかに誰もいなくても、しっかり見られているんだぞ、と。だから、たまたま松尾さんがその場にいたとしても、知らん顔するのがいいってことなんだよ。ほんとはさ。制裁を加えるのは、松尾さんでもないしおれでもないし、警察でもないし裁判所でもない、そういう価値観だよね。だから、天に代わってお仕置きよっていうのは、なし、なんだなぁ」
「…………」

宇宙人、ではなく

「定年過ぎてコンビニでバイトをはじめたおじさんがさ、理不尽な先輩スタッフの態度につい声をあげてしまったわけだよね。それはそれで仕方ないって、おれは思うよ、ぶっちゃけ言っちゃうとさ。出ちゃうんだから、正義感が。そのあげく、たとえば、相手がすごくへんなやつで、いきなり殴りかかってきて、ついよろけて机の角に頭ぶつけて死んじゃう、なんてこともあるわけじゃない? それもまた人生だって思うしかないよね。なにしろ、こっちは人生残り少ないんだから、好きにやればいいんだよ」
「…………」
「でも、もうひとつのかしこいヤリクチはさ、理不尽で腹の立つ、先輩風ふかした若造を眺めながら、お天道様が見ているぜってココロのなかで噛みしめて、黙ってやりすごすことなんだよね。そういう哲学こそが正しい……と、昔の人は言ったんじゃないかと思うわけだよね」
「…………」

なるほど。

今回のお悩みの根っこのところを「シニアの正義感をどうする?」という問題だと理解しつつ、いまの時代、正義感の発露はややこしい結末になるかもしれないという恐れもあるわけです。
そしてまた、人生経験が長いゆえに「出しゃばったマネをしたかもしれない」とちょっぴり後悔する、なんてこともある。
だからこそ、「お天道様が見ているぞ」という達観した哲学で「あえて黙る」というのも手かもしれない、とまぁ、天空はそういうふうに言いたいのでしょう。

「なにしろさぁ」
と、言って、天空はビールの缶を大きくあおって、ごくりとのどを鳴らしました。

「いまどきは、ネットで正義をふりかざす人間が増えてるじゃない。お天道様が見ているぜ、なんて、誰も思ってないわけだよ。自分が太陽だし神だし仏になったつもりになって制裁を加えてるんだよね。それこそ……」
と、天空はおかしそうに唇を曲げて、言いました。

「それこそ、お天道様が見ているぜ、って思うんだけどな」

なぜだか気持ちよさそうに唸っているロマンス歌謡のリーダーを見ながら「今日の天空は、宇宙人が見ているぜとは言わないんだな」と、ふと気づいて、私はおかしくて仕方ないのでした。

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