【JNCAP2019前期】衝突安全ランキング
2019年度前期のJNCAP(自動車アセスメント)で、衝突安全性能評価試験を受けた4車種の結果が発表された。その得点順にランキングにして掲載。また、実際にクラッシュさせる、過酷な衝突安全性能評価試験の動画も全車ともに掲載した。
JNCAP2019年度後期が2020年5月27日に発表されました。2019年度後期の衝突安全性能についての記事はこちらからご覧ください。
衝突安全性能評価は2018年度から得点の算出方法が大きく変更
衝突安全性能評価は、得点の算出方法が2018年度に大きく変更した。衝突安全の性能評価試験は、大別して乗員保護と歩行者保護、そしてシートベルト着用警報装置の3種類がある。2011年度から2017年度までは、乗員保護と歩行者保護は同等に取り扱われ、どちらも100点ずつ。そこにシートベルト着用警報の8点を加えた合計208点満点だった。
しかし2018年度からは乗員保護に重きが置かれて全59点、歩行者保護が全37点、シートベルト着用警報が全4点という配分で、合計100点満点となった。2019年度も同様である。
試験内容の詳細
試験内容は大別して3種類あることを説明したが、歩行者保護と乗員保護はその中でさらに複数の試験が用意されている。
【歩行者保護性能評価:全37点】
●頭部保護性能試験(0~32点)
歩行者がクルマにはねられて車体に乗り上げ、頭部をボンネットやフロントウインドーなどに打ちつけたことを模擬した試験だ。頭部インパクタを試験対象車のボンネットなどに時速40kmで衝突させ、衝撃点における頭部の傷害値を計測。傷害の程度は5段階で評価される。
●脚部保護性能試験(0~5点)
歩行者がクルマにはねられ、歩行者の脚部がバンパーなどに衝突したことを模擬した試験だ。脚部インパクタを試験対象車のバンパーに向けて時速40kmで衝突させ、衝撃点におけるヒザやスネの傷害値を計測。脚部の傷害の程度は5段階で評価される。
【乗員保護性能評価:全59点】
●フルラップ前面衝突試験(0~21点)
同じクルマ同士が正面衝突したことを模擬した試験。試験対象車を時速55kmでコンクリート製のリジッド・バリアに正面衝突させ、運転席と助手席に載せられたダミーの頭部や胸部などに受けた衝撃と室内の変形をもとに、乗員保護性能の度合いが評価される。
●オフセット前面衝突試験(0~21点)
衝突を避けようとして、クルマの運転席側半分が対向車に衝突したことを模擬した試験だ。アルミハニカム製デフォーマブル・バリアに対し、試験対象車を時速64kmで運転席側の一部(オーバーラップ率40%)で前面衝突させる。乗員保護性能の度合いの評価はフルラップ前面衝突試験と同じだ。ただし、ダミーの搭載位置は運転席と後席左側。
●側面衝突試験(0~15点)
1300kgのクルマが側面に衝突してきたことを模擬した試験。静止状態にある試験対象車の運転席側の側面に、重量1300kgの台車(先端にアルミハニカム製デフォーマブル・バリアを装備)を時速55kmで衝突させる内容。側突用ダミーを運転席にのみ載せ、ダミーの頭部や胸部などに受けた衝撃と室内の変形をもとに、乗員保護性能の度合いが評価される。
●感電保護性能評価試験(点数なし)
ハイブリッド車ならびにEVが衝突事故を起こした際に、乗員や救助者が高電圧部分に触れても感電しないことを評価するための試験。ガソリン車に対しては行われないため配点はなく、評価基準に適合したクルマは得点ではなくマークで表される。
●後面衝突頸部保護性能試験(0~2点)
停車中のクルマに後方から時速36kmでクルマが衝突した際の衝撃を模擬した試験。後面衝突を再現できる衝撃試験装置(HYGE)の台上に、試験対象車の運転席また助手席シートを取り付け、ダミーを座らせて時速20kmで急激に前方に射出する。これにより衝突時の衝撃(急激な速度変化など)を再現し、その時にダミーの頸部が受ける衝撃をもとに、頸部保護性能が評価される。
【シートベルトの着用警報装置評価:全4点】
運転者以外の搭乗者にシートベルト着用を促す装置の評価を行う。試験においては、装置の警報の種類やタイミング、表示位置などの作動要件が確認される。
2019年度前期の衝突安全性能評価試験を受けたのは全4車種
今回試験を受けたのは全4車種で、内訳は以下の通りだ。
【ダイハツ】
●タント/タント カスタム(※1)
【ホンダ】
●インサイト
【レクサス】
●NX
●UX
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いよいよランキングを発表!
82.0点以上を獲得すると最高評価の「ファイブスター賞」が与えられる
衝突安全性能は、100点満点で評価される。そして獲得した点数によって与えられる★(スター)の数が変わり、82.0点以上は最高評価の★が5つの「ファイブスター賞」となる。ただし、シートベルトの着用警報装置評価を除いた試験で、5段階評価のレベル4以上を獲得していないと、ファイブスター賞は得られない。詳細は以下の通りだ。
82.0点以上:★★★★★(ファイブスター賞)
72.5点以上82.0点未満:★★★★
63.0点以上72.5点未満:★★★
53.5点以上63.0点未満:★★
53.5点未満:★
第1位:インサイト(ホンダ)
合計:87.5点 ★★★★★
●歩行者保護:29.84点 ●乗員保護:55.17点 ●シートベルト:2.50点 ●感電保護性能適合
2018年12月14日に発売を開始した2モーター・ハイブリッドシステム搭載のミドルセダン「インサイト」(3代目)。同車は歩行者保護性能が今回の4車種中で最も評価され、それが1位獲得の原動力となった。高い歩行者保護性能を実現しているのが「ポップアップフード」だ。フロントバンパーに内蔵されたGセンサーが歩行者との衝突を検知すると、すぐさまアクチュエーターがボンネットを10cmほど持ち上げ、エンジンルームに空間を確保。歩行者が頭部を打ちつけた際に、衝撃を緩和する構造となっている。
第2位:UX(レクサス)
合計:87.3点 ★★★★★
●歩行者保護:27.86点 ●乗員保護:56.95点 ●シートベルト:2.50点 ●感電保護性能適合
2018年11月27日に発売となったレクサスの新型車「UX」は、都会派のコンパクト・クロスオーバーSUVだ。TNGA(Toyota New Global Architecture)コンセプトによる「GA-C」プラットフォームを採用。さらに、スポット溶接の欠点を克服したレーザースクリューウェルディング技術や構造用接着剤の使用部位を拡大し、ドア開口部には環状構造を採用することで、ボディの高剛性化を実現した。これらにより、乗員保護性能は4車中最高の56.95点を獲得し、合計得点では0.2点という僅差での2位となった。
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続いては3~4位!
第3位:NX(レクサス)
合計:85.9点 ★★★★★
●歩行者保護:29.10点 ●乗員保護:54.80点 ●シートベルト:2.00点 ●感電保護性能適合
レクサス初のコンパクト・クロスオーバーSUVとして、国内では2014年7月29日に発売された「NX」。搭乗者を保護するためキャビンの強度を確保しつつも軽量化を図るため、フロントピラー、ルーフレールなどのフレーム部材の随所に高張力鋼板(ハイテン材)が使用されている。また、フロアメンバー、ドア、ピラーなどで荷重を分散させる衝撃吸収構造とすることで、全方位からの衝突に対して安全性を確保している。ちなみに、TNGAプラットフォームは当時まだ開発中で、「NX」には採用されていない。
第4位:タント/タント カスタム(※2)(ダイハツ)
合計:80.2点 ★★★★
●歩行者保護:27.6点 ●乗員保護:49.58点 ●シートベルト:3.00点
2019年7月9日に4代目が登場したダイハツのトールワゴン「タント」(「タントカスタム」は上級モデル)は、ダイハツの衝突安全ボディ「TAF(※3)」を採用。フロントサイドメンバーを高効率エネルギー吸収構造にするのと同時に、最適化・合理化が行われたフレーム構造により、軽量化と衝撃吸収性能の向上、そしてより強固なキャビンを実現した。また「タント」の助手席側のセンターピラーレス構造による強度・剛性の低下を防ぐため、超高張力鋼板を使用したピラーをドアに内蔵。それらにより、運転席側と同等の強度・剛性を確保した。
必要な強度・剛性を確保するためにフレームを太く頑丈にすると、その分重量が増して走行性能が落ち、燃費も悪化してしまう。軽量でいて高強度・高剛性という二律背反が求められる中、エンジニアは創意工夫を凝らし、常にクルマを進化させているのだ。
素材の強度に応じて採用箇所を適切に細かく使い分け、フレームなどの形状や接合方法なども改良が重ねられることで、クルマは軽量化を達成すると同時に万が一の衝突時に乗員や歩行者を守れるよう技術を高めてきた。衝突安全を実現するための技術は、衝突して初めてわかるものであり、普段はわかりにくい。しかし、そこには確かに技術の粋が結集されているのだ。
【お詫びと訂正】
公開時、「第4位:タント/タント カスタム」の得点に誤りがありましたので、正しい値に修正いたしました。お詫びして訂正させていただきます。