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【フリフリ人生相談】第413話「息子が海外で仕事をすると言いだした」

登場人物たちは、いいかげんな人間ばかり。そんな彼らに、仕事のこと人生のこと、愛のこと恋のこと、あれこれ相談してみる「フリフリ人生相談」。人生の達人じゃない彼らの回答は、馬鹿馬鹿しい意見ばかりかもしれません。でも、間違いなく、未来がちょっぴり明るく思えてくる。さて、今回のお悩みは?「息子が海外で仕事をすると言いだした」です。答えるのは、根っからのイタリア人、バンジョーです。

ストーリーテラー=松尾伸彌

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画=Ayano

書を捨てよ町に出よう

今回のお悩みは大学生の息子を持つお母さんからです。

「大学3年生の息子の母です。息子は東京の有名私立大学に通っています。望めばどんな企業にも就職できると思うのですが、本人は日本で就職せずに海外で仕事をすると言いはじめました。こういう時代だし、本人の好きにするしかないのでしょうが、正直、不安で仕方ありません。考え直すように説得したい気持ちもあります。どうすればいいのでしょうか」

大学3年生というと、就職活動をはじめる時期ですかね。インターンとか先輩訪問とか就職サービスにエントリーとか、いろいろやることはありそうです。周囲も騒がしくなるし、親としても落ちつかない時期かもしれません。そんななかで、息子が「おれは日本で就活はしないよ。海外に行って仕事を見つけるんだ」なんてことを言いだしたんでしょうね。

そりゃあ、親としては心配しちゃいますよね。

「本人の好きにするしかないのでしょうが、正直、不安で仕方ありません。考え直すように説得したい気持ちもあります」なんてところに、揺れる母ゴコロが現れている気がします。

ということで、この相談はバンジョーに持っていくことにしました。

なぜバンジョーかと言うと、たいした理由はないのですが、以前、バンジョーが「学生時代は外交官になりたかったんだよ」と言っていて、大学を卒業してすぐにアメリカに何年か行っていた経験があるからです。つまり、今回の息子さんに感性が近いかもと思ったわけです。ちなみに、アメリカに行って仕事をしたわけではなく、気ままに西から東へ旅していたってことらしいですが。

まさに「書を捨てよ町へ出よう」by寺山修司の時代です。

「はっきり年齢はわからないけど、このお母さんも、そういう時代を過ごしたんじゃないのかな」

今回のお悩みの紹介など、私の話を聞き終わったあとに、まずバンジョーがそう言いました。「そういう時代」というのは、「書を捨てよ町に出よう」という言葉に代表される「若者の気分」であり世代のことでしょう。そういう青春時代を過ごしたはずだから、息子の海外行きが理解できないわけがない、みたいな。

「いや、それが、案外、そうでもないんですよ」

と、私はつらつらと年齢のことなどを想像しながら、言ってみました。

「このお母さん、息子が20歳だとして、40代でしょ? いまの40代って、ゆとり世代とかパソコンネイティブとかって時代を生きてきたから、書を捨てるってことに実感がないんじゃないかな」

私がそんなふうに説明すると、ごく当たり前のようにバンジョーは首をかしげました。

「どゆこと?」

「いや、だから……」

私も感覚でしゃべっているので、たいした根拠があるわけではないのです。ただ……。

「ただ、まぁ、書を捨てよ町に出ようって感覚が身についているっていうより、最初から書とか本とかイデオロギーに馴染みはないし、町……つまり世界に出ておもしろいとも思ってない世代……」

「どゆこと?」

「いや、やめましょう。世代の話をしてもラチが明かないですもんね。話のキモは、とても個人的な、息子が海外で暮らしたがってるってことで……」

「だとしたら、話はかんたんだよね。行けばいいんじゃないの?」

と、バンジョーは当たり前のように言いきりました。

そりゃそうだ、です。

最初から、バンジョーならそう言うだろうと思っていた私なのです。

反対する理由がない

「世代とか時代ってことで言うとさ……」

話がややこしくなるのでやめましょうって言ってるのに、バンジョーはそこのところに反応したように明るい顔で言います。

「いまの時代、日本で就職する意味なんてあるの?」

「ほほお、一気に極論、いきますね」

「いや、極論ってことでもないよ。いま日本は世界レベルで物価が安いし賃金も安い……ってことはさ、貧しい国ってことじゃないの? そんな貧しい国で働くより豊かな国に行って仕事を見つけたいっていうのは、ごくごく常識的な考えかた、だよね」

「まぁそういうことですね」

「親のスネをかじって留学するっていうなら、そりゃあ、親は反対してもいいよ。学費だって留学費用だって、めっちゃ高くなるわけだからさ。でも、働くわけでしょ。つまり、稼げるんだから、逆に日本に仕送りしてねって話じゃないの?」

「まぁそういうことですね」

「でしょ? だったら、なんの問題もなし。息子さんは堂々と海外に行って働くべし」

「まぁそういうことですね」

私としてはまったく反論はありません。いまの時代、日本より海外で働くほうが稼げるのです。昔は日本に出稼ぎにやってくる東南アジアの人たちがいっぱいいましたが、とっくに立場は逆転しています。日本に仕送りするために海外でがんばるっていうのが常識になったのです。

「問題はさ……」

と、バンジョーは私のスマホに視線を落としたまま、低く言いました。今回のお悩みの内容を読んでもらうために、スマホを渡していたのです。

「息子は東京の有名私立に通っている、望めばどこにでも就職できると思うのですが、って言ってるお母さんのアタマのなかじゃない?」

皮肉なのかイヤミなのか、唇を曲げながら肩をすくめるバンジョーです。

人生は旅、だよね?

「母親の考えかたがおかしい、と?」

私も皮肉めいた顔つきで、バンジョーに笑いかけます。

「おかしいとは言わないよ、母親っていうのは、そういうものかもしれない。いくつになっても、息子を手もとに置いておきたい、みたいなさ」

「それはあるかも、ですよね」

「松尾さんも、大学に進学するときに兵庫のイナカから東京に出てきたわけでしょ?」

「いや、東京っていうより、関東エリアですけどね」

「おら東京さ行くだ、花の東京、東京に行けばなんでもある、ってことじゃない?」

「いや、だから、東京じゃないけど……」

「でも、大学を卒業して東京で就職……」

「まぁ、就職先が東京だったってことですけどね」

「兵庫のイナカで就職する選択肢はなかったわけでしょ?」

「まぁ、確かに」

「だからさ、同じような感覚で、この息子にも、日本で就職するって選択肢はないんだよ。それはすごく正しい感覚なんだよね。いまどき、東京の有名私立を出たから日本の一流企業に就職って決めつけが、古い!」

バンジョーは言い切って、なぜかうれしそうです。

「もっと言うと、海外の、アメリカだのヨーロッパだのメジャーどころでなくてもいいよね。南米大陸もいいし、アフリカだっていいし……」

「それって、もう、日本以外どこでもオッケーってことですね。円が強い弱い、日本と比較して豊かとか貧しいって話は置いといて、とにかく、海外ならどこでも行け、と」

「そうそう。地元で就職する、っていうのだけはやめようねってことかも。東京の大学出て、東京に就職するなんてことだけは避けたいよね。そんなの、おもしろくないよ。人生、旅なんだからさ」

「…………」

「そうでしょ? 人生は旅、だよね? 毎日違うところで目覚めて、違うもの食べて、歩いて、見たことないものに触れる……これこそが人生なんだよ」

バンジョーは奇妙に熱を帯びたようになって、語っています。

結局のところ、こういう話が大好きなのですね。

息子の就職とか将来について不安を感じている母親の気持ちは、とっくにどこかに行ってしまってます。

「あの……この母親の気持ちは……」

と、苦笑しながら、バンジョーの鼻先に言葉を投げます。

バンジョーはそんな私を無視してしゃべり続けます。

「そのうち、お母さんも、息子の海外のみやげ話が楽しみになってくるから……。いまどきはさ、ウクライナで起こってることだって、リアルタイムでわかるんだよ。だから、心配なんかする必要はないんだよ。電話するよりかんたんに、どこからでも映像つきでハローハローだよ。人生は旅。世界中を歩きまわって生きていける時代なんだから。ね、これですべて解決、まったく問題なし」

ウクライナまで出されちゃうと、母ゴコロとしては問題なしのはずはないのですが、バンジョーは元気いっぱい話し続けるのでした。

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