飲酒後の車中泊。運転しなくても飲酒運転になる?エンジンはかけてもいい?~弁護士に訊いてみた~【クルマと法律vol.09】
交通問題やクルマに関する相談について、法律の見地から分かりやすく解説する連載「クルマと法律」。今回は、飲酒をした後に車中泊をした場合、酒気帯び運転になるのか。駐車場内で飲酒運転をした場合、違反になるのかを弁護士・島田浩樹先生に話を聞きました。
「飲酒後に車内で寝ていた場合、クルマを動かさなくても酒気帯び運転になりますか? その際、エアコンを使用するためにエンジンをかけてもいいのでしょうか?」
飲酒後に車中泊したら違反になるの?
相談者:長めの休暇を取って、東北地方を一周するドライブをしようと思っています。
島田弁護士:それはいいですね。現地の食事を楽しみすぎて、うっかり酒気帯び運転をしてしまわないよう、アルコール検知器を持って行かれるとよいと思います。
相談者:そうするつもりです。気ままな旅にしたいので、出発の前に宿の予約はせず、宿が確保できなければ車中泊しようと思っています。その際、お酒を飲んで車の中で寝てしまっても、酒気帯び運転にはならないのでしょうか?
島田弁護士:寝るだけで運転しないなら酒気帯び運転にはなりません。酒気を帯びて自動車を「運転」することは、道路交通法65条1項で禁止されていますが、自動車を単に寝るための空間として利用するだけなら「運転」に該当しません。
エンジンをかけてもいい?
相談者:そうなのですね! ちなみに、エアコンを使うためにエンジンをかけても大丈夫ですか?
島田弁護士:大丈夫です。少し説明させていただくと、道路交通法2条1項17号は「運転」について「道路において、車両又は路面電車(以下「車両等」という)をその本来の用い方に従って用いること(自動運行装置を使用する場合を含む)」と定義しています。そして、最高裁昭和48年4月10日判決は「駐車中の自動車を新たに発進させようとする場合において、右にいう自動車を『本来の用い方に従って用いた』とは、単にエンジンを始動させただけでは足りず、いわゆる発進操作を完了することを要し、かつ、それをもって足りる」としています。
つまり、エアコンを使うためにエンジンをかけていても、ギアをドライブに入れる等したわけではありませんから「発進操作を完了した」とはいえず、酒気を帯びての「運転」にはあたりません。
駐車場で飲酒運転になる可能性も?
相談者:安心しました。ところで、教えていただいた道路交通法の条文では「運転」の定義中に「道路において」とありました。そうすると、そもそも駐車場内であれば、仮に車を動かしたとしても、道路交通法で禁止される酒気帯び運転にはあたらないのではないでしょうか。
島田弁護士:よく気が付かれましたね。実は、かなり微妙なものがあります。「道路」とは何かについては道路交通法2条1項1号が定めていますが、いわゆる公道等に限らず「一般交通の用に供するその他の場所」が広く道路に含まれるとされています。
相談者:「一般交通の用に供する」と言われても、漠然としていて範囲がよく分からないのですが・・・
島田弁護士:そうですよね。法令を解釈する基準は「通常の判断能力を有する一般人は、条文の文言から、どのような意味・内容を読み取るか」というものです。要は「常識に照らして判断する」ということです。大阪高裁平成14年10月23日判決は、道路交通法2条1項1号にいう「一般交通の用に供するその他の場所」とは「不特定多数の人や車両が自由に通行できる場所として供され、現に不特定多数の人や車両が自由に通行している場所」を意味するとしています。
駐車場内を道路にあたるとした裁判例も!
相談者:実際に駐車場を「道路」にあたると判断した裁判例もあるのですか?
島田弁護士:ありますね。先程の大阪高裁平成14年10月23日判決は、飲食店の駐車場の通路部分を「道路」にあたるとしました。さらに、東京高裁平成17年5月25日判決でも、コンビニエンスストアの駐車場の通路部分を「道路」にあたるとしています。
相談者:へ~! 「道路」という日本語から普通にイメージされるところとは、少し違いますね。
島田弁護士:そうですね。商業施設や公共施設の駐車場など、ある程度の広さがあって、公道からの出入りを特に制限していないような場合、その通路部分は「道路」にあたると考えておいた方がよいでしょう。
相談者:なるほど。駐車場などの中でも、クルマを動かせば酒気帯び運転にあたる可能性があるのですね。お酒を飲んだ後は、アルコール検知器が反応しなくなるまで、車は1ミリも動かさないようにします。
島田弁護士:是非そうしてください。安全運転で楽しいご旅行を!
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