噂の中国製45万円EVが日本に上陸。見せてもらおうか、「宏光 MINI EV」の性能とやらを!
EVが45万円で買える!? いま中国で人気沸騰中という話題の電気自動車が日本に上陸した。「宏光 MINI EV」とは、一体どんな車なのか。気になるその全貌をジャーナリストの会田 肇氏が解説する。
中国のベストセラー車、「宏光 MINI EV」を激写!
脱炭素社会の実現へ向けて、国内外でクルマの電動化への動きがにわかに活発化している。しかし、現実に目を移すと現在販売されている電気自動車(EV)、特にバッテリーの電力だけでモーター駆動する電気自動車(BEV)は、航続距離を延ばすために高額な電池を多く搭載しており、結果として高級車並みの価格帯に行き着いてしまう。その意味では電動化したクルマは、庶民にはなかなか手が届きにくい存在となっているのが現状だ。
そんな中、昨年、その常識を覆すBEVが中国で登場した。それは”45万円EV”こと「宏光Mini EV」(宏光はホングヮン=hong guangと読む)で、その安さ故に中国国内ではテスラを上回る販売台数を獲得するという快挙を成し遂げたのだ。
そこまで人気のクルマなら実車を自分の目で確かめたいと思ったが、コロナ禍で中国へ取材に行くことも叶わない。そんな矢先、思いがけなく名古屋大学構内で7月末まで実車が公開されていると聞き、早速現地へと向かった。
車体は想像以上に大きい
「宏光Mini EV」は名古屋大学の研究館C-TECsの前に置かれていた。実車を目の前にすると想像していたのよりも大きめだった。というのも一見すると、日本が進めている超小型モビリティにも近いようにも見えたが、実車に近づいてみるとそれよりはずっと大きいのに気付く。
それもそのはず、「宏光Mini EV」のホームページによると、ボディサイズは全長2920mm×全幅1493mm×全高1621mmで、日本の超小型モビリティよりはずっと大きかった。
特に横幅では超小型モビリティ規格を20cmほど大きく、それは横幅1480mm以下の軽自動車規格よりも若干上回っていた。イメージとしては軽自動車の全長を50cmほどカットしたスタイルと思えば分かりやすいかもしれない。
「宏光Mini EV」を輸入したのは一般社団法人 日本能率協会で、中国国内の販売店で購入したものを船便でそのまま日本に持ち込んでいる。あくまで研究対象として輸入したもので、そのために車検も通さず公道を走ることはできないという。
日本での初公開は今年6月に東京ビッグサイトで開催された「テクノフロンティア2021」。折しも日本では最高時速60km/hに限定した「超小型モビリティ」という新たなEVのカテゴリーが動き出している中で、そうした分野での参考にもなる公開になったとも言える。
ガソリンFR車を流用し、コスト管理を徹底
現地でのラインナップはエアコンを装備しないベースグレードの「軽松款」と、エアコンが装備される中間グレードの「自在款」、同じくエアコン付き上級グレード「悦亨款」の3グレードがある。今回日本に持ち込まれたのはこのうち最上位となる「悦亨款」で、販売価格は日本円換算で60万円強ほど。
上位の「自在款」と「悦亨款」とは装備品で違いはないが、最大の違いは駆動用バッテリーの容量で、「悦亨款」のみが13.9kwhで、他の2グレードは9.3kwhとかなり控えめになっている。これは価格や重量増を抑えるための設定と推察される。
ただ、車体重量が軽いためか、スペック上の航続距離はそれぞれ170km/120kmと容量の割に長めの設定だ。最高速度はいずれの仕様も100km/hで、スペック上なら高速道路も走れることになり、これは最高速度を60km/hとしている超小型モビリティよりも格上のスペックと言える。
タイヤサイズはアルミホイールに145/70R12を装着。ブレーキはフロントがディスク、後輪はドラム式の組み合わせ。サスペンションはフロントがストラット式独立で、リアは3リンク式リジッドアクスルを採用していた。ヘッドライトは全グレード共にハロゲンランプを装備。バックドアの開閉は電気式スイッチで行うのも共通だ。充電口はフロントグリル中央のエンブレム部分を手動で開き、普通充電のみの対応となっている。
「宏光Mini EV」でユニークなのが電動モーターの取り付け方だ。なんと後輪駆動用のデフギアボックスにダイレクトに電動モーターを取り付けているのだ。元々、ベース車はフロントにエンジンを備えたFR方式であり、プロペラシャフトが通るスペースはバッテリー収納用として活用している。
つまり、「宏光Mini EV」は、ガソリン車で活用していたシャーシや部品を上手に組み合わせることでEV化を実現した。こうした徹底したコスト管理があったからこそ、この驚異的な低価格は実現できたとも言えるだろう。
シティコミューターとして学ぶべき点は多い
車内は大人2人がゆとりを持って着座できるスペースが確保されていた。これは横幅が軽自動車を超える寸法であることや、天井が高めに設定されていることが大きい。また、ダッシュボードの手前が低くデザインされていることもその一因だろう。
一方で運転席に座ると前輪のタイヤハウスの出っ張りが大きく、アクセルやブレーキペダルが助手席側に大きくシフトしている。この状態で長時間走るのは疲れやすいかもしれない。また、後席は軽ボンネットバン並みの広さしかなく、おそらく前席に乗車して後席はカーゴスペースとして利用することを想定しているのだと思われる。
メーターは液晶パネルを採用し、シフト操作はダイヤル式とするなど、その仕様はEVらしさが伝わる仕様だ。パワーウインドウは前ドア左右に装備。オーディオ系はラジオが備わるだけのシンプルさだが、USB端子を備えているので、充電やスマホ内の音楽を再生できる可能性もある。その一方で電源スイッチは昔ながらのキーを差し込んで回す方式で、このアンバランス感もコスト削減の一環なのかもしれない。
こうした「宏光Mini EV」の手法は日本メーカーにとっても参考になる部分が多い。これまでEVは”ファーストカー”として航続距離を長く延ばすことに注力してきたが、バッテリーを多く積めば重量も増え、その重量物を運ぶために無駄な電力を消費することにもつながる。
そうした状況を踏まえれば、むしろEVは少ないバッテリーでシティコミューターとして普及させる方が身近な存在として普及もしやすい。それにより普及が進めば結果として脱炭素社会へアプローチとして賢い方法なのではないか。「宏光Mini EV」の取材ではそんなことを改めて気付かされた次第だ。