「ブラックバック」|第47回アニマル”しっかり”みるみる|くるくら
世界中から集まったさまざまな動物たちを、間近で見て・感じられる施設がサファリパーク。そんなサファリパークで動物たちの世話をする飼育員さんに、知っておくとちょっぴり動物通になれるポイントを、 "しっかり" ご指導いただきました。富士山の自然豊かな環境にある富士サファリパークの動物展示課飼育担当望月さんに、「ブラックバック」を解説してもらいました。
長く尖ったらせん状の角
「ブラックバック」は、インドやネパールの草原や乾燥地帯に生息する偶蹄目ウシ科の動物です。体長は1~1.5m、体重は30~50kgほどあります。このブラックバック(blackbuck)という名前ですが、英語の「buck」にはオス、オス鹿の意味があり、オスの背中の毛が成長するとともに黒くなっていくことから、この名前がついたと言われています。
ブラックバックの一つ目の身体的特徴としては、らせん状に長く伸びる角が挙げられます。
「角はオスだけに生えます。角の長さは40~70cmほど。角の伸び方が、他のウシ科の動物と違っていて、角全体は、らせん状に捻じれながら伸びています」(※望月さん以下同)。角の表面にはネジのような溝があり、角の色はグレーです。
この角は長く先が尖っており、「頭を下げて角から向かってこられると危ないのでその点は注意が必要」なのだそうです。
もう一つの身体的特徴は、オスの体が黒くなることです。群れのリーダーなど、力を持ったオスは年齢とともに体が黒くなっていきます。
「背中や四肢の外側の体毛は黒く、腹部や足の内側、目・口・鼻の周りの毛は白くなっています」。顔はマスクを被ったような柄になります。
メスや若いオス、子供は黄褐色や茶色のちょっと明るめの毛色です。
しかし黒っぽい色のオスも「老齢になるとメスと同じような体の色になってしまう」そうです。
ブラックバックは、このように角の有無や体毛の色の違いで、オスとメスの見分けがしやすい動物種です。
メスをとられないための歩き方
野生下での、ブラックバックは、1頭のオスをリーダーとした15頭以上の群れ(他の草食動物と同様のハーレム)を作ります。群れは、リーダーのオス以外はメスの比率が高くなる構成です。また若いオス同士で別に群れを作ることもあります。
ブラックバックの群れのリーダーは、ちょっと変わった歩き方をしてアピールすることがあります。これはリーダーのオスがとる一種の示威行動と考えられており、「アルファメイル・ウォーク」と呼ばれています。発情期にメスに見せるための歩き方で、顎を上げ、耳を少し下げて角をより大きく見せ、自分を大きく見せることで、強さをアピールします。群れのリーダーのオスが、メスを他のオスにとられないために行います。
「園内でも見かける行動です。群れの一番後ろに回ってメスを追い立てるように歩くのが特徴」です。
ブラックバックのオス同士の順位決めは、角をぶつけ合う角合わせで決まります。
ブラックバックの角合わせは、季節は問わず、一年中頻繁に行われます。
「角合わせに夢中で周りが見えなくなり、急に園内の道路に飛び出してくることもあります。角合わせに勝ったオスが、負けたオスを群れからできるだけ遠くに引き離そうとして、追いかけ続けることもある」そうです。
ブラックバックは鳴き声を出してコミュニケーションをとります。
「低めの声で、『ボー』と『ウー』の間のような鳴き方をします。オス同士がケンカをするときに発したり、親が子を呼ぶときにも鳴く」そうで、子供も同じような声を出します。
園内ではブラックバックの赤ちゃんは秋以降に生まれます(春先も)。小さくて体が強くないうえに、ブラックバックは赤ちゃんを岩場に隠すようにして出産するので、「秋以降の寒くなる時期は、目の届かないうちに赤ちゃんが産み落とされて弱っていないか、ちゃんと授乳できているかなどを、早めに注意する必要がある」そうです。
臆病だけどジャンプ力あり
そんなブラックバックは、どんな性質の動物なのでしょうか?
「一言で言えば、臆病な動物です。オスもメスも警戒心が強く、人間が近寄るとすぐに逃げてしまう」そうです。
最後に「ブラックバックあるある」についても伺いました。
それは、「驚くと1~2mくらいの堀でも軽々と飛び越え、別の動物がいる展示場に入ってしまうこと」です。オスもメスもジャンプ力があり、「ジャンプのときの身のこなし方はとてもシカっぽい」そうです。外見もウシ科の動物というよりどちらかというとシカ科の動物っぽいですね。