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最終更新日:2021.12.15 公開日:2021.12.15

日本車のガラパゴス化は本当か!? 電動化だけじゃない多様性の世界とは|清水和夫が徹底解説「クルマの未来」<連載 第4回>

カーボンニュートラルはバッテリーEVだけじゃない!? モータージャーナリスト清水和夫が次世代モビリティについて優しくひも解く人気連載。第4回は、日本の自動車メーカー5社が挑戦する電動化”以外”の試みについて解説します。

文=清水和夫 写真=トヨタ自動車

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なぜ水素エンジンでレースに参戦しているのか?

開発中の水素エンジンを搭載した車両でトヨタの代表取締役である豊田章男が、ドライバー「モリゾウ」としてレースに参戦した。

 トヨタのモリゾウさん(トヨタ自動車の社長)が、水素エンジン車でレースに参戦し、カーボンニュートラルの選択肢を増やすことが大切で、なにもバッテリーEV(BEV)の一本足打法ではないことを主張している。たしかにその考え方は正しくて、資源の少ない日本は省エネとエネルギーの多様性ではどの国よりも積極的に取り組んできた。しかし、ヨーロッパを中心とした脱炭素作戦は、自動車部門ではBEVを一気に普及させるという戦略を明確にし、そのニュースが独り歩きしている。

 報道の中には、ガソリンエンジンを使うHEV(ハイブリット)ばかり作っている日本はガラパゴス化し、BEVに遅れているのではないか、という間違った意見が目につく。そこで、自動車工業会会長でもある豊田章男さんことモリゾウさんはBEV以外のソリューションとして、水素燃料電池車を推し進めることで多様な選択肢があることを主張している。

 さらに仲間を増やすために、二輪四輪メーカー問わず、カーボンニュートラルの燃料を使って、一緒に耐久レースをしようと誘っている。モータースポーツを使ったカーボンニュートラルの仲間作りは素晴らしい発想だと思う。

 先日の岡山県のサーキットでは、川崎重工、SUBARU、トヨタ、マツダ、ヤマハ発動機の5社がカーボンニュートラルの実現に向けて、積極的にモータースポーツに挑戦することを発表した。席上でモリゾウさんは「敵は炭素」と言い切っているので、化石燃料を減らすことには異論はないが、だからといっていきなりエンジンを廃止するのはナンセンス。早い話しが燃やす燃料を変えればエンジンは生き残れるというのが狙いだ。

川崎重工、SUBARU、トヨタ、マツダ、ヤマハ発動機の5社は11月13日、カーボンニュートラル実現に向け、燃料を「つくる」「はこぶ」「つかう」選択肢を広げる取り組みに挑戦することを発表した。

気候変動と経済活動

 こうした動きの背景には、自動車メーカーの危機感が表れている。先月終幕した気候変動防止の国際会議COP26では、脱炭素に向けた各国の思惑が明らかになったが、その解決策は容易ではない。化石燃料に頼ってきた経済活動に大きな影響を与えてしまうので、経済と温暖化防止の両立はそう簡単ではない。

 歴史を振り返るとよくわかる。18世紀に本格化した産業革命で、化石燃料を燃やすことで大きな動力を人類は手に入れた。その後、化石燃料は電気を作る発電に利用され、もっと便利な社会に進化した。そして、20世紀はガソリン車の普及で、どこでも石油由来のガソリンを手に入れることが可能となり、石油が安かった時代は、アメリカではペットボトルの水よりも安い時代もあった。

「敵は炭素」と言い切る理由はどこにあるのか。約200年前から、人類は膨大な量の化石燃料を燃やことで近代化を推し進めてきた。20世紀には工業化が発達し、大量生産大量販売という経済活動が台頭した。こうして、化石燃料を燃やし続けた結果、大気のCO2濃度は急上昇し、地球が徐々に温められていった。人類の経済活動が地球環境に負のインパクトを与えたことは間違いないだろう。

そもそも化石とは何か?

 それでは化石とはいったいなんなのだろうか。太古の時代に地上に生息していた植物や動物(恐竜などの大型動物)の残骸が地中に埋まり、数億年という時間をかけて石油や石炭に変わっていった。20世紀は石油の時代と言われるが、火力発電ではさらに安価な石炭も使われている。

 このように化石燃料の採掘によって、いままで地中に固定されていた化石燃料の炭素が燃やされた結果、CO2として大気に放出されている。燃やすという化学反応は酸素と結合することを意味するので、C(炭素)にO(酸素)がくっつき、二酸化炭素CO2となるわけだ。この物質が地球を温暖化させる温室効果ガスと規定されている。

 200年以上も、CO2を大気に放出してきたので大気のCO2濃度が上昇し、温暖化を引き起こす。上昇するいっぽうのCO2であるが、放出を食い止める方法もある。それがカーボンニュートラル、あるいはカーボン・オフセットという考え方だ。それはどのような仕組みなのだろうか?

カーボンニュートラルとは

 CO2は我々人類や生物の呼吸、または有機物の腐敗などによってCO2の形で大気に放出されるが、植物は光合成によって大気中のCO2を吸収する。手入れされた畑も、あるいは海もCO2を吸収しているので、放出と吸収のバランスが取れれば、CO2の濃度は上がらない。このようなCO2の排出と吸収の収支がゼロになるようなシステムがカーボンニュートラルの概念である。

 しかし、現実的には簡単ではない。例えば生えている木を切って焚き火で燃やすことを考えてみる。すでに生えている木は炭素を樹木の中に固定化している。その木を燃やしてCO2として放出するわけだから、その放出分を責任と取って植林することで初めてカーボンニュートラルが成立する。また、CO2のリサイクルという大胆な技術も研究されている。つまり、大気中のCO2を再びエネルギーとして再利用する手法で、「CCSU」と呼ばれている。

「CCSU」はCO2の固定化と再利用の略であるが、技術的には可能だ。それまで「CCS」が注目されていたが、このシステムはCO2を固定化して、たとえば地中に埋める考えだ。だが、埋めるだけでは能がないので、再びエネルギーとして再利用するという循環型エネルギーの考えがトレンドとなりそうだ。こうして、放出したCO2をリサイクルできれば、脱炭素化にも期待ができる。

CCUSとは、二酸化炭素の回収・有効利用・貯留(Carbon dioxide Capture, Utilization or Storage)の略語で、火力発電所や工場などからの排気ガスに含まれるCO2を分離・回収し、資源として作物生産や化学製品の製造に有効利用する、または地下の安定した地層の中に貯留する技術。<資料提供=環境省>

水素エネルギーはどう考えるべきか?

 水素は炭素を含まない元素であり、燃料電池の実用化で発電器としても利用されている。そのクルマ版がMIRAIなのだ。だが、水素は炭素と同じように燃やしてもエネルギーを取り出すことが可能だ。燃やしても炭素がないからCO2はゼロだ。だが、若干であるが、窒素酸化物NOxは排出される。しかし、ここで話題にするのは水素で発電する燃料電池車ではなく、水素を燃料として燃やす水素エンジンを話題にする。

 先に述べたように、岡山のサーキットで行われたカーボンニュートラルの発表会では川崎重工も参加していた。カワサキというとオートバイを思い出すが、主たる事業はエネルギーのプラントや造船で知られている。その川崎重工が目をつけたのは、オーストラリアに多く存在する褐炭だ。

 褐炭は石炭より若い化石燃料であるが、高温の燃焼炉に入れてガス化すると水素を取り出すことができる。ガス化するときにCO2が発生するが、これはCCSで固定化し、地層か海の中に埋めてしまう。オーストラリアのラトロブバレーにあるすべての褐炭は日本の総発電量の約240年分に相当するという。こうして得られた電力から電気分解で水素を生成し、マイナス253度まで冷凍し液化させる。

 川崎重工は液化天然ガス(LNG)で培った低温液化技術を生かして液体水素を専用船で日本に輸送。液体水素は気体水素の800倍のエネルギー密度があるので、水素の大量生産大量輸送が可能となる。このようにカーボンニュートラルの掟に従って、上流から下流まで一気通貫する水素サプライチェーンは海外では例がなく、これが日本の強みなとなるのではと期待されている。

 水素は直接エンジンで燃やすことも可能だが、CCSUの仕組みではCO2に水素を合成することで、人工的な液体燃料(常温)も可能だ。これはeFuelと呼ばれる燃料で、数年前はドイツでアウディが熱心に研究していた。SUBARUBRZとGR86は、来年のレースに、このeFuelを使って走るはずだ。

バイオ・ディーゼルとは?

次世代バイオディーゼル燃料を使用するSKYACTIV-D1.5でレースに挑戦するマツダ。

 カーボンニュートラルには色々なやり方が存在する。同レースではマツダは得意とするディーゼル車を走らせた。その燃料はバイオマスから作るディーゼル燃料だ。バイオマスは植物由来という定義があるが、中でも藻やミドリムシから石油を合成する手法が面白い。

 筆者の予想では日本こそ、藻を中心とするバイオマス燃料でディーゼル車を走らせるのが、有力ではないかと考えている。エンジン側も最近はガソリンとディーゼルの両方の特性を持ったエンジンが考案されている。マツダは来年度には藻やミドリムシから合成されるバイオ・ディーゼル燃料でレースに参戦するはずだ。

 ここまで見てきたように、自動車のエンジンは色々なモノで走ることができる。燃料が作られる段階から、CO2発生を計算することが重要だが、まさに多様性の世界が見えてきた。カーボンニュートラルはバッテリーEVだけでないということを日本の自動車産業がレースの世界で証明しようとしている。こうした英知に溢れた取り組みが、日本の強みになりそうだ。

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