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クルマ最終更新日:2021.09.06 公開日:2021.09.06

EVに朗報か。全固体電池のライバル?水系リチウムイオン電池で解明進む

EVの航続距離を延ばすため、バッテリーのエネルギー密度の向上が求められている。そのため、リチウムイオン電池(LIB)の電解液を固体電解質に置き換える全固体LIBの研究が活発化しているが、従来の液系LIBで性能と安全性の向上を目指す水溶液系LIBで新たな解明が進み、全固体電池のライバルとなる可能性もでてきた。

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液系のリチウムイオン電池はもう限界?

リチウムイオン電|LIB|水溶液系LIB|研究|新潟大学|EVに搭載されたバッテリーのイメージ

©Herr Loeffler – stock.adobe.com

 電気自動車(EV)やスマートフォンなどの各種デバイスのバッテリーとして使用されているリチウムイオン電池(LIB)は近年、改良により小型デバイスの稼働時間を大きく延ばすことに成功した。しかし、クルマを動かすには、特に航続距離の点でガソリン車やディーゼル車に及ばず、力不足といわざるを得ないのが現状だ。

 課題となるのは、内部に電解液が用いられた現行のLIB(液系LIB)には、理論的な単位重量辺りのエネルギー密度の上限が250Wh/kg程度とされており、そろそろエネルギー密度が頭打ちになりつつあること。また、事故などで万が一ケースが破損すると、ショートや液漏れにつながり発火の危険性があることも大きな課題だ。

 そうした課題を解決するために、現在、期待されているのが、電解液の代わりに固体電解質を用いる全固体LIBだ。全固体LIBが量産EVに採用される時期はもう少し先になると予想されるが、国内外で活発な研究開発が進められている。

水溶液系LIBを実用化する課題は「水が分解しやすい」という点

  しかし、実はまだ液系LIBにも性能と安全性を向上できる余地があるという。その1つが、電解液を現行の有機溶媒系から水溶液系に変更するという方法だ。これにより性能向上だけでなく、安全性も確保できるといわれている。そもそも液系LIBが燃えやすかったのは有機溶媒が燃えやすいのが原因のため、水溶液系にすることで燃えにくくなるというわけだ。

 ただし、電解質を水溶液系に変更した水溶液系LIBを実現する鍵の一つに、「水は電子を受け取ると、リチウムイオンよりも分解しやすい」という短所を克服する必要がある。水は有機溶媒と比べて、低い電圧でも水素と酸素に電気分解されてしまう。水溶液系リチウムイオン電池の電圧は基礎研究レベルでも2V(ボルト)以下となっていて、2.4~3.7Vの電圧を有する市販のリチウムイオン電池に対して劣るのだ。これは致命的ともいえる短所であり、そのために以前は水溶液を電解液として用いる研究は、あまり研究者に注目されていなかったという。

 ところが近年になって塩濃度が比較的高い水溶液を電解液として用いると水の分解が抑えられ、バッテリーの性能を向上させられる可能性があることがわかってきた。中でも、「濃厚リチウム塩水溶液」を用いると、水が分解せずにLIBを駆動できるという研究成果も発表された。濃厚リチウム塩水溶液とは、現行LIBの有機溶媒系電解液に対して約3倍のリチウム塩を溶解させた水溶液のことだ。これにより水溶液系LIBの研究が活発化し、現在では世界中で競うようにして研究開発が進められているという。

カギとなる濃厚リチウム塩水溶液の構造を分子レベルで解明

水溶液系リチウムイオン電池の電解液である「濃厚リチウム塩水溶液」の液体構造。新潟大学などによる共同プレスリリースより。

濃厚リチウム塩水溶液の液体構造。 出典=新潟⼤学、⼭⼝⼤学、⾼エネルギー加速器研究機構、J-PARCセンター共同プレスリリース

 濃厚リチウム塩水溶液の研究で重要視されているのは、その液体構造だ。濃厚リチウム塩水溶液の構造解析自体が極めて難しいため、これまでの構造解析は推論に留まっていた。しかし、新潟大学 自然科学系 理学部の梅林泰宏教授らの研究チーム2021年7月28日、同大大学院 自然科学研究科の渡辺日香里大学院生(現・東京理科大学 理工学部 助教)、山口大学大学院 創成科学研究科の藤井健太教授、高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所/J-PARCセンターの大友季哉教授、山形大学 理学部理学科の亀田恭男教授、横浜国立大学 大学院工学研究院 機能の創生部門の上野和英准教授、同・獨古薫教授、同・渡邉正義特任教授らとの共同研究チームとして、濃厚リチウム塩水溶液の液体構造の分子レベルでの解明に成功したと発表した。

陰イオンが複数のリチウムイオンを架橋した「会合体」の分子構造。新潟大学などによる共同プレスリリースより。

陰イオンが2つ以上のリチウムイオンを架橋した会合体の分子構造。 出典=新潟⼤学、⼭⼝⼤学、⾼エネルギー加速器研究機構、J-PARCセンター共同プレスリリース

 同チームによると、濃厚リチウム塩水溶液中では、陰イオンが2つ以上のリチウムイオンを架橋(リチウムイオンとリチウムイオンの間を橋渡しする結合の仕方)した「会合体」を形成すること。そして希薄水溶液とは異なり、隣り合う水分子間の水素結合が極めて弱いことが発見されたという。

 また水溶液系LIBが駆動するには、電極に形成する皮膜が重要であり、これまでの研究ではこの会合体の関与が指摘されていたという。今回、この会合体の形成が世界で初めて実験的に証明され、研究が大きく進展することとなった。

 今回、明らかにされた濃厚リチウム塩水溶液中のリチウムイオンの構造は、水溶液系LIBを駆動させるためのカギを握る皮膜形成に大きく影響することがわかっている。共同研究チームは今後、今回の成果を踏まえて、より良好な皮膜を形成する濃厚リチウム塩水溶液を開発し、水溶液系LIBの実用化を目指すとしている。

 なお今回の研究成果の詳細は、論文「Local Structure of Li+ in Superconcentrated Aqueous LiTFSA Solutions」(主著者:渡辺大学院生)として、米・化学会の物理化学を題材とした学術誌「Journal of Physical Chemistry B」に7月15日付けで掲載された。

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