AIが片側交互通行をコントロール。日本初「長野方式」の最新道路対策を、国道19号・犬戻トンネルの地すべりにみる【第1回】
国土の7割が山地と丘陵地帯の日本は、地すべりが発生しやすい。2021年7月6日に国道19号の犬戻トンネル近辺(長野市内)で発生した地すべりでは、人的被害こそなかったが、復旧工事に時間を要し、2022年2月上旬までは片側交互通行規制が続くという。その現状を伝えると同時に、現在どのような対策が採られているのか、また国土交通省が導入したAIなどの最新技術について、3回に分けてお伝えする。
2021年7月6日、名古屋市と長野市を結ぶ国道19号の長野市内に位置する犬戻(いぬもどり)トンネル付近(長野市篠ノ井小松原地先)で地すべりが発生した。発生はトンネル上部とトンネル脇からであったが、道路には土砂が流れ込まなかったため、通行中の車両や歩行者が被害を受けることはなかった。しかし、再度の地すべりに対する安全を確保するため、現在もなお片側交互交通が実施され、多くの利用者に影響を与えている。
犬戻トンネル西側出口付近で片側通行規制を実施中
国道19号はその一部区間が旧中山道に相当する幹線道路の1つで、長野県内の区間は国土交通省関東地方整備局・長野国道事務所が管理している。国土交通省が2015年に公表した「平成27年度 全国道路・街路交通情勢調査 一般交通量調査 集計表」(道路センサス)によれば、国道19号の犬戻トンネルを含む区間における交通量は、上下線合わせて1日2万台強もある。同区間は周辺に並行する迂回路などがないため、交通が集中しやすい。特に上り線(長野→松本・名古屋方面)に関しては、犬戻トンネルの東側において国道19号現道と国道19号南長野バイパスが合流するため、交通量が増加する傾向となっている。
国道19号の通行止めは、地すべりが発生して8日後の7月14日には解除された。しかし、2021年12月27日現在、片側交互通行規制が実施されていて、2022年2月上旬まで続けられる予定だという。この規制のため、慢性的な渋滞が発生。朝夕の通勤・帰宅ラッシュ時などの交通量が多い時間帯は、通過するのに20分以上の時間を要する場合もあるという。
路上への土砂の流入や落石を防ぐ二重の対策
片側交互通行規制が当面の間継続される理由は、犬戻トンネル西側出口付近において、路上に土砂が流れ込む危険性があるためだ。
それを防ぐための応急対策として、山側の上り車線に数十mに渡って2列で高さ7~8mの鉄柵が設置されている。鉄柵は3mを地下に埋設することで頑丈に固定されており、再び地すべりが発生しても、路上への土砂流出をせき止められるという。さらに犬戻トンネル西側出口上部には、金属製の大型ネットが設置。これにより、トンネル上部から路上への落石や土砂の落下が防止されるという。
地すべりの発生した山の斜面の対策も進められているが、広範囲に及ぶため、現時点では応急処置に留まっている部分も多い。本格的な対策を行い危険性を取り除き、対面通行が可能となるのは2月上旬になる予定だ。
再度の地すべり発生の危険性は伸縮計やカメラなどで三重にチェック
その間、地すべりの再発を防ぐため、地すべりが発生した斜面には複数の伸縮計が設置され、わずかな兆候も見逃さないようにしている。伸縮計はmm単位で土砂の動きを検知でき、1時間に2.0mm以上の変位量が計測された場合は、地すべりの危険性ありと判断され、片側交互通行規制区間は即座に通行止めとなる。
また雨量計も設置されており、60分の雨量が20mmを超えた場合、連続雨量が80mmを超えた場合も通行止めとなる。そのほか、監視カメラで、地すべりの兆候などの異常が確認された場合も同様の処置がとられる。
渋滞での上下線の待ち時間のアンバランスを解消するためにAIを導入
こうして、当面の間の地すべりの再発により、道路への影響を最小限にする対策はできた。ところがそれは、一方で、国道19号の当該区間の片側交互通行規制が長期化することを意味する。既述の通り、国道19号は名古屋と長野をつなぐ大動脈で、代替迂回路は存在しない。交通量の多いこの区間で片側交互通行規制を実施する上で、上下線の混雑状況がアンバランスにならないように車線を切り替えるのは非常に難しいという。どのようにして、円滑な道路交通を確保するのだろうか?
そこで開発されたのが、AIが道路の状況を解析して片側交互通行規制における上下線の通行時間の長さ(サイクル長)を自動設定で行う「長野方式」だ。すでに9月19日から導入されており、これにより、交通流のアンバランスさが大幅に解消されたという。
第2回では、このAIを用いた「長野方式」の詳細と、国道19号長野市信州新町水内地区の地すべりで導入された無人化施工とを合わせて紹介しよう。