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最終更新日:2023.06.16 公開日:2022.01.28

AIが片側交互通行をコントロール。日本初「長野方式」の最新道路対策を、国道19号・犬戻トンネルの地すべりにみる【第2回】

2021年7月、名古屋市と長野市を結ぶ大動脈、国道19号の犬戻トンネル付近で地すべりが発生した。片側交互通行規制を余儀なくされた同路線で、上下線の切り替えタイミングをAIで判定する「長野方式」が両方向に延びる渋滞のコントロールに大きな成果を挙げたという。無人化施工が進む道路工事の最新技術を紹介しよう。

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国道19号の片側交互通行規制でサイクル長の調整にAIが導入された。 写真=くるくら編集部

 2022年1月現在、国道19号・犬戻(いぬもどり)トンネル西側出口付近(長野市篠ノ井小松原地先)で、片側交互通行規制が実施されている。これは2021年7月6日に発生した地すべりによる土砂が道路上に流れ込むのを防ぐため、山側の上り車線(長野市→松本市方面)を利用して、土砂から道路を防護する鉄柵が数十mにわたって設置されたためだ(詳しくは第1回を参照のこと)。

今回発生した地すべり。画像下部中央に見えるのが、犬戻トンネル西側出口。画像右上から地すべりが発生している。 写真=長野県提供

片側交互通行規制を実施する際の課題

今回の片側交互通行規制には大きな課題があった。それは、国道19号の犬戻トンネル近辺を含む区間は、とても交通量が多いということ。そして上下線の交通量が常に変動しているため、上下線の切り替えタイミング(信号パターン)を調整するのが難しいことだ。

国道19号の犬戻トンネルを含む区間は上下線合わせて1日に2万台強が通行する。写真=くるくら編集部

 2015年に国土交通省が発表した「平成27年度 全国道路・街路交通情勢調査 一般交通量調査 集計表」(道路センサス)によれば、同区間は上下線合わせて1日2万台強が通行する。このような幹線道路の場合、上下線を一定の青時間で切り替えていると、混雑している側の車線で渋滞が大きく延伸してしまう。また、手動で切り替えを行うためには、広範囲に監視員や作業員を配置して、交通量、渋滞長などをチェックし、その時々の交通状況に合わせて、適切に青時間を調整しなくてはならない。しかし、そうした柔軟な対応は非常に難しいという。

今回の規制区間でも、片側交互通行規制が始まった7月14日から9月18日までは、上下線ともに規制区間の数km手前の地点まで総勢10~13名の監視員・作業員を配置し、交通量などをチェック。その情報を集約した上で手動での切り替えが行われていたが、それでも混雑している側のドライバーから苦情が入ることもあったという。

日本初のAIによりサイクル長を調整する「長野方式」を導入

そこで国土交通省は、上下線で偏った滞留が発生しないようにするため、AIを導入し、信号パターンを交通量に合わせて自動調整することを決断した。AIによる自動調整は日本初の方式であり、通称で「長野方式」と呼ばれている。

その第1ステップとして7月24日、12台のLIVEカメラを必要な地点に設置。この時点ではAIは導入されていないため、それらのLIVEカメラからの映像を規制監視室の監視員が確認し、適切な信号パターンを算出して現場の作業員に伝達し、上下線の切り替えを実施した。その交通状況と監視員の指示はAIの教育用データ(教師データ)として蓄積していった。

規制監視室の様子。17箇所に設置されたモニターの映像が映し出されており、ここで上下線の信号の切り替えを行う。 写真=くるくら編集部

 そしておよそ50日後の9月19日、第2ステップとしてAIによる試運転がスタート。信号パターンは最短で1分から最長で6分まで、上下線の組み合わせで全26パターンを設定した。50日間かけて蓄積された情報を教師データとして鍛えられたAIは、LIVEカメラの映像から10分ごとに最適なパターンを選び出して監視員に提案。監視員はそれを確認した上で、信号機に手動で入力して運用するという方式へと改めたのである。その後さらに学習が深められ、現在ではAI自身が26パターンの中から判定した信号パターンを自動で信号機に設定できるようになった。長野方式は地すべりの発生からわずか2か月強でシステムが稼働し、上下線の切り替えを半自動化するに至ったのだ。

上下線の信号パターンの組み合わせの全26パターン。AIが交通状況から最適な組み合わせを選択する。 出典=長野国道事務所

 なお完全自動ではなく半自動なのは、片側交互通行で正面衝突を防ぐため、AIの制御に完全に任せず、最終車両の通過は規制作業員が行っているからだ。

サイクル長の組み合わせはAIが2つの情報から判断

長野方式において、AIが信号パターンの組み合わせを選ぶために利用している情報は、交通量(通過台数)、渋滞長の2点だ。これらの計測自体も、現在はすべてAIが自動で行っている。

上り車線の規制区間終点付近の上り車線用案内標識板の裏側に設置されたLIVEカメラの1つ。 写真=くるくら編集部

 1つ目の交通量は、上り車線の規制区間付近に設置されたLIVEカメラからの映像が用いられ、通過車両が自動判読されている。

2つ目の渋滞長は、10分ごとのLIVEカメラの映像が用いられている。LIVEカメラで渋滞最後尾の位置を特定し、渋滞長が計測されている。基本的には、この渋滞長を基に、上下線それぞれの交通状況をAIが判断し、信号パターンが決定されるのである。

また、AI導入のメリットは他にもある。交通規制の監視員や作業員などの人員を減らせたことだ。当初は、13人が配置されていたが、AIが導入された現在は9人体制で運用しているという。現場の作業員にとって、冬の厳寒期はもちろんのこと、特に夏場の長時間の交通規制が大変厳しいのだが、AI導入でより短時間での交代制も可能になったという。

AIはヒトの目では見落としてしまうようなパターンを見抜いたり、データ同士の関連性を見出したりすることなど、すでにヒトの能力を上回っている部分もある。さらに、疲れを知らないために集中力が途切れることもなく、まさに24時間365日の連続稼働が可能だ。少子高齢化の影響による労働力の不足が大きな課題となっている現在の日本においては、今回の長野方式のような、AIがヒトを支える技術が今後はより重要になっていくことだろう。

ドローンや無人施工など、道路工事などに導入されている最新技術

ところで、「長野方式」のAI以外にも、道路工事や交通規制の現場では、新しい技術が導入されている。

例えば今回、地すべりを起こしたエリアの地形計測には、ドローンが使用された。再び地すべりが発生する危険性があるため、発災直後は現地への立ち入りが不可能な場所も多い。これまでは、地すべりの全体像を把握するのに時間を要したそうだが、ドローンを用いたことで、広範囲を迅速に把握することができたという。

ドローンによる計測結果を用いた3次元モデル。 写真=国土交通省提供

 また、同じ国道19号でも犬戻トンネルよりも西に行った長野市水内地区(信州新町水内)で2021年に発生した車道の一部が沈下してしまうという災害では、崩れた斜面の地固めブロックなどの土木工事を行うために、ラジコンのように遠隔操縦が可能な建機が導入された。

長野市内水内地区では、国道19号の上り車線が崩落してしまう大きな被害が出た。 写真=国土交通省提供

 このときは、国道19号に沿って流れる河川(犀川)側ののり面の地すべりで、上り車線が沈下してしまった。こののり面が再び地すべりを起こさないようにするため、犀川の河原にて建機がブロックを積み上げるなどの補強作業をする必要があった。しかし通常の有人機だと、工事の最中にのり面が崩れた場合、操縦士が巻き込まれる危険性がある。それを避けるため、遠隔操縦の無人機が導入されたのである。

安全な場所から犀川の河原で無人建機を遠隔操縦し、斜面の根固めブロックなどの土木工事が行われた。 写真=国土交通省提供

この通り、建機の操縦席に人の姿はない。 写真=国土交通省提供

 このように、これからの危険性のある地形の計測や工事などにおいては、作業員の危険を減らすため、ドローンを用いるなど、遠隔操作による工事の実施が今後は広まっていきそうだ。

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