「カピバラ」|第8回アニマル”しっかり”みるみる
世界中から集まったさまざまな動物たちを、間近で見て・感じられる施設がサファリパーク。そんなサファリパークで動物たちの世話をする飼育員さんに、知っておくとちょっぴり動物通になれるポイントを、 "しっかり" ご指導いただきました。富士山の自然豊かな環境にある富士サファリパークの動物ふれあい課飼育担当の麻和さんに、「カピバラ」を解説してもらいました。
頭の上側に配置されている、目と鼻と耳
カピバラは、体長1m超で体重は50~60㎏に達する個体も多く、いったい何の動物の仲間なのか分かりにくくありませんか? 実はげっ歯目に属する「ネズミ」の仲間。世界最大のげっ歯目の動物です。
プールや風呂にのんびりと浸かっている姿が印象的でなんともユーモラスですが、カピバラが水に浸かる行動をとるというのも無理のないことなんです。というのも南アメリカ北東部を中心にした池、川、森林の湖、湿地などの水辺で生活している動物だからです。当然泳ぎは得意で、外敵に遭遇するとしばしば水中に逃げ込みます。また水の中で排泄をしたり、交尾も行います。
ちなみにカピバラの食性は完全な草食で、木の皮、根、草の葉や茎などを食べています。南アメリカの生息地域でのカピバラですが、農業が行われているところでは栽培する野菜や果物を食べてしまうことで害獣扱いされる場合もあるそうです。
そんなカピバラの顔を一度じっくり観察してみてください。目、鼻、耳の感覚器官が頭部の上側(高い位置)に、水平に一直線上に並んで配置されていることが分かります。顔のバランスが崩れるこの配置っていったい何のためなのか・・・?
「水の中に体全体を沈めてしまっても、水面の上に顔をちょっとだけ出してさえいれば、外の状況がつかめるようになっています」(※麻和さん以下同)
こういった顔の配列は、カバやワニなど水に潜る暮らしをする動物に共通する特徴だそうです。「カピバラの観察ポイントは、水の中の暮らしに適応した体のつくり」なのですね。例えば鼻。潜水するときには、水が中に入らないように鼻の穴の内側の筋肉が扉の役目を果たし上下に閉じてしまいます。耳(耳介)も、水が中に入ってこないように体にぴったりくっつけることができます。
前足には4本、後ろ足には3本の指があり、指と指の間には小さな水かきがついています。その水かきによって水中でうまく泳ぐことができます。しかも「カピバラは5分程度の潜水ならできる(諸説あり)」そうですよ。
そして体毛です。「竹箒(たけぼうき)」とか「タワシ」と表現されるくらい、長くて非常に硬い毛が生えています。カピバラはその硬い体毛を筋肉を引き締めて立たせることができます。「体毛の密度は低く、水で濡れても体を震わせるだけで立った硬い毛で水を簡単に弾くことができるので、体が乾きやすくなっている」のだそうです。
水に入るのが好きだから雨は得意と思われがちですが、「実は苦手。雨の日は雨宿りをする姿がよく観察できます」とのこと。雨で体が冷え過ぎてしまわないように気を付けているのだそうです。
ネズミらしいところとらしくないところが混じっている!?
カピバラは、「ネズミ」特有の大きくて鋭い前歯を持っており、生涯伸び続けます。自分で硬いものをかじってちょうどよい長さに保っています。ネズミにあるような長い尾はカピバラにはありません(尾骨はある)。なので「尻尾がないんだ」といわれることがしばしばあるそうです。どうやらカピバラは、ネズミらしいところと「らしくないところ」が混じっているようですね。
またカピバラのオスには特有の「モリージョ」と呼ばれる臭腺があります。鼻の上あたり、目と目の間にある長い卵型のこぶのような突起(個体によっては目立たない場合もある)、これがモリージョ。自分のなわばりを示したり、メスへアピールするためにこのモリージョから分泌される液体をさまざまなところにこすりつけます。モリージョのことを知らなければ「鼻の上にただ汗をかいているように見えるかもしれません」。
飼育員によって、顔つきが変わる!?
さてその性格ですが、「基本的には穏やかな性格で、人に懐きやすい動物。しかし、外敵やなわばり争いになる相手がいないかなど常に警戒心が強く、臆病な面もある」とのこと。
のんびりしているイメージがあるカピバラですが、実はとても速く走ることができます。「オス同士のなわばり争いが起こったときや、やってはいけないことをして『ダメだよ』と叱られると、それが怖いのか走って逃げる」そうです。人間が追いかけようと思っても追いつかないくらい速く、時速40㎞くらいは出るとのことで、「目撃した人はビックリすることが多い」そうです。
最後に、カピバラあるあるについても伺ってみました。
その1、相対する飼育員によって顔つきが変わること。例えばカピバラにとって怖い存在の飼育員だったり、苦手な飼育員に相対すると、「明らかに顔つきが変わります。のんびりした顔からキュッと表情が硬くなる」のだそうです。顔の表情のちょっとした変化に気がつくことができるのは飼育員さんならではですね。
その2、2本足で立ち上がること。園内にある大きな木の葉を食べようと必死にのび上がって、「数秒間だけど、前足をあげて後ろ足だけで立っている」ことができるんだそうです。
その3、お尻をマッサージしてあげると寝転ぶこと。「しばらくの間やり続けることがコツ」だそうで、お尻をグリグリしてあげると気持ちよくなってごろんと寝転がってしまうそうです。