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最終更新日:2023.06.20 公開日:2022.01.18

車体の向きから無理な進路変更を見破る!?|長山先生「危険予知」よもやま話 第7回

JAF Mate誌の人気コーナー「危険予知」の監修者である大阪大学名誉教授の長山先生に聞く、危険予知のポイント。本誌では紹介できなかった事故事例から脱線ネタまで長山先生ならではの「交通安全のエッセンス」が溢れています。

話・長山泰久(大阪大学名誉教授)

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車体の向きから無理な進路変更を見破る!?

編集部:今回の問題は、3車線ある道路での無理な進路変更です。路肩から発進してきた車が、Uターンするため一気に2車線分進路変更するケースですが、このようなケースは多いのでしょうか?

長山先生:Uターンのために一挙に2車線以上進路変更することは稀でしょうけど、車線の多い道路では、合流してきた車や左端の車線を走行する車が右端の車線まで一挙に進路変更するケースはしばしばあります。幹線道路以外には、高速道路でも見られるケースですね。

編集部:首都高や阪神高速など都市高速のジャンクションでは起こりそうですね。

長山先生:おっしゃるとおりで、阪神高速の環状線なんかは4車線もあって、しかも合流地点と出口が接近している所も少なくありません。たとえば、環状線に合流して、すぐ近くにある反対側の出口で下りようとすると、一挙に2車線、3車線移動する必要が出てきます。

編集部:首都高も難しいですけど、3車線以上を一気に移動するようなことは、まずないですね。都市高速は特殊な例として、今回のような一般道路の場合、相手の車が2車線以上続けて進路変更する動きは、どうやって予測すればいいのでしょうか?

長山先生:まず、進路変更が起きそうな場所に注意します。今回のようにUターンできる場所や右折レーンの手前などは要注意です。逆に言えば、しばらく交差点がなかったり、中央分離帯が続くような場所では、慌てて右端の車線に入る必要はないので、無理な進路変更をする車もまず出てきません。

編集部:なるほど、合流してくる車がいたからと言って、続けて進路変更する理由がない場所では、神経質になる必要はないのですね。

長山先生:そうです。進路変更が起きそうな場所に差し掛かり、合流してくる車などがいたら注意すればいいのです。また、その際、車の角度にも注目しましょう。

編集部:合流してくる車の向きのことですか?

長山先生:そうです。単に1車線のみ進路変更する場合、車体の向きはほとんど真っ直ぐで、わずかに斜めに向く程度ですが、今回のように短い距離で続けて進路変更しようとすると、車体には角度が付いて、かなり斜めになるはずです。

編集部:結果写真の合流車も、たしかに角度が付いていますね。

長山先生:この角度がさらに危険を増大させるのです。進路変更する際は、ドライバーは移動先の車線を走る車両の有無をドアミラーなどで確認する必要がありますが、図1のようにA車が第1車線に沿って走行している場合、第3車線を走ってくるB車をドアミラーで認知できますが、図2のようにA車が斜めに進行していると、ドアミラーで確認できる範囲を外れて、B車のことは認識できません。

編集部:ドアミラーで確認できなければ、当然目視をしなければいけませんよね。

長山先生:もちろんそうです。大切な情報を把握できないまま走行することは、事故の発生につながる蓋然性が非常に高くなり、無謀運転となってしまいます。

編集部:交通量にもよりますが、目視もせずに2車線を進路変更するのは自殺行為ですね。もしかしたら、進路変更するドライバーは多少車が来ていても、「相手が減速してくれたり、避けてくれるのでは?」と甘く考えているのかしれませんね。

長山先生:その可能性は十分考えられます。「相手が譲ってくれるだろう」と、相手に期待してそのまま進行して事故につながるケースは少なくありません。「相手に期待して進む」ということは、車を運転する場合の禁じ手であることを強く認識しておくことが重要で、これは危険予知の重要事項でもあります。

「車線変更」と「進路変更」に違いはある?

編集部:そういえば、長山先生は解説の際にたいてい「進路変更」とおっしゃりますが、世の中的には「車線変更」がよく使われている気がします。違いはあるのでしょうか?

長山先生:一般的には車線変更という言葉がよく使われておりますが、『交通の教則』や自動車学校の学科教本では「進路変更」という用語が用いられています。道路交通法における法律用語では、「進路を変更する」「進路を変える」と、縮めずに使うことが多いですね。一方、車線変更という用語は道路交通法及び交通の教則には用いられていません。

編集部:交通ルールなどで”車線変更禁止”とか、よく聞くような気がしますが、道交法では使われないのですね。

長山先生:そうです。自動車学校の教本の中では「不必要な車線変更の禁止」といった形で、車線変更は車両通行帯(車線やレーンともいう)との関連で用いられているようです。「不必要な車線変更の禁止」については、「車両通行帯をみだりに変えて通行すると、後続車の迷惑となり、ひいては事故の原因となりますから、同一の車両通行帯を通行しなければなりません。」と書かれています。これらの用いられ方から考えてみると、「進路変更」は目的を持って進行方向を変えることに関連して、車両通行帯がない道路や対向2車線道路、二つの車両通行帯道路(片側2車線以上の道路)のすべてにおいて用いられるのに対し、「車線変更」という場合には車両通行帯がある道路においてのみ用いられる用語であると言えます。

ドイツでは逆になる、交差点での優先権

長山先生:今回の問題は路肩からの発進にともなう進路変更による危険ですが、側方から合流してきた車が進路変更する危険もしばしば遭遇する場面です。

編集部:側方から合流してきた車の進路変更ですか? 具体的にはどのような状況でしょうか?

長山先生:高速道路やバイパス道路などにある、図のような状況です。

編集部:図の場合、本線Aが優先道路であることが分かりますが、実際に走っていると、道路標示を見落としたり、微妙なケースもありそうですね。

長山先生:おっしゃるとおりで、図のような逆Y字路については教えられる機会がありませんし、地方の道路や都会でも市町村道などでは標示がなく、いずれが優先なのか示されていない道路もしばしば存在するので、困ることがあります。

編集部:一般的な十字路の交差点なら、幅員の広い道路を走る車が優先だったり、左側から来る車が優先だったりしますね。

長山先生:後者は”左方優先”と呼ばれるもので、ドイツにも同じ規則があります。ちなみに、ドイツの場合は右側通行なので、日本とは逆の”右方優先”になります。ドイツも日本も、道路標識や道路標示で優先権が決まっている場合は当然それに従うようになっていますが、ドイツ独自のものとして「畑道や林道から他の道路に出る場合、合流する道路を走行する車両を優先させる」という規則もありますね。

『JAFMate』誌 2015年4月号掲載の「危険予知」を元にした
「よもやま話」です


【長山泰久(大阪大学名誉教授)】
1960年大阪大学大学院文学研究科博士課程修了後、旧西ドイツ・ハイデルブルグ大学に留学。追手門学院大学、大阪大学人間科学部教授を歴任。専門は交通心理学。91年より『JAF Mate』危険予知ページの監修を務める。

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