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最終更新日:2020.02.19 公開日:2020.02.19

ホモロゲの先輩たち、1990-2000年代のWRCホモロゲモデルPart1GRヤリス&パルサー編

東京オートサロン2020で発表されたGRヤリスは、トヨタがWRC出場に必要なホモロゲーションを取得するために販売するハイスペックなクルマだ。このようなクルマが、日本の自動車メーカーから販売されるのは久しい。しかし1990年-2000年代はこのようなクルマが各社から販売されていた。

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ラリー出場のために生産されたハイスペックマシン

GRヤリスの先行予約限定モデルである特別仕様車RZ “High-performanceFirst Edition”(オプション装着車)

 GRヤリスは、TOYOTA GAZOO RacingがWRCに参戦するために生産・販売する「ホモロゲーション・モデル」だ。この「ホモロゲーション(Homologation)」とは、モータースポーツを国際的に統括する機関であるFIA(国際自動車連盟)が定める「車両公認」のことで、WRCベース車両には連続する12ヶ月間に25000台以上の生産台数が必要とされている。

 市販車をベースとしたラリーやツーリングカーレースなどのカテゴリーでは、ベース車両の適性や改造できる範囲が厳密に定められている。市販車でラリーやレースに参戦するためには、万が一のクラッシュなどに備えて安全装備を施す必要があるため、FIAや、FIAに加盟するJAF(日本自動車連盟)などでは、安全かつ公平にモータースポーツが行えるように様々な車両規則を定めている。

 モータースポーツに適したベース車両の条件としては、安全で軽量、かつハイパフォーマンスであることが求められる。そのためGRヤリスには、標準仕様のヤリスから大幅なパフォーマンスアップがなされており、標準車の5ドアに対して3ドアに変更したり、バンパー開口部の拡大やフェンダーのワイド化がなされ、高出力エンジンの搭載や、駆動方式もフルタイム4WD化されている。

 もちろん、市販状態のままでモータースポーツに参戦できるわけではなく、チームやコンストラクターがFIAやJAFが定めた車両規則に則って安全装備を施し、さらなるパフォーマンスアップを図るアフターパーツを装着して、競技専用車両を作り上げる作業が残されている。

 このように、実際のモータースポーツ参戦にあたっては、参戦カテゴリーに適した改造や加工を行う必要があるため、後の改造や加工がしやすいように、モータースポーツベース車両には、できるだけボディの軽量化や装備の簡素化が求められるのだ。

 トヨタ自動車はGRヤリスに対して、WRCを「勝ち抜く」ために生まれたホモロゲーション・モデルであることを謳っている。かつて日本の自動車メーカーには、四輪駆動に高出力なターボエンジンを組み合わせたホモロゲーション・モデルが数多く存在していた。高性能なモータースポーツベース車両の選択肢が少なくなってきた昨今、GRヤリスには業界から大きな期待と注目が集まっている。

CFRP製ルーフパネルも装備するGRヤリス

 ホモロゲーションモデルであるGRヤリスは、WRCで勝つために通常のヤリスと違うところが数多くある。例えば、ボディは5ドアハッチバックから、3ドアハッチバックに。エンジンに、インタークーラー付きターボチャージャーが追加され、駆動系はスポーツ4WDシステム「GR-FOUR」に変更されている。

 クルマのボディも全高は低く、全幅はワイドに変更され、軽量化のためにルーフパネルはCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製を採用している。

ノーマルの全幅1695mmから1805mmに拡大したGRヤリス。全高は1500mmから1460mmに下げられているため、ノーマルと後ろ姿のフォルムが大きく異なる。ルーフの黒い部分がCFRP製。

GRヤリス特別仕様車RZ”High-performanceFirst Edition”主要諸元

販売時期:2020年夏頃 予定価格456万円(税込)
型式:未発表
全長×全幅×全高:3995×1805×1460mm
ホイールベース:2558 mm
車両重量:1280kg
乗車定員:4
エンジン:直列3気筒DOHC直噴 インタークーラー付きターボチャージャー
エンジン型式:G16E-GTS
排気量:1618cc
最高出力:200kW272PS
最大トルク:370Nm37.7kgfm
トランスミッション:6MT
駆動方式:電子制御4WD
LSD
:トルセンLSD+電子制御多板クラッチ
サスペンション(前、後):マクファーソンストラット式、ダブルウィッシュボーン式
ブレーキ(前、後):ベンチレーテッドディスク、ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(前、後):225/40ZR18225/40ZR18

 1990年代には、セリカ、ランサー、インプレッサなどのWRCのためのホモロゲーションモデルが各社から販売されていた。

1990年-2000年代はWRCホモロゲーションモデルが毎年販売

 1973年にFIA(国際自動車連盟)は、各国で行われていたラリーイベントを1つのシリーズ戦に統括して、世界選手権とした。それがWRCだ。ラリーは市販車を改造して行われるカテゴリーだったため、自社のクルマが高性能かつ高い耐久性を持つことをアピールできる場として、欧州や日本だけでなく米・露・韓など各国の自動車メーカーが参戦している。

 日本の自動車メーカーが大挙して参戦するようになったきっかけとなったのは、1987年から始まったグループAと呼ばれるレギュレーションだ。

 このグループAのWRCで勝つには、2リットルのターボエンジンと4WDが不可欠だった。さらにホモロゲーションの年間生産台数が5000台以上(1993年からは2500台)だった。この時代は、現在よりも市販車を改造できる範囲が限られており、ホモロゲーションモデルの性能の高さが勝利に直結していた。

 そんなグループA時代にWRCを制覇したトヨタ、スバル、三菱の3社は、 “超”といっても過言でないくらいの高性能なホモロゲーションモデルを数多く販売した。そんなGRヤリスの先輩にあたる日本車のホモロゲーションモデルをまとめて紹介しよう。

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日産がWRC制覇を目指したパルサーGTI-R

日産がWRC制覇を目指したパルサーGTI-R

日産パルサーGTI-Rの外装は、エンジンフードにインタークーラーのための巨大なパワーバルジ(膨らみ)とエアスクープが設けられ、リアには大型スポイラーが装備された。

 1990年代のWRCホモロゲーションモデルの先陣を切ったのは日産だった。日産はブルバードやフェアレディZなどで、WRC以前の1950年代からオーストラリア、サファリなどのラリーに参戦していた。ちなみにWRCで初めて優勝した日本車は、日産フェアレディ240Z。1973年の東アフリカサファリラリーで優勝している。

1971年東アフリカサファリラリーに参戦するフェアレディ240Z。後ろにはパーツを満載したサポートカーが見える。このころのサファリラリーでは、太陽光の反射によって目が眩むことを防ぐために、エンジンフードをつや消し黒に塗装していた。写真:日産

 フェアレディ240Zの後に、ブルバード、バイオレット、シルビア(240R)とベース車を変えながらWRC以前のラリーへ参戦していた。そして1990年にWRC戦線へのベース車として選ばれたのが、4代目パルサーだった。

日産パルサーGTI-Rの室内。センターコンソールには、油温、油圧、ターボブーストの3連メーターが装備される。ハザードスイッチなどの下にあるのは、エアコンではなくヒーター。

 パルサーのホモロゲーションモデルとして19908月に販売された最強グレードが「GTI-R」。3ドアハッチバックボディに、エンジンは2リットル直列4気筒インタークーラー付きターボチャージャーを搭載。駆動系には、アテーサと呼ばれるフルタイム4WDにビスカス式LSDを装備。加えて標準装備にエアコンとオーディオが”ない”という、まさにラリー専用という割り切ったものだった。

日産パルサーGTI-R主要諸元

販売時期:19908月 当時新車価格227万円(税抜)
型式:E-RNN14
全長×全幅×全高:3975×1690×1400mm
ホイールベース:2430 mm
車両重量:1220kg
乗車定員:5
エンジン:直列4気筒DOHC16バルブ インタークーラー付きターボチャージャー
エンジン型式:SR20DET
排気量:1998cc
最高出力:169 kW230PS
最大トルク:284.4Nm29.0kgfm
トランスミッション:5MT
駆動方式:4WD
LSD
:ビスカス式
サスペンション(前、後):ストラット式、パラレルリンクストラット式
ブレーキ(前、後):ベンチレーテッドディスク、ディスク
タイヤサイズ(前、後):195/55R14195/55R14

 WRCでのパルサーは、フロントヘビー過ぎて思うようなコーナリングができない、エンジントラブルが多いなどで不振が続く。日産はフロントヘビーという欠点を克服できずに、パルサーによるWRC参戦は1992年で終わらせた。

1992年モンテカルロラリーを走るパルサーGTI-R。写真:日産

次回、Part2はセリカ&ファミリア編

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