「ケープハイラックス」|第33回アニマル”しっかり”みるみる
世界中から集まったさまざまな動物たちを、間近で見て・感じられる施設がサファリパーク。そんなサファリパークで動物たちの世話をする飼育員さんに、知っておくとちょっぴり動物通になれるポイントを、 "しっかり" ご指導いただきました。富士山の自然豊かな環境にある富士サファリパークの動物ふれあい課飼育担当の松山さんに、「ケープハイラックス」を解説してもらいました。
足裏の突起で岩壁も軽々と登る
「ケープハイラックス」(別名「ロックハイラックス」)は、北西部や中央部を除くアフリカ全域やアラビア半島に生息する、ハイラックス目ハイラックス科の哺乳動物です。体長は40~50cm、体重は3~4kgほどで、一見するとネズミやタヌキに似ていますが、骨格はサイに近い構造で、しかも分類上はゾウに近いという、さまざまな哺乳類の特徴を併せ持つ不思議な動物です。
ロック(岩)ハイラックスという別名にあるように、サバンナ地帯の「岩場」にある割れ目などを巣穴として利用します。通常は1頭のリーダーのオスに複数のメス、そして子供たちからなる数頭から数十頭の群れを作って生活しています。
ケープハイラックスには、住処とする岩場で暮らすことに適した体の作りが備わっています。その一つが足裏の作りです。足裏には、弾力性のある柔らかい肉質の細かい突起が数多くあって、硬い岩場を移動するのに適しています。しかも足裏には汗腺が多くあり、活動するときにはその汗腺から汗が多く分泌され一種の滑り止めとなって、岩や木でも簡単に登ることができます。
「以前、ケープハイラックスがいる展示スペースに頭数確認のため入ったとき、どうしても数が足りなくてあたりを見回していると、頭上の壁面の隅で忍者のようにへばりつく個体がいるのを発見しました」(※松山さん以下同)。野生下では、この足裏の突起で垂直に近い切り立った岩壁でも楽々と移動します。
岩場で暮らすことに適した作りのもう一つが「感覚毛」です。ケープハイラックスの体は2~3㎝くらいの比較的短い毛(色は灰色か灰褐色)で密に覆われていますが、背中や腹部などに6~8㎝くらいの長い毛がところどころで放射状に伸びています。これが感覚毛です。この感覚毛はネコのひげと同様に、触れたところを感じ取ることができるセンサーで、岩の裂け目など狭い場所に入り込んでも、隙間の広さや自分の体が今どのような状態になっているかまで判断できるようになっていると言われています。
草食動物に似つかわしくない鋭い切歯⁉
ケープハイラックスは、その他にこんな身体的な特徴があります。
一つ目が、上顎にある2本の大きな切歯(前歯)です。草食動物なのにもかかわらず一見肉食動物の牙(犬歯)のようにも見えます。この切歯はオス同士の縄張り争いや、危険を感じたときに反撃するために使います。この切歯はオス、メス共にありますが、オスの方が大きく発達する傾向があります。
二つ目が、蹄のような平爪です。前足に4本、後ろ足に3本の指があり、蹄に似た半円状の平爪が生えています(後ろ足の第2指だけが鉤爪)。
三つ目が、背中の臭腺です。オスにもメスにも背中の中央部に白っぽい毛で囲まれた臭腺があります。オスは発情期にこの臭腺付近の毛を逆立て、分泌物の匂いでメスにアピールします。メスは背中の臭腺から出る分泌物の匂いを生まれた子供に付けることで、我が子を認識すると考えられています。
群れで暮らすケープハイラックスは、仲間同士のコミュニケーションとして鳴き声を使います。「例えば、親が子供を呼ぶときは、鳥が囀るような『ピリリピリリ』という声を出します。外敵が現れたときの警戒音や相手を威嚇するときは『キャッキャッ』という鋭い声で鳴き、この声を1頭が発すると周りの個体が一斉に移動する」そうです。一説には鳴き声は20種類以上もあると言われています。
またケープハイラックスは、排便・排尿を同じ場所にする習性があります。「排泄される糞や尿には、個々の個体の発情のサイン(分泌物)が混じっているので、園内のオスは排泄場所の匂いを気にしてよく嗅ぎ回っている」そうです。
臆病な反面、気性の荒いところも
そんなケープハイラックスは、どんな性質の動物なのでしょうか?
「警戒心が強く、臆病な性格ですが、その反面、気性の荒いところがある動物です。治療のために捕まえようとして近づくと、威嚇しながら、ときには鋭い切歯で嚙みついてくることもある」そうです。
最後に「ケープハイラックスあるある」についても伺いました。
「飼育員が頭数確認のために獣舎に入ると、警戒して群れのすべての個体が一斉に四散し、動き回るので、特に新人は頭数確認に時間がかかること」だそうです。そのお陰で「動体視力はとても鍛えられる」そうですが。